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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
28章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、その恐ろしくも冷たい視線に。

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魔王ちゃんと怖いもの

「で、なにがどうなってこうなった?」



 ガイルの学園で割り振られた部屋にて、僕が金色炎の勇者の背後でカタカタ震えていると、その勇者様が呆れたように言った。

 僕とミーシャはダンジョン企画が終わった後、お母様の下には行かなかった。

 昨夜僕とルナちゃんはソフィアとカナデ、ランファちゃんを呼びよせ、朝までずっと一緒にいてもらっていたのだけれど、ミーシャとアヤメちゃんとはとりあえず分かれて隠れようという話になり、あの子たちがどこにいたのかは知らない。



「昨日突然呼び寄せられたから何かと思ったら、あなたでも恐ろしいものがあるのですわね」



「……嫌っているわけじゃないんだよ、普通に怖いだけ。それよりみんなごめんね、ソフィアなんか色々話したいこともあっただろうに、こんなことで時間を使わせちゃって」



「いいえ、リョカさんの珍しい顔も見られましたし、お話は次回お茶をしながらでも」



 僕がガイルの背中から手を伸ばしてソフィアを撫でると、この子は出会った時と同じようにはにかんで笑ってくれた。

 正直強くなったソフィアが、可愛さを忘れてはいないかと心配になったけれどどうにも杞憂だったようだ。



 しかし昨日あの後、ロイさんとエレノーラにも後日連絡することを約束してすぐに解散しちゃったけれど、もっと話していたかった。

 そもそもロイさんの前であれだけ格好つけた手前、まさか自分の母親から逃げているなど知ってほしくはなかった。

 そうして僕が深いため息とともに肩を落としていると、ミーシャの襟をネコのように掴んでいたセルネくんが終始顔を引きつらせていた。



「……ランファたちは良いよね、その様子じゃリョカたちと女子会していたみたいだし」



「一応聞いておきますけれどセルネ、まさかミーシャさんに手を」



「出せると本気で思ってる? よし寝るぞとベッドに入ったら突然鍵壊して部屋に入ってきて、ベッドに聖女と神獣様が入り込んできた俺の気持ちわかる?」



「えっとセルネ様、その、心中お察しします」



「ジンギもオルタもタクトもクレインもすっごい頑張ってたから起こすわけにもいかないし、だから俺外で寝たよ! 部屋の外で膝抱えてちょっと泣いたもん!」



 僕はガイルの背からスタスタと脚を進めて、セルネくんに持ち上げられているミーシャの頭を引っ叩いた。



「思春期男子になんていう拷問してんだ」



「セルネの部屋が一番手っ取り早かったのよ。さすがに男の部屋に潜んでいるとはおばさんも思わないでしょう」



「バレたら殺されるぞ!」



 僕とミーシャが頭を抱えていると、この状況を見守っていたガイルがソフィアに耳打ちしているのが見えた。



「あ~、リョカさんのお母様……ジブリッド家の奥さまですか。色々な話は聞きますけれど、その、私のお父様が話していたのですが、彼女――リーン=ジブリッドには逆らうな。と、お触れが出ているほどだそうで」



「強いのか?」



 ガイルがそんなどうでも良いことを疑問にした。

 僕とミーシャは顔を見合わせてあまりにも浅ましい金色炎の勇者に互いにため息をついた。



「ガイル、そういうことじゃないんだよ」



「あ?」



「いい? 僕とミーシャは幼い時にお母様にあらゆることを叩きこまれたの。勉強や礼儀作法、歴史やスキルのついての云々や社会の闇から何まで……」



「小さい頃はリョカのバカのせいであたしも散々げんこつを落とされたわ。それと昔言っていた言葉が今もあたしを支えているの。ミーシャ覚えておきなさい、顔面を殴れば大抵は解決するわと」



「元凶じゃねぇか!」



「お父様と違ってお母様は武闘派なんだよ。そのくせ経歴不明だし、お父様に聞いてもはぐらかされるし」



 以前僕はお母様について調べたことがある。もちろんただの好奇心だ。

 けれどどれだけ探っても情報は得られず、終いにはお母様にそれがばれてしまい、折檻された記憶が体を震えさせた。



 僕たちが辛気臭いため息をついていると、部屋の扉が叩かれ、ガイルがどうぞと声を上げた。

 しかし扉の先の気配に覚えがあり、僕とミーシャが揃って隠れようとするのだが、ガイルに捕まってしまい、部屋に入ってきたお父様を頬を膨らませてみた。



「まあそう睨むなリョカ、リーンはずっと待っているぞ……部屋に置かれた椅子から昨日から一切微動だにせずただ虚空を睨んでいるぞ」



「怖いよ!」



「あれは不器用だからな。おっとガイル殿、娘たちが騒がしくてすまない」



「いや、見てて飽きないぜ。それにしてもジークランス、あんた随分な女傑を嫁にしているそうじゃないか」



「ん? ん~……あれは女傑と言うよりボス(・・)ですよ」



「ラスボス的な空気感はあるよね~」



「ま~た引っ叩かれるぞお前」



 お父様に頭をグリグリされた僕は頬を膨らませた。



「今日学校終わったらちゃんとお母さんと話せ。そうじゃないとあいつ何日も飲まず食わずで待つぞ」



「……は~い」



「……うん」



「ルナとアヤメも、良かったら一緒にいてやってくれ。あいつ2人に会うのを楽しみにしていたぞ」



「……あ~はい」



「んぁ? ルナはリョカの母ちゃんのこと知ってるのか」



「あなたもよく知っていると思いますよ」



 首を傾げるアヤメちゃんだけれど、お母様は女神様に認識されるほどの人だったのか。

 お父様と顔を見合わせて首を傾げていたが、そのお父様が僕たちから離れて扉に手をかけた。



「それじゃあ俺はもう行くがくれぐれも頼んだぞ。暫くはこっちにいるから何もなくても顔を見せに来い」



「は~い。あ、お父様後で頼みがあるからよろしくね」



「わかった。ジブリッドの店舗に俺もリーンもいるから。それじゃあガイル殿、それにソフィアさんとランファさん……それとルーデル様、先ほど少し耳に入ってきたのですが、うちの娘と夜を共にしたとか、君もぜひ我が店舗に遊びに来ておくれ」



「……」



 そう言ってお父様が去っていくのだけれど、セルネくんだけ口をパクパクさせながら頭を抱え、ついにはその場にひざを折った。



 僕はミーシャと顔を見合わせた。



「まあ、そろそろ腹を括ろうか」



「そうね、おばさんの具合が悪くなったらあたしも嫌だし」



 そうして、僕たちは覚悟を決めて放課後お母様に会いに行くことを決めたのだった。

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