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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
27章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、自家製ダンジョンで暴れ回る。2

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学園の勇者の剣くんと羽ばたきを授ける女神

「今ここに、ヒナリアの下剋上を宣言します! アヤメ(ねえ)とルナ(ねえ)の聖女よ、ヒナの信徒(ダンナ)さまは、ここで羽ばたくのです!」



 突然現れたヒナリアと名乗った少女が、ミーシャ様を大袈裟な格好で指差し、変わらずに勝気な顔で笑っている。

 いや、今俺のことをなんて呼んだ?

 それより先ほどミーシャ様は彼女を女神様だと……アヤメ姉とルナ姉? つまり彼女は――。



 俺が戸惑っていると、ヒナリア様が俺に振り返って飛び込んできて、また唇を塞いでくる。

 顔に熱がこもるのと同時に、困惑してさっきから考えがまとまらない。



「――?」



 いやそれだけじゃない。

 徐々に体が熱くなってくる。

 体の中に火を投げ込まれたような熱さ。



「ヒナの加護(アイ)を以って、今こそ革命の時なのです!」



「あ、が……う、あぁ――」



 これは、この熱量は……。



 ギフト――ああそうか。

 彼女の言っていることが理解できる。

 俺はまだ、羽ばたける。



 体から溢れる力が、俺に再度立ち上がる機会をくれる。



「……」



 眼前の聖女様……ミーシャ=グリムガントと対峙する。

 俺にはないものを幾つも持っている彼女が正直羨ましい。

 でも、そんな彼女がいるから俺はどこまでも足掻ける、羽ばたける。



「――」



「――っ!」



 足を動かした、どこまでも駆けた、どこへだって飛んでいく。



 ミーシャ様が、俺が移動した後で顔を動かした。速度で抜けた。

革命前夜強制覚醒(レヴォルアジタート)』それが俺の新たなギフト。



「魂の灯よ、我が覚醒を以ってその革命を成せ! 『天翔(てんしょう)一夜(いちや)』――」



 扱い方は理解できた。

 健康優良児とあまり利用方法は変わらないらしい。



「『急速発進(プレスト)!』」



「あんたのそれ、生命力――っ! 神獣拳!」



 ミーシャ様を殴り飛ばしたが、咄嗟に彼女が神獣拳を使い俺の拳を防ぎ、それほどの傷は与えられなかった。

 だから俺はすぐにミーシャ様を追いかけ、吹っ飛んでいる彼女の上空でさらに拳を構え、その場で何度も腕を振るって()を作る。



「『速度溜置(アッチェレラント)』」



 しなる腕、その拳は徐々に速度に乗っていき、ミーシャ様の神獣拳でも捌ききれないほどの速度になって、彼女と大地を殴りつくす。



 そして最後に大きく腕を振るい――。



「『強化一閃(フォルテッシモ)!』」



「――」



 ミーシャ様を大地に叩きつけ、俺はその場から飛び退いて構えてその強敵を待つ。



 呆然と俺を見ているテッカ師とカナデ嬢とランファ嬢を横目に、俺は荒く漏れる呼吸を何とか整え、巻き上がった砂塵の影の中でのそと動き出す怪物に、否応にも拳に力がこもる。



「……生命力を速度や攻撃力に変換、破れかぶれの革命児ってところね。ええでも――いいじゃない。あんたにはお似合いよ」



 砂塵を払って歩んでくる最強の聖女に、俺は息を飲んだ。



 ミーシャ様が口から流れた血を袖で拭い、ペッと口から血を吐き出した。



「本当、あたしは恵まれているわ。わざわざ強敵を探しに行かなくてもこんなにも近くにいるんですもの。本当に愉快で、本当に――殴りがいがあるわ!」



 ミーシャ様の脚がまた光った。

 またあの竜の衝撃だろうかと身構えたが違った。

 生命力の光が徐々に小さくなり、それが足先で小さな球体になったのが見えた。



 俺が首を傾げていると、こちらに駆けてきたヒナリア様の息を飲む音が聞こえた。



「――っ! ダンナさま! あれ止めてくださいです!」



「え?」



 ヒナリア様の警告をわけがわからずに聞いていると、ミーシャ様が脚のそれを蹴り上げ、降ってきたそれを口を開けて待っていた。



 なんだ、あの光景、どうにも見覚えがある。普段から知っているような行動、ああいう物を口に入れてどうにかなる事象を知っている気がする。

 ああそうだ、俺がやるよう、に……。



 生命力の玉がミーシャ様の口に入ることを見届けた刹那、それは今までの景色を吹き飛ばすような、根底から破壊するかのような衝撃。



「さあ、第2ラウンド(・・・・・・)よ」



 聞いたこともない言葉に、彼女を中心に世界が割れる、崩れる。

 あれはと何度も目を擦る。



 あそこにいるのは確かに人間で、俺たちの知っている聖女、ミーシャ=グリムガント様だ。

 でも違う。

 俺の感覚では、俺の魂は、目の前にいるあの存在を、世界の災厄としか認識していない。



 竜――圧倒的な力が、世界を壊し尽くすその存在が俺と対峙して嗤っている。



「『半竜顕現(・・・・)』」



「――っ! プレスト!」



 飛び込んできたミーシャ様の拳を、急激に速度を上げた腕で対応する。

 彼女の拳を払うと、あり得ないほどの激痛が走り、それでも歯を食いしばって弾かれた自分の腕を無理矢理引き寄せる。



 ミーシャ様がそれを見て嗤う。何よりも最恐の笑顔を浮かべて、誰よりも気高く嗤う。



「ついてきなさいよ」



「アッチェレラント!」



 連打の打ち合い。

 ミーシャ様の拳がどんどん早くなる。

 俺も負けじと徐々に速度を上げていくが、拳が打ち合う度に潰れていくのがわかる。



 血液は拳の熱によって天へと昇るのがわかる。



 俺とミーシャ様の間には、拳のぶつかり合いでまるで暴風のような衝撃が発生し、木々を、空気を、風を、世界すらも壊していく。



「っつ、それなら――『発破天凱・五久門』覚醒強化!」



 ミーシャ様の拳を払って弾き、その腹部に思い切り拳を叩きつける。

 けれど、殴って気が付く。

 重い。

 まるで巨大な山を意味もなく殴っているようなそんな感覚。

 大地に根を張る巨大さに、俺は顔を引きつらせる。



 ミーシャ様が口から血を流しながらも、やはりその嗤い顔は崩さない。



 ああ、その笑顔を崩せるわけはなかった。

 彼女は純粋に楽しんでいる。

 彼女は純粋に俺の本気を、本気で迎え撃ってくれている。



 これは敵わない。



「クレイン」



「……はい」



「あんたはどうせこれからも悩むわ。そういう性質なのね、本当に面倒な子よ」



「ええ、そうみたいです。俺、自分が思っているよりずっと負けず嫌いだったみたいで」



「良いじゃないの、本気になれることを見つけたのでしょう」



「はい」



 俺はつい、はにかんでしまった。



 ミーシャ様が大きく拳を振り上げた。



「待ってやるつもりなんてなかったけれど、結局あんたは最後まで戦えたわね」



「……」



「クレイン、あんたは胸を張りなさい。あんたは、そこのテッカにも劣らないほど立派な勇者の剣よ」



 俺は笑みを返して頷いた。

 本当にこの方は、どこまでも強く、優しくて、世界最高の聖女様だ。



 ミーシャ様の拳がまるで竜の腕に覆われたように見えた。

 その拳が俺の顔面目掛けて――。



「ロイ、外で(・・)受け止めなさい」



 肩を竦めた瞬間、体を奔る衝撃……いや、首が吹き飛ぶと錯覚するような拳に、意識を手放しそうになる。



 体が浮き上がり、世界を割る感覚が背中を襲い俺は吹き飛んでいく。



 1つの世界を割り、森林区域から崩れかかっている月と星の区域、その途中、見知った気配を覚えて消えかかる意識の中で声を聴いた。



「わぁぁぁっ! 突然なんだ! ってクレインくん! 死にそうじゃん! ああもう!」



 声に込められた月神様の加護が俺の体を癒してくれた。

 そして俺はそのまま世界を割って、ダンジョンの外に飛び出した。



 観客席で待機していたロイクマさんに突っ込んだ俺は、手のひらを太陽にかざし、ただただ満足に笑う。



「ああ~、負けちゃったなぁ」



 そう呟くと、にゅっと影が差すようにセルネが横から生えてきた。



「満足した?」



「……うん、スッキリした」



 セルネがトンと俺の額に頭をくっ付けてきた。



「クレインは気にし過ぎ。俺の剣なんだからさ、もっと胸を張って堂々としてくれよ」



「うん、そうする」



 セルネが俺から離れると次にオルタとタクトが湧いてきた。



「そういうのはあっしの役目ですぜい?」



「1人でそんなに格好つけられると、拙者たちが霞むでござるよ」



「2人の大事さが身に染みたよ」



 友に見守られ、俺は息を吐き出すと、安心したためか瞼が重くなるのがわかる。

 そろそろ限界だなと、意識を手放すのだった。

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