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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
27章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、自家製ダンジョンで暴れ回る。2

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勇者くんと超えてはいけない約束

「テッカさ~ん、もう無理ですよぅ」



「諦めるなセルネ、情けない勇者という周囲からの認識を撤回させたいだろう」



「待ってください俺情けない勇者って思われてるんですか!」



 テッカさんは何も答えず、俺から視線を外して眼前を睨みつけた。

 一言何か言いたかったが、そばにその(・・)気配があることに気が付き、俺は設置された金色に信仰を流す。



「ばあっ!」



 俺とテッカさんの間に突然生えてきたカナデに、俺は即座に金色から鎖を引っ張りだし、それで彼女を縛り付ける。



「あ~、セルネえっちだよぅ」



「なんで!」



 プリマの言葉に心揺さぶられながら、俺は拘束したカナデを横目に、背後から迫る圧倒的強者の圧力に押しつぶされそうになる。



「カナデ――」



「はいは~い」



 奥から聞こえてくるその声に、カナデが返事をし、脚から青い炎を噴出させそのまま宙に飛び出した。



「101連――竜砲!」



 がおおおっと放たれた咆哮と共に辺りを奔る真っ黒な力の奔流。俺が設置した銀色も金色も霧散していき、捕らえていたカナデもすぐに解放されてしまった。



「……テッカさん俺もう帰りたい」



「泣き言を言うな勇者、勇者というのはいついかなる時も足掻く者だぞ。しかしお前本当にミーシャ相手だとフニャフニャしているな」



 俺はテッカさんから顔を逸らした。

 しかしこればかりはどうしようもないし、何より俺の体がミーシャと敵対することを徹底的に拒否している。



 こればかりは出会いが悪かったとしか言いようがない。

 それに……。

 俺はチラとミーシャの顔を覗く。



 テッカさんと戦っている時はどこかいつもの様子とは違い、うすら寒くなるような顔つきを浮かべている我らの聖女様だけれど、俺と目が合う時だけは、困った子ね。とでも言いたげな顔で微笑んでくる。

 自惚れでなければ、それなりにこの聖女様には認められているらしい。



 俺は獣形態のままため息をつき、少し力を入れるとそのままカナデに向かって飛び出す。



「オラぁカナデぇ!」



「ミーシャに何も出来ないからってあたしに八つ当たりしないでよ」



「言って良いことと悪いこと!」



 俺は辺りに銀色を設置し、それに乗りながらあちこちに動き回りカナデをかく乱する。



「むぅ、セルネやりにくいんだよなぁ。これならキサラギの人とやっていた方がはっきりするのに」



 伊達に君の面倒を押し付けられていないんだよ。

 俺はカナデの動きをじっくりと見つめる。そして彼女が少しでも腕を動かした瞬間、隠して設置しておいた金色から鎖を放ち、腕に巻き付ける。



「セルネの束縛趣味!」



「違うからね!」



 こうでもしないとカナデを止められない。

 以前から気になっていたのだけれども、カナデはどうにも技を出すとき、完璧に繰り出そうとする癖がある。

 体勢が崩れていても技を発動させないし、完璧な状態で相手に当てようとしてくる。

 これもシラヌイの教育なのだろうか。



 カナデが悔しそうにしているのを横目に映しながら、俺はミーシャとテッカさんにも意識を向ける。



「あらテッカ、少し見ない間に随分と腑抜けたのではなくって?」



「……お前の情緒、本当にどうなっているんだ。生憎、お前たちと違って遊びに行く余裕もなかったものでね」



「負けた理由を仕事のせいにするつもり? 勇者の剣ともあろうものが情けない話ね」



「クソ、腹立つな」



 何か上品をはき違えた貴婦人のような話し方をするミーシャに、テッカさんが額に青筋を浮かべた。

 いい加減戻ってくれないだろうか。



 俺が苦笑いで聞き耳を立てていると、ミーシャとカナデが辺りを見渡し首を傾げた。



「カナデ、わかる?」



「……う~ん、誰か、いる? みたいだけれど、こんなにうまく隠れられる人がいたかなぁ」



「……クレインね」



「え、そうなの?」



「消去法よ。あの子結構伏兵なのよね」



 2人に会話に、俺はチラとテッカさんを見た。

 けれどテッカさんは首を横に振り、確かに気配は感じ取っているみたいだけれど、それが本当にクレインかはわからないと言ったところだった。



 しかしクレインもここにいるのか。

 だとしたら誰と組んでいるだろう?

 こうして姿を見せないということは補助が得意な相方か? オルタ、エレノーラ、ソフィア、ジンギ、リョカ……は、こんなまどろっこしいことはしないだろうな。



 いや違うか。隠れるってことは何か機会をうかがっている。

 でもそれは今言った面々ではあり得ない。オルタは後衛でこそ真価を発揮するから戦いが発生していないとならず、エレノーラはそもそも視界が変わるはず、ソフィアはそもそも気配が多すぎる。ジンギは隠れる必要ないし。なら逆転できるだけの何かを持った――ランファだな。



 俺はまだ見たことないけれど、アストラルフェイトを使いこなせるようにしたいと話していたし、隠れて機を窺うなんて戦術とる様な子はこの中でランファとクレインくらいなものだろう。



 それならぜひ2人とは協力して戦いたいなぁ――。



 俺がそんな風にのんびりと考えていると、ふと体が動き出す感覚。



 世界が一度俺を残して飛び越えるような感覚――その感覚の中で、俺はつい、我らの聖女様にその雷が降る光景を視てしまった。

 予知だとか予見だとか、そんな力は俺にはない。



 ただ、聖女……ミーシャ=グリムガントに攻撃の手が伸びるだろうと何となく察してしまった。



 だからだろうか、俺の脚はごく自然に、ミーシャの眼前に躍り出る。



「あばばばばばばばっ!」



 体を奔る電撃、あちこちが痺れて痛い。



「ちょっとセルネ!」



 物陰から聖剣を構えたランファが飛び出して来て、頭を抱えているのが見えた。

 だって仕方ないだろう、ミーシャが目の前で攻撃されそうになったんだよ。



 流石に限界が来たのか、体が傾くのがわかる。

 しかし、トンと背中を支えられ、俺は首を傾げる。



「あんた、本当にあたしを守るために動くわよね」



「……他に守ってくれる人いないでしょ」



「違いないわね。まあでも、あんたがいれば十分でしょ」



 さっきまでのどこか怖い雰囲気は瞬時に消え失せ、普段通りの、強くて、どこか格好良くて、何だかんだみんなに優しい聖女様が、幼さを残した顔で微笑んだ。

 リョカによく見せている顔だ。

 こんなことを言うと怒られるから絶対言わないけれど、この顔のミーシャは年相応で、リョカ風に言うならば、きっと可愛いというものなのだろう。



「ロイ」



 ミーシャがロイさんの名を呼んだ。

 するとロイさんクマが現れて俺を抱えてくれる。



「テッカさんごめんなさ~い」



「構わんさ。お前はそういう勇者だからな。その行動は正しい」



 俺が苦笑いを浮かべていると、頭にポンと手を置かれ、そのまま撫でられる。



「セルネ」



「あんだよ~」



「ゆっくりあたしを見ておきなさい」



「……ん」



 ミーシャとの会話を最後に、俺はロイさんクマに連れてかれて、戦線を離脱するのだった。

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