輪廻の魔王さんと敗者反省会
「……」
帰ってきたアルマリアが頬を膨らませたまま、私に飛び込んできたからそれを受け止め、頭を撫でてやる。
「よく頑張りましたね。立派でしたよ」
「む~……ぜんっぜん勝てなかった」
「あの金色炎の勇者からあれだけの攻撃を引き出せたのです、胸を張るべきですよ」
「でも……」
「まだまだ時間はありますよ。彼に勝つ方法など、いくらでも思いつきます。私も手伝いますから」
私はアルマリアを抱き上げ、そのまま椅子に腰を下ろして彼女を膝に乗せる。
今した提案に多少溜飲は下がったようですが、まだ納得していないのか、未だに頬は膨らんでおり、私はその頬を指で押し込む。
するとラムダ様が何か考え込んでおり、私は目をやる。
「アルマリアちゃんさ、ギフトほしい?」
「え?」
ラムダ様の提案にアルマリアは目を丸くしたが、すぐに焦ったように首を横に振った。
「あ、あの嬉しいですけれどぉ、あまり甘やかされちゃうと困っちゃうと言うかぁ」
「ああいや、そういうつもりはなくてね。あたし的にはアルマリアちゃんには信徒になってほしいし、何よりあたしの加護が合っていると思うから受け取ってほしかったんだけれど」
「……」
アルマリアガ思案顔を浮かべたあと、控えめな顔でラムダ様を見上げていた。
「まあゆっくり考えておいてよ。あたしは大歓迎だからさ」
頷くアルマリアにラムダ様は満足そうにお茶を飲み始めた。
多少顔を赤らめたアルマリアが私の膝の上からオルタくんとタクトくんに目をやった。
「2人ともどんなやられ方をしたんですか? なんだかとっても幸福そうな顔をしていますけれど」
私はルナ様と顔を見合わせ、苦笑いを浮かべる。
すると眠っていたオルタくんとタクトくんの体がピクリと動き、そのまま体を起こして大きく伸びをした。
「おはようございます。よく眠れましたか?」
「んあ? あ~、うん? あれ、ルナ様?」
「……何が起きたでござるか?」
「なんかすっごい体が軽いですぜい。なんというか未だかつてない快眠というか」
「2人とも寝ていたんですかぁ?」
「アルマリア殿、ということは」
アルマリアが頷くと、ルナ様が画面を1つ出して、2人の戦いとアルマリアの戦いをそこに映した。
一通り戦いを見終えた3名がげんなりとして肩を落とした。
「……歌を聞き終えると強制睡眠とか止めてほしいですぜい」
「時間をかけすぎたでござるね。まさかあの手数の攻撃すら囮だったとは。いやはやリョカ様には感服でござるよ」
「あれどうやって防ぐんですかぁ? 耳壊したらいいんですかね~?」
「そんなことしても直接アリアテトラ叩き込まれて同じ結果になるだけよ。あいつを本気で攻略したいのならフィムとかルナとかエレ連れてアルマリアかソフィア辺りが特攻するしかねぇって」
「……あの魔王様、明確な弱点以外本当に勝ち筋が見えないですよねぇ」
深くため息を漏らすアルマリアを苦笑いで私が撫でていると、マナ嬢がそのギルドマスターを見ていた。
「マスターは最近素直になりましたよね? もっとそう言う感じで我が儘言っていいんですよ」
「え? 今日残った書類全部マナが片づけてくれるんですかぁ? 助かります~」
「私は別に良いですけれど、そうなるとロイさんがマスターのことずっと見ていると思いますよ?」
アルマリアがちらと私を見上げてきたから微笑み返し。当然ですと言う意思を込めてその頬を軽くつねる。
「……わかりましたよぅ。今日はもうちょっと頑張ります」
「ええ、それなら今日の食事は私が奢りましょう」
「やた~、絶対ですよぅ」
機嫌を直したアルマリアだったが、ふとオルタくんが私を見ており、首を傾げてその視線に応える。
「ああいや、すまないでござる」
「いいえ、何か気になったことでも?」
「……その、ロイ殿はスキルの扱いがとても秀でていると聞いたでござる。その――」
どこか答えあぐねているオルタくんだったが、何となくこの空気には覚えがある。
しかし私がそれに応えてもいいのだろうかと悩んでいると、脳裏には今も頑張っているだろう初めての弟子の顔が浮かんだ。
私は息を吐き、彼に手を差し出す。
「自惚れでなければ、私の知恵をあなたは必要としているということで間違いないですか?」
「……ええ、拙者はやはりその強さを得たいでござるよ」
オルタくんが私の手をすがるように掴んだ。
私は小さく頬笑みを浮かべ、彼の顔の横でポンッと小さな花を出した。
「ならばこそ、幾ばくもの探求心を、誰かを思いやる気持ちを、何者にも染まらない精神を――私で良ければ、それらを得られるお手伝いをさせていただきますよ」
花を受け取ったオルタくんが照れたように頭を掻き、はにかんだ顔を浮かべた。
だがそんな私たちを見ていたマナ嬢が体をわなわなと震わせ、口を開いた。
「あぁぁっ! ロイさん男の人も口説いて――むぐぐ」
マナ嬢の口を植物で塞ぎ、アルマリアに目をやる。
「ついでに彼女も鍛えましょう。良いですかアルマリア?」
「よろしくお願いします~。2人にはギルドのために働いてもらいたいですから、存分に力を付けてやってください~」
そんな許可を貰いながら、私たちはしばし談笑を続けた後、残りの戦いを見るために巨大すくりーんに目を戻したのだった。




