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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
28章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、その恐ろしくも冷たい視線に。

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魔王ちゃんと親子を語るパパ魔王

「あ~……とはいえ気が重い。お母様怒ってるだろうなぁ」



 お昼休みになり、昼食も食べ終えた僕は用があると言うミーシャとルナちゃん、アヤメちゃんと別れ、1人校内をふらふらしていた。



 そんな僕の頭には相変わらずお母様とのことで頭がいっぱいで、何度目になるかわからないため息を顔を伏せてついた。



 しかしふと聞きなれた声が聞こえ、僕が顔を上げると、その小さな影が飛び込んできた。



「リョカお姉ちゃんっ!」



「っと、エレノーラ」



 僕はエレノーラを抱きとめ、元気いっぱいに引っ付いてくる彼女を撫でた。

 すると奥からロイさんが小走りでやってきて、僕と目を合わせた。



「すみませんリョカさん、エレノーラ、あなたを見つけたと思うと、すぐに飛び込んでいってしまって」



「いえいえ~、丁度癒しが欲しかったので、エレノーラばっちこいですよ」



 エレノーラの頬をふにふにとこねながら僕は答えるのだけれど、ロイさんとエレノーラの全身をまじまじと見てしまう。



「……あの、リョカさん?」



「ああ、ごめんなさい。見慣れない衣装だったのでびっくりしちゃって。2人ともよく似合っていますよ」



 ロイさんは普段の神官服ではなく、正装に身を包んでおり、シュッとしている男性だとは思っていたが高貴な貴族のような雰囲気にどうにも息を飲んでしまう。

 エレノーラもパジャマのような私服から一変してカジュアルなドレスを着ており、髪も整えられていた。

 しかしこの髪、ロイさんがやったのか少しだけ雑に整えられている箇所があり、僕は苦笑いを浮かべ、中庭の一角に現闇で椅子を1つ出すと、そこに彼女を座らせ、一度適当に結ばれた髪を解いた。



「ロイさん結構ぶきっちょですよね」



「いえ、その、女の子の髪をどう扱うのかがわからなくて」



 僕は声を漏らして微笑み、エレノーラの髪をその場で作りだした櫛で梳いていく。

 相変わらずふわふわなくせっ毛だけれど、髪質自体はよく、よく手入れされたキラキラな髪。

 ゴムなどで纏めても良いけれど、せっかくくせっ毛でも可愛いのだから、ここは――。



 僕はアストラルフェイトの要領で、現闇に命の鐘の魔王オーラで生を与え、適当な素質をでっちあげ、ロップイヤー付きのカチューシャを生成する。



 目にかかっている髪を後ろにやり、カチューシャを付けて、背後からエレノーラに鏡を見せる。




「こんな感じでどうかな?」



「わ~、お耳?」



 エレノーラがカチューシャから垂れているウサ耳を手に持って首を傾げる。

 この世界に、私の世界にいたようなウサギはいない。でも可愛いものはどんどん取り入れていくべきだろう。



 エレノーラが椅子の上で上機嫌に脚を揺らすと、それに合わせるように頭のウサ耳もピコピコと動く。



 彼女があまりにも可愛らしいから撫でていると、ロイさんが何か言いたげにしていた。



「……現闇に素質はないはずなのですがね」



「え~、ロイさんも出来ると思うけれどなぁ。大地から芽吹いた子たちにだってそれぞれの素質があるはずでしょう? その子たちそれぞれの大地の魂の極光(プラネテスフェイト)だって存在しているはずだよ」



「なるほど、試してみましょう」



 そんなことを話し、僕とロイさんで和やかに笑っていると、遅れてやってきたラムダ様がえも言えぬ顔で動きを止めていた。

 僕はラムダ様に手を上げると、彼女が呆れた顔で近づいてきた。



「いや2人とも、姪っ子の加護の安売りをしないでおくれ。それとフィムが頭抱えてる」



「フィムちゃんの加護、すっごい使いやすい」



「こんな使われ方、どの女神も想定してないんだけれどねぇ」



「これでまた1つ、女神さまたちのお役に立てます」



「……君たちが本当に女神を愛してくれる信徒で安心するよ」



 頭を抱えるラムダ様だったけれど、エレノーラが椅子から下りて抱き着いてからは表情も柔らかくなり、特に気にしないことに決めたようだった。



「っとそうだった。ロイさんたちはどうして学校に?」



「ああ、ヘリオス先生から必要書類や学校案内を受け取った帰りなのですが、彼から良かったら学園を見学してはと提案されまして、それでこうして歩き回っていたのですよ」



「なるほど。それなら僕が案内しますよ」



「いいのですか?」



「もちろん。僕も気分転換したかったので、良ければ付き合ってくださいな」



「気分転換、ですか?」



「あ~……うん」



 ジッと見つめてくるロイさんから顔を逸らし、僕は苦笑いを1つ。



「そういえばリョカちゃん、昨日からずっと母親から逃げ回っているみたいだねぇ。天下の魔王様も母親には弱いんだね」



「ああ、昨日の。その、聞いていいのかわかりませんが、仲が良くないのでしょうか?」



「え? ううん、お母様のことは結構好きだよ。ただその……」



 僕は視線をあちこちに動かし、頭を抱えたり鼻の頭を撫でたりしながら、最後には諦めたようにロイさんに話を始める。



「その、何も話してないの」



「何も?」



「……魔王になったこととか、今まで何をしてきたのか」



「あ~、なるほど」



「その、お母様って結構厳しくて、その、手が早いというか、げんこつが物凄い痛いというか、5歳くらいの時に国王様の銅像の上半分を砕いてその上で歌をうたった時は銅像ごと顔面叩きつけられて、そのまま銅像破壊したこともあったっけ」



「それはその――」



「ロイくん、これは言って良いことだよ。それはリョカちゃんが悪い」



「……はい、反省しております。とまあそれなりに幼少期に大地に叩きつけられた経験が多々ありまして、普通に怖いです」



「なるほど。親子というものも人それぞれなのですね。ですが」



 ロイさんがフッと笑みをこぼし、僕の頭に手を添えて優しく撫でてくれた。



「どれだけ力加減が誤っていようとも、お母様はあなたのことを大事に想ってくれていると思いますよ」



「そうかなぁ?」



「ええ、だってこうしてわざわざ会いに来てくれたのも、きっとリョカさんとミーシャさんからその話を聞きたいからではないですか? その話の結果、叱られることになるかもしれませんが、それだって、叱れる時に叱りたいから――いなくなってからでは、それも成せませんから」



 僕ははにかんだ顔をロイさんに向けることしか出来なかった。

 この血冠魔王の顔は誰よりも優しくて、少し寂し気だ。いやなことを思い出させてしまった。



 僕は頷き、ロイさんに礼を言った。



「ああそうだ、今日の放課後、ジブリッドの店に行くのですが、ロイさんとエレノーラもどうですか? そこで編入セットを揃えちゃいましょう。お父様もいるし、色々話を聞いてくれるはずですよ」



「でしたらお邪魔しますね。色々と気遣ってくれてありがとうございます」



「いいえ~。それじゃあ学園を回りましょうか」



「よろしくお願いします」



 そうして僕はエレノーラと手を繋ぎ、ロイさんとラムダ様を連れて学園を歩き出す。

 さすが世帯持ちだ、こうして話をしてだいぶ楽になった。

 怖がっても仕方がないし、覚悟を決めよう。

 僕はそうして、気持ちを新たに今日を過ごすことを決めたのだった。

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