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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
27章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、自家製ダンジョンで暴れ回る。2

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魔王ちゃん、その結末に可愛いやったー

「おいガイル、やり過ぎだぞ」



「阿呆テッカ、ガキどもと接している内に牙を抜かれたか? ここにいる女三人衆、並の魔王よりつえぇぞ」



「……」



「心配してくれてありがとうねテッカ、でもテッカ、その並の魔王より強いと評価を受けた1人の僕と、様々な魔王と戦ってきた勇者はここまでちゃんとチームプレイ……協力してきているわけだ。お前らなんで相方誰もいないん?」



 ミーシャが相も変わらず戦闘態勢を解かない中、テッカだけが今攻撃を受けたソフィアに駆け寄ろうとしていた。

 もう先生なんだよなぁ。



「もうここからはチームとか関係なくやるべきでしょう。あんただけ仲間がいるとかズルいじゃない」



「ヤダよ、1人でお前らの相手なんてしてられるかよ。リョカちゃんただでさえか弱いんだから、そのくらいのハンデつけてよね」



「まあそういうこったミーシャ、俺も正直この面々でサシを貫けるほど無謀じゃねぇんでな」



「……勇者が聞いてあきれるわね」



「ああ、だから勇気を持って宿敵に協力してんだよ」



 ミーシャが舌打ちをして拳に力を込めたのがわかる。

 しかしその聖女の戦闘圧とは異なる部類の圧、突き刺さるような圧に、僕とガイルはそっと視線をテッカに向ける。



「ガイル、誰の牙が抜かれたと? ひょっとして俺に言ったのか?」



「はっ! らしくなってきたじゃねぇか――」



 ガイルとテッカが戦闘態勢に移行すると同時に、その()が明確な殺意を向けてきた。

 砂煙を貫くように走る剣圧――ガイルとテッカは首を少し動かすだけでそれを避け、ミーシャは拳で弾き、僕はそれを盾で逸らした。



「我を守るは勇ましき志を抱く者、敵を討つは光を抱き女神の加護を受けし者を愛す者――」



 ソフィアの声が響いた瞬間、全員が弾けたように飛び出した。

 あのフレーズ、ヤな予感がする。



「『物語にその名を叫べ(プリンシパルキャスト)頑強の絶対意思(ペステリア=サース)光を抱く勇者(ルイス=バング)』」



 砂煙から飛び出してきた鎧を着込んだ影――その影の姿が光に変わり、光を背負った名を持つ勇者(・・)が剣を振るう。



「蘇りやがったか! あの時の俺と同じだと思うなよ! 『魔に委ね尚猛る陽(エクシードウリエ)』」



 ガイルが光を吸収し、それを弾丸に変えて火力を上げる。

 そして光となったルイスさんシャドーに拳を放つのだけれど、炎に変わったはずの光は全て霧散した。



「なに――?」



「ガイル様、光の勇者様相手から光を奪えるとお思いですか」



 ガイルの拳は届かず、冷たく響くソフィアの声。

 ルイスさんシャドーの剣がガイルへと向けられた。



「『如月流我流秘剣・影飲』光すら切れずに影を名乗るわけがないだろうが! 光を落とすのがそこの聖女しか出来んことだと思うな!」



 光になったルイスシャドーさんにテッカが刃を奔らせてその登場人物の動きを止めた。

 流石テッカ、光すら切れるなんてマジ化け物。それとは反対に、僕はニヤケ顔を金色炎の勇者に向ける。



「牙を抜かれちまったかぁ」



「うっせぇばーか!」



「まあガイルは光の勇者様じゃないからねぇ」



「そういうこった」



 しかしソフィアのスキル、あれは多分物語の再現だな。

 あの子自分を守る手段がないことが隙だったのに、テルネちゃんも厄介なギフトを渡す。

 さらにあれに加護があると予想できるし、正直僕はこの辺りで観戦に徹していたいなぁ。



 そんな僕の考えを知ってか知らずか、ミーシャがゆっくりと歩みを進め、ソフィアが召喚したもう1人――両腕に巨大な盾を括り付け、守ることに特化した後の世では共に歩んでいた勇者よりも知名度を上げた、大昔の勇者の剣。

 曰く、その剣は何者も通さず、あらゆる災厄から勇者を守った。

 曰く、無傷の勇者と呼ばれたかの者は、剣がなければ勇者にすらなれなかった。

 曰く、10を超える魔王の絶慈すら防ぎ、最期は勇者を守り命を散らした。



 うんなバカみたいな物語が今でも詩人たちの歌として残っている。



 つまりあの盾は並の攻撃では傷つきもしない。

 きっとあの幼馴染はそれを知っているんだな。



「127連――」



 ペステリア=サースの盾に、その拳を向けた大馬鹿がこの時代にはいる。

 一体誰がそんな頑強な盾に挑むのが聖女だと予想できただろうか。



「獣王!」



 飛び上がったミーシャが大地に叩きつけるように盾を殴りつけた。

 人間が出していい音ではない爆音が鳴り、ペステリア=サースを一撃で跪かせたが、まだ盾で堪えており、さすがの防御力だと感心するが、そのミーシャがさらに口を開いた。



「114連――黒竜王!」



 徐々に徐々に大地に埋まる頑強の(たて)にミーシャはこれでもかと高火力を叩きつける。

 そして脚から発生させた生命力っぽい何かを口に含んだと思うと、ミーシャの気配がさらに濃くなる。

 あれだな、竜たらしめてるのは。



「全竜顕現! 盾しか持っていない奴に、あたしが負けるわけないでしょう!」



 最早腕が竜と化したミーシャの拳がペステリア=サースを完全に大地に叩きつけた。

 僕の幼馴染は誰もが恐れるようなオリジナル笑顔を浮かべて、ソフィアに笑いかけたのだけれど、それを受けたソフィアが負けじと可憐に微笑む。



「守る者が背後にいる限り、その盾は沈みません」



「――っ!」



 ミーシャが叩きつけた拳ごと盾で弾く所謂シールドバッシュ、聖女が舌打ちし、その状況に乗っかって金色炎の勇者がもう片方の盾に攻撃を始めたから僕はアガートラームで燃料を放り込んでやる。



 うむ、しかしやることがない。と言うよりこれ以上ここで戦闘したくない。

 僕はインテリでアイドルなんだ。戦闘をこれ以上続けても……というか僕主催者の1人だし、このままいいところでバックレちまうかな。



 なんて考えながら、ふとまだ回収されていないカナデとランファちゃんに目を向ける。

 ロイさんもさすがにこの中に入っては来られないか。



 僕はグリッドジャンプを使い、2人を回収して適当な木の影に隠れる。



「2人もこんなのに巻き込まれて災難だったねぇ」



「むぅぅぅ~」



「はいはい、でもさすがにそれは外してあげられないよ。カナデ混ざるでしょ」



「むぅぅぅぅう~」



 僕はカナデを撫でてそっと戦いの様子を窺う。

 誰も彼もが凶暴な顔して殴り合っている。

 アイドルが上がる舞台ではないな。そんなことを考えながら口を縛られているプリマの毛並みを堪能している。



「う~ん?」



 僕は欠伸をしながら戦いに目を向けていたのだけれど、ふと違和感を覚える。

 今戦っているのはミーシャとガイルがペステリア=サース、テッカがルイスさんシャドーさん……ソフィアは誰と戦っているんだ?



「……?」



 ガイルに当てているアガートラーム、しかしその光線が吸収されていない? 攻撃している。

 そんなはずはない、ガイルはその光を吸い取れるはずで――。



「ガイルじゃない?」



 そして僕は先ほどから撫でている毛玉に横目を向ける。



「あれプリマ、君いつから縛られて――」



「おっと悪いなリョカ、俺もあんな舞台に立つなんて御免なんでな、ちと別の方法で勝たせてもらうぜ」



 ランファちゃんの姿をした誰かが僕の口を手で塞ぎ、そしてカナデだと思っていた誰かが満面の笑顔で口を塞いでいた縄を取り除き、僕に抱き着いてくる。



「『甘く蕩けて色欲に溺れ(ネバーランド)』」



 あかん。

 思考が塗りつぶされていくのがわかる。

 このスキル、恐怖を好きに変えると聞いていたけれど違う。というか変わってる。ラムダ様の加護か。

 もっと純粋に魂に直結するスキルとなっている。

 最も強い感情を向けた相手を好きになるスキル。

 


「――っ!」



 僕がカナデらしき者――エレノーラを抱きしめようとしていると、戦いを楽しんでいたミーシャが勢いよく僕の方に振り返った。



「……やられたわ」



 いつの間にかカナデの姿からエレノーラに戻っており、彼女が驚いていたミーシャの腰にくっ付いて僕にやったようにネバーランドを発動させた。



 そしてついにこの辺りを覆っていた視界が晴れ(・・・・・)、ソフィアもガイルもテッカも、攻撃を止めて僕とミーシャ、そしてエレノーラに目をやった。



「これは……」



「おい、何で俺はミーシャと戦ってたんだ?」



「……あらら、これはマズいですね」



 僕とミーシャは意思に関係なくエレノーラを守るように立つ。



「おいおい、最強の魔王様と最強の聖女様よぉ、まさか俺たちが見てないところでやられてたりなんてしねぇよなぁ?」



「語尾にエレノーラ可愛いやったーってつけろこの馬鹿者! エレノーラ可愛いやったー」



「なに真っ先に取り込まれてんだこのバカヤロウ!」



 否応なく僕とミーシャが全力全開の信仰と魔王オーラを体に纏った瞬間、ガイルとテッカ、ソフィアが顔を見合わせて頷き合った。

 そして3人は手を上げて口を開いた。



「おいロイ、俺たちを回収しろ。もうやってられっか!」



 賢明な判断である。

 すでに僕は意思に関係なく魔王特権を発動させようとしており、ここで3人が引いてくれて本当に良かった。

 ガイルたちの降参宣言に、エレノーラとジンギくんが両手を上げて喜びの声を上げた。



 まあ、うん……2人の存在を忘れていた僕たちの落ち度だけれど、まさかこんな結末とは。



 僕はミーシャと顔を合わせて、ため息をついて喜ぶ2人を眺めるのだった。

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