表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
28章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、その恐ろしくも冷たい視線に。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

333/592

聖女ちゃんと大地の残り香

「ルナはリョカと一緒じゃなくていいの?」



「はい、少し用事ができまして」



 ふ~んと返事をし、あたしは辺りを見渡す。

 この時間ならそれなりに暇している連中はいるだろうが、どうせなら硬い方がいい。

 セルネがいればセルネに頼むのだけれど、あたしと対峙した時、あの子は本当に耐えるだけになってしまう。それは少し申し訳ないような気がしてきた。



 それならクレイン……昨日相当無理していたし、難しいだろうか? 今日は一応学校には来たようだけれど、登校してテッカに休めと言われて保健室に連れていかれたらしい。

 でももう良くなっているかもしれないし……。



「……今日だけはクレインを放っておきなさいよ。あいつ動くのだって辛いはずなのに、無理して登校しているのよ。まあ、部屋に居づらいっていうのもあるかもだけれど」



「ヒナリアが常にくっ付いていますからね。あれではクレインさんも心休まらないですよ」



「ぶん殴ってきてあげようか?」



「止めなさいって。ああいや、あんまりしつこいようだったのなら頼むわ」



 あたしは短く返事をすると、改めて周囲に目を向ける。

 しかしあたしと目が合う奴はこぞってその目を逸らし、顔を引きつらせている。殴ってほしいのかしら?



「そういえばミーシャさんはどうして歩き回っているんですか?」



「殴る相手を見つけるためよ」



 周りにいた連中が弾けるように飛び出していき、あたしの視界から消えていった。やっぱ殴っておけばよかったわ。



「魔王かお前は」



「聖女よ」



 しかしこうも逃げられてしまうと、試したいことが全く試せない。

 昨日の戦いで、まだまだ改良の余地ありと思い至り、少し誰かに付き合ってほしかったのだけれど……。



「まあいいわ、ルナの用事を先に済ませましょう。あんたの目的地は?」



「え~っと……ああそちらです」



 ルナが指差した方向からタクトがやってきた。



「あら?」



 でもそのタクトの背から見知った気配があり、あたしは首を傾げる。

 あたしは彼の下に歩みを進めると、タクトは苦笑いを浮かべた。



「あ~っと、ミーシャ様、何か用事ですかい?」



「あたしが。というより、ルナが。よ」



「まあそうですよね」



 タクトが明らかに何かを背後に隠しており、あたしがため息をつくと、ルナがその後ろの女神(・・)に向かって口を開いた。



「テッド、良かったら顔を見せてください」



「……」



 タクトの背後からにゅっとテッドが申し訳なさそうな顔を出した。



「あ~やっぱり女神様だったですぜい」



「タクトさん、テッドがすみません。内弁慶……人見知りなので」



「いえいえ、なんかあっしのこと見ていたんで保護したんですけれど、何も話さなかったのでどうしたものかと思っていたところですぜい」



「テッドぉ、そこまで来たのならタクトに説明くらいしなさいよ」



「……あぅ、その、本当は、その」



「フィリアムはどこに?」



「学園に着いた途端、一目散に駆け出して行きました」



 両手で顔を覆うテッド。

 ああフィムがいないから、なにも出来なかったのね。

 多分フィムがいればちゃんと会話も出来たのだろうけれど、その頼りにしていたあの末っ子がいなくなって、でも勝手に帰るわけにもいかずに、とりあえず目的のタクトを見ていたところ保護されてしまったというところだろう。



 あたしはこの大人しい大地神を撫でてやる。



「あんたはなんて言うか、アシリアとフィムに振り回されてばかりだったのね」



「……はい」



「なまじ聞き分けが良い分、あの2人に比べて手間もかからないのがテッドだからなぁ」



 体をプルプルと震わせるテッドがなんとも哀れである。

 すると、そんな大地神を見ていたタクトがうんうん頷いた。



「なんか親近感湧くですぜい」



「いや、あんたのことを昔みたいに影薄いなんて言う奴はもういないわよ。魔物生で食べるような奴はイカれてるって言うの」



「――っ!」



 しかし今の話を聞いたテッドがばっと顔を上げた。



「あ、あの! お、美味しかったですか!」



「……」



 あたしはつい、呆けた顔をテッドに向けてしまう。

 何を言い出すのだろうかこの娘は。



「ええ、とても美味かったですぜい!」



「で、ですよね! あたし、魔物は生で食べても美味しいように工夫したんです!」



 あたしとアヤメ、ルナはスンと真顔で、キラキラと魔物生食談義を繰り広げる2人を見つめた。



「工夫? あの、そのテッド様? は一体何の女神様ですぜい?」



「あ、て、テッドで大丈夫! あの、あたしはその、タクトくんにその、ぎ、ギフトを」



「え、あっしに?」



 一所懸命に話すテッド、この場にリョカがいたらあの子はきっとこの大地神に抱き着いていただろう。どうにもいじらしい。



 そんなタクトがあたしたちに視線を向けてきた。どういうことなのかを聞きたいのだろう。

 しかしルナは首を横に振った。



「テッド、まああの様子じゃまた機会はあるでしょうが、形式的にはタクトさんが最後の信徒です。自分で説明できますよね?」



「……」



 テッドが頷き、身振り手振りを交えてタクトにグエングリッターで起きたこと、そして今の自分の状態を口にした。

 タクトはそれをうんうんと、真面目に彼女の目を真っ直ぐに見て聞いており、そして大地神の話を聞き終えた彼は思案顔を浮かべた。



「あの、こんな状態の、あまり力のない形だけの女神ですが、その……」



「あっしは女神さまたちのあれこれはよくわからないですけれど、むしろそんな大事な信徒に、あっしを選んでも良いんですかい?」



 照れたように頭を掻きながらそう言うタクトに、テッドが一度顔を伏せ、彼の袖をチョンと掴んだ。



「……あたしじゃ、だめぇ?」



「ん~~~~」



 瞳いっぱいに涙を携えたテッドがタクトを見上げて言い放つと、魔物を携える彼は初めて向けられただろう女神の全力勧誘に体の動きを止めた。



「……おいルナ、あれが全くあざとくない天然100%由来の可愛さだぞ」



「わたくしの得意分野ですっ」



 あたしはふと疑問を覚え、舌打ちをするアヤメにコソと耳打ちする。



「でもテッドは一体どうやってギフトを渡すのよ? ラムダに渡しちゃったわよ」



「そういやぁそうだな」



「ラムダ捕まえてくる? 学園にいるみたいだし」



「……ああいや、こっちを使えばいいわよ。ほれミーシャ、手」



 あたしは首を傾げて手を差し出したアヤメの手に、自分の手を重ねる。



「テッドがいない間俺が使ってた大地の権能、それだけ引っ張り出しなさい」



 あたしは頷き、アヤメの手を握りながら深く瞑想する。

 以前アヤメの信仰を追ったように、深く深く彼女の中からテッドと同じ匂いを探す。



 ある程度深く潜行すると、欠片のような大地の匂いを見つけ、それをフォーチェンギフトで引っ張り出した。



「これでいい?」



「うい、完璧」



「いやミーシャさん、さも当然のように女神の中から異なる物を取り出さないでください」



「ほれテッド、これだけあれば加護も引き出せるでしょ。特権は……まあ使えないけれど、このくらいの力なら許容範囲でしょう」



「アヤメ様、いいんですか?」



「もう俺は使わないもの。その力でフィムとラムダの助けになってあげなさい」



 末の女神らしく愛らしく頷くテッドにアヤメが微笑んだ。

 こう見ると神獣もお姉さんらしく見えるのだけれど、長くは続かないでしょう。



「タクト、そいつは俺たちの末っ子3人のうちの1人でな、そりゃあもう女神全員がそれなりに気にする程度には愛情込めて育てた。紆余曲折あって真っ当な信徒は1人もいない。その意味、よく噛みしめろよ」



「……」



 タクトが不安げな顔で見上げるテッドの頭に手を置き撫でた。

 そして大きく息を吸うと、息を吐き出すと同時に姿勢を正し、自分の胸を叩いた。



「不肖このタクト=ヤッファ、テッド様の想い、しかと受け止めましたぜい! まだまだあっしは半人前ですが、大地神様のために励むですぜい!」



「おう、よろしくやってあげなさい」



「……アヤメ、拾い食い――」



「してないわよ!」



 ルナがアヤメの額に手を当てており、そんな2人を横目に、テッドがタクトの体に手を添えた。



「加護とギフト、いっぺんに渡すね」



「うっス!」



 タクトの体が光を発し、加護とギフトの付与が終わった。

 彼は手を握ったり開いたりを繰り返し、女神の力を確認していた。



 けれど実際に使ってみなければわからない。

 あたしは口角を上げて、タクトに目を向ける。



「ちょうどいいわ。タクト、あんたギフトの確認がてらあたしに付き合いなさい」



「……うぃッス、お願いしますですぜい」



「あんたのそういう思い切りのいいところ、あたしは結構好きよ」



「恐縮ですぜい」



 肩を竦めるアヤメが横目に映るけれど、これ以上都合のいい相手はいないだろう。

 あたしはタクトと肩を並べ、歩みを進めるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ