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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
27章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、自家製ダンジョンで暴れ回る。2

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魔王ちゃん、その脅威に立ち向かいたくない

「はい、よく頑張りましたね。これは些細な()ですが、きっとこの先もあなた方を守ってくれるでしょう」



 僕はこのダンジョンにおいて、優れた成績を残した数組のパーティの生徒それぞれに僕特性の武器を手渡し、これからも頑張ってほしいと告げた。



「……」



 いや何で僕が校長先生みたいなことしているんだ?

 観戦していた生徒やいつの間に現れたのか冒険者たちの鳴りやまない拍手の中、僕は微笑みを浮かべたまま、そんなことを考えた。

 それと教員一同、これお前らの仕事では?



 とはいえ、武器を受け取って嬉しそうにしているみんなを見て、僕はそっと肩を竦ませた。

 まあ細かいことは今は良いだろう。



 そうして武器を受け取った生徒たちが他の子たちにちやほやされているのを横目に、僕は壇上を降りた。

 するとヘリオス先生とロイさんが傍にやってきたのが見えた。



「お疲れ様リョカ=ジブリッド、教員がやるべきことまでやってもらってすまないね」



「いいえ~、まあ発案者兼実行委員ですから」



「今度何か埋め合わせをしよう。ところでリョカ=ジブリッド、あの優秀生徒の選抜方法は?」



「ああ、エリアボスを倒した子たちとロイさんに選んでもらった子たちです」



「皆さん頑張っていましたよ。そして何よりも楽しんでいたように見えました」



「それならよかった。ロイさんも裏方ありがとうございました。今度はロイさんでも楽しめるような企画を考えますね」



「ええ、ぜひ」



 しかしロイさんほどの実力者を混ぜるとなると、戦いで優劣のつくものは止めた方がいいのかもしれない。

 しかしそうなると納得してくれなさそうな人たちがたくさんいる……本当に脳筋が多いな僕の周り。



 僕がそうして悩んでいると、ロイさんが小さく頭を下げてきた。



「ん~?」



「ルナ様からお話を聞きました。私のために小麦を集めてくれていると」



「あ~……えっとその」



「もちろん受けさせていただきます。私の力があなたの役に立つのなら――」



「ああ違うそう言うのじゃないですよ。僕はただ、ロイさんにここからも始めてほしいだけです」



「ここから?」



「ええ――ねえロイさん、僕が睨みを利かせているこの国はとても良い国なんですよ。あなたの故郷を僕は知らない、今どうなっていて、そこでどんな思い出があるのかも知りません。でも、ここも負けていない」



「……」



「故郷を捨てろなんて言いません。だから僕はここも(・・・)って言うんです。ここをもう1つの故郷にしちゃいましょう。あなたが生きるこの国を、あなたがいるこの国で、ロイ=ウェンチェスターを、エレノーラと僕たちで生きていきましょう」



「――」



 ロイさんが僕に背を向けてしまい、そのまま小さく体を震わせているように見えた。

 僕は彼の背中から視線を外し、薬巻に火を点して煙を宙で遊ばせた。



 するとコソッとヘリオス先生が耳打ちしてきた。



「ならば、エレノーラ=ウェンチェスターの編入準備を急ぎます」



「ありがとうございます。よろしくお願いしますね」



 ヘリオス先生が爽やかな笑みを浮かべて去っていった。

 そうして薬巻を消して吸殻をトイボックスの中に放り込むと、エレノーラとジンギくんが駆け寄ってきた。



「リョカおね~ちゃ~ん」



 飛びついてきたエレノーラを優しく受け止め、その頭を撫でてやる。



「みゅうにぅあぅ」



「エレノーラ可愛かったよ」



 一般生徒パーティへの武具授与の前に、エレノーラとジンギくんを仰々しくみんなの前で紹介し、その時にも溢れんばかりの拍手が鳴っていた。

 そこでエレノーラは持ち前の愛嬌をこれでもかと振り撒き、他の生徒たちからのウケがとても良かった。



「ありゃ、お父様~?」



 そんなエレノーラがロイさんの姿を見つけ、飛び込もうとしたのだが、何かに気が付いたジンギくんが彼女を抱き上げた。



「あ、ああエレノーラ、あなたがあまりにも立派だったので、私の目の奥に刻み込んでいるのですよ」



「う、う~ん?」



「エレ~、男ってのはずっと覚えていたい光景をああやって時間をかけて飲み込んでいくんだよ。だから邪魔しちゃ駄目だぜ」



「男の人って難しいよね~」



「そういうもんだ」



 首を傾げるエレノーラを腕をゆすってあやしているジンギくんが、僕にウインクを向けてきた。

 本当に良いお兄ちゃんしているなぁ。と、僕も彼に笑みを返す。



「そういえばエレノーラとジンギくん、ほしいものはある? 僕であげられるものなら何でも用意するよ」



「う~ん、でもエレ、リョカお姉ちゃんに貰ってばかりだから」



「そんなこと言ったら僕ミーシャにあげっぱなしだからね。あの子は平気で肉って言うよ――」



 言い終わる前に頭にごつんと拳が落とされた。

 本来なら可愛く舌を出してテヘペロと拳を落とした張本人に可愛さを振り撒くところだけれど……ごめんちょっと三途リバーが見えてる。

 僕は涙目で振り返り、拳を落としてきた最近属性盛り盛りのゴリラケダモノドラゴン認知系聖女を軽く睨みつける。



「そこまで卑しくないわよ。せいぜい晩ご飯のおかず一品増やす程度よ」



「肉じゃないの」



「お肉ですね」



 月神様と神獣様からもお墨付きを貰った我らが聖女様だが、そんな言葉も右から左へ流し、ジンギくんの腕の中のエレノーラを撫でる。



「もらえるなら貰っておきなさい。ただでさえこれから色々なものが必要になってくるんだから、今の内に欲しいものは言っておきなさい」



「これから?」



「あんた学校に通うんだから、それ全部リョカに任せちゃえばいいのよ」



「――」



 エレノーラの瞳が輝きシイタケになった。

 すると背を向けていたロイさんの肩が一瞬跳ね、驚いた顔を僕に向けてきたからウインクを返した。彼は申し訳ない顔を浮かべたと思うと、すぐにはにかんだ顔を浮かべ、頭を下げた。



「わ、わっ! 良いのリョカお姉ちゃん?」



「もちろん、入学セット一式はうちでも扱っているし、その他にも可愛くなれる物も取り揃えておりますよ」



「わ~」



 エレノーラが夢見心地な顔を浮かべ始めたところで、ジンギくんが彼女を高い高いするように腕を伸ばした。



「おっ、エレも学園に通うのか? それなら俺とセルネ、ランファのクラスに来いよ。というかこれ以上リョカたちのクラスの戦闘力あげられると、いつかクラス対抗なんてやられた日には俺たちがひどい目に遭うからな」



「あんたも相変わらず後ろ向きね、そこはあたしの攻撃すら止めてみせるっていうところでしょう」



「お前自分の火力と向き合ったことある? ソフィアが出した盾を殴った時この世の物とは思えない音鳴ってたからな」



「クレインは耐えたわよ」



「お前二度とクラインに近づくなよ」



 頭を抱えているジンギくんにそれなりに同意だが、こればかりは先生たちの判断だろう。

 しかしこの権利は当然エレノーラだけではないので、彼にも尋ねる。



「ジンギくんは何か欲しいものはない?」



「あ? あ~……う~ん。いきなりお前ほどの大商家にそう聞かれてもなぁ」



「まあゆっくり考えなよ。エレノーラは今度一緒に買い物に行こうね」



「うんっ」



 この子ほどの愛嬌があればすぐに学園にも馴染めるだろう。

 僕が出来るのは事前の準備と必要な環境作り、エレノーラが真っ直ぐと、そして楽しく学園生活を送ってくれるのなら、僕が言うことは何もないな。

 ロイさんと同じで、エレノーラにもこの国を第2の故郷だと思ってもらえれば、と、僕は目を細める。



 そうして僕が今回の企画を纏めて肩から力を抜いていると、ふとジンギくんが僕の背後に目をやって首を傾げていた。



「ありゃ? あれは確かお前の親父さん……ジークランスさんか? それと一緒にいるのは――」



「え、お父様?」



 僕が振り返ろうとするのだけれど、どうにも横目に映ったミーシャの様子がおかしい。

 幼馴染が珍しく顔を引きつらせ、何と額から汗を流している。



 何か化け物でも見ているような、そんな雰囲気のミーシャに僕が疑問に首を傾げていると、その様子に気が付いたのかアヤメちゃんが聖女の手を軽く引っ張っていた。

 しかしルナちゃんは苦笑いを浮かべており、どうしたものかと振り返ろうとすると、それは一種の警告となって僕の耳に届く。



「リョカ、ミーシャ、久しぶりですね。一切私に連絡を寄越さなかったのは敢えてなのかしら?」



「……」



 振り返る前に僕の体が固まってしまう。

 聞き覚えのある今最も聞きたくない声――周りを見渡すと、さっきまでしんみりしていたロイさんも、エレノーラも、ジンギくんも僕たちの様子に首を傾げている。



 けれどこれは仕方ないのである。



 意を決して僕は振り返ると、そこには僕の髪質によく似た長い真っ白な髪をなびかせ、ミーシャよりも不遜な圧倒的強者感のある厳しい眼差しの女性。



 その女性の背後ではお父様がウインクしながら片手を縦にして口の前に添えており、口を開いた。



「すまんリョカ、バレた」



 バレたではない。

 マズい、非常にマズい。ここで僕がやりたい放題出来るのはあの人の目がなかったからだ。

 それが今、今ここに――。



「お、お母様」



「ええ、あなたのお母様ですよリョカ、思い出すのに随分と時間を有しましたね」



 僕がブルブル震えていると、その隙をついてかミーシャがじりじりと後ずさっているのが見えた。



「うらぁミーシャ逃がすかぁ!」



 僕は速攻でお母様から目を逸らし、幼馴染に飛びついた。

 しかしその幼馴染は一度舌打ちすると、指で目じりを下げ、そして普段は絶対に見せないような微笑みを浮かべた。



「いいえリョカさん、せっかくの家族水入らず、幼馴染でしかないわたくしが邪魔をするわけにはいきませんわ」



「――っ!」



「――っ!」



 アヤメちゃんとジンギくんがすごい勢いで顔を振り、ミーシャをジッと見つめている。

 そこまで嫌か幼馴染よ。



 僕が涙目でミーシャをどこへも行かせないように肩を掴み、それに拒否するようにすごい力で腕は引き剥がそうとする幼馴染。



「リョカ、ミーシャ、この催しが終わったら、私の下に来なさい」



「……はい」



「……」



 お父様とお母様が去っていくのを横目に、僕とミーシャはその場にへたり込んで頭を抱えた。

 驚いているみんなに説明したけれど、正直それどころではないし、このまま船に乗ってグエングリッターに逃げてスピカに癒してもらいたいところだ。



 僕たちは揃って深いため息をつき、この時間が終わらなければいいのに。と、うな垂れるのだった。

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