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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
27章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、自家製ダンジョンで暴れ回る。2

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輪廻の魔王さんと命の鐘の魔王オーラ

 さて、それでリョカさんなのですが――私は画面から流れてくる彼女の歌に耳を傾けながら、つい体を揺らし……ふと私は違和感を覚える。



「――?」



「どうしたのロイくん?」



「……いえ」



 なんだ、私は今何を考えていた?

 辺りを見渡しても、どこにも違和感はなく、生徒の皆さん、教員の方々、マナ嬢にヘリオス先生、さらに女神さまたちだってどこにも異常はない。

 素晴らしい歌に、誰もが酔いしれている。



 けれど、画面の1つ――そう、エレノーラがジンギくんと喜んでいた場面、そこで私の娘が突然驚きに満ちた顔をして、外にあるエレクマを通して私たちに目を向けていた。

 どうしてあの子はあんなにも驚いた顔をしているのだろうか。



 リョカさんに目を戻すと、そこでは土煙を上げてものすごい勢いで走るタクトくんとその彼の背に乗るオルタくんが見えた。



『オルタぁ! どうすればいいですぜい?』



『拙者たちがリョカ様に勝つなどまず不可能、でござるが、せっかくの機会でござるよ、我々がどれほどの力を身に着けたのかを見てもらうでござるよ。故に作戦など必要なし! どのような策もきっと意味を成さない。ならば我らに出来ることは勢い任せに突撃でござる!』



『クレインが聞いたら怒るですぜい』



『時間も実力もまだ足りていないでござる。しかし諦めているわけではござらん、我らの全力を、我らの義を、押し通すだけでござるよ!』



『そういうことなら――ところで、さっきから聞こえているこの歌ってリョカ様?』



『そうでござるな、それがどうかしたでござるか?』



『ん? いんやぁ? あれ……? なんか忘れているな』



『何を言っているでござるか?』



『いや、なんだろ……何か考えるのが億劫――ふわぁ』



 オルタくんが欠伸をした。あの状況にいながら欠伸を漏らすとは、なんとも大物なのだろう。

 そんな彼に感化されたのか、アヤメ様やラムダ様、マナ嬢も欠伸を漏らした。



「――?」



「あれ、みなさん? 何だか瞼が重そうですね」



「あ~? リョカの歌、催眠効果でもあるんだろ。お前は聞きなれてるかもだけれどな、俺たちはあまりこういう歌は聞いていないのよ」



 ルナ様が首を傾げる。

 私はどうにも微笑ましく見えてしまい、笑い声を漏らすのですが、確かに突然眠気が襲ってきたような気がする。

 しかし、どうにも眠いという感覚ではないような気もする。



 浅く息を吐いた私は首を横に振る。

 せっかく皆さんが頑張っているのに、眠っているわけにもいかない。



 そしてついに、画面内のオルタくんとタクトくんがリョカさんの下に到着した。



 リョカさんは相変わらず月を背に、何処か艶のある笑みで歌をうたっており、彼女から目が離せなくなる。

 呼吸を忘れるほどの歌声に、体を、心を預け、そのまま瞼が下がる感覚はどこか浮遊感を彷彿とさせる。



「――?」



 私の頭が何かを言っているような気がするが、耳に入ってきたのはオルタくんとタクトくんの声。



『それじゃあいくでござるよ! リョカ様、歌っているところ失礼するでござる』



『そういうわけですぜいリョカ様、あっしらの力――あ?』



 オルタくんがてっぽうを構えて駆け出した。

 しかしどうにも彼らしくない。何も考えていないというか、相手がリョカさんだからだろうか、確かにそれはあり得るが、どうにも――。



 だが反対に、タクトくんが足を急停止させた。

 何かあったのだろうか。そう思うのも束の間、彼の顔が焦りと恐怖で、額からは大量の脂汗。そしてハッとした顔でポケットに手を突っ込んだ。



『オルタ近づくなですぜい!』



『え――』



 その両手に持ったてっぽうを放つこともなく、オルタくんがただリョカさんに突撃していった。

 スキルも、攻撃も何もせず、ただただ、彼女に誘い込まれるまま、オルタくんの手がリョカさんに振りかざされる。



 まさかの打撃攻撃に、一瞬私の頭は困惑したが、彼の手がリョカさんに伸びる直前、オルタくんの手は止まった。

 ()()()()()()()()()()()ことに安堵の息を溢すと――。



「――?」



 私は、呆けた頭で、タクトくんに目をやった。

 彼はいつの間にか取り出したのか、以前リョカさんから受け取った道具を首に刺し、顔中に血管を浮かび上がらせながら荒い呼吸を発しながら眼前の月を見ていた。



 そして動きを止めていたオルタくんが終始首を傾げ、動かない手を覗いており、無理矢理その手を動かそうとしているのか震えており、どうにもちぐはぐとしていた。



『――っ! 【輝気魔獣拳(ビーストレイブ)・リックスナッチ】』



『え――がっ!』



 タクトくんが鞭のようにしなる腕を、オルタくんに向けて放ち、そのまま吹き飛ばした。



『オルタ、この歌を聞いては駄目ですぜい!』



『あ、え? う、うた……?』



 歌、歌が一体――私の思考がどこかに溶けて消えかけると、突然後頭部に走る衝撃。



「いたっ」



『お父様! しっかりしてよ!』



「え、エレノーラ?」



 エレクマが腰に両手を添えながら、どこか頬を膨らませた雰囲気で私の頬を数回叩いてきた。



『お父様までリョカお姉ちゃんの術にやられないでよぅ』



「……術?」



『はい深呼吸! ルナ様以外の女神さまたちも』



 エレノーラに言われるがままに呼吸をしていく。そして数回の呼吸を終えてふと気が付く。

 私は一体いつから呼吸をしていなかった(・・・・・・・・・・)



「あんだこれ、頭イタ」



「大丈夫ですかアヤメ?」



「何が起きた……?」



『アヤメ様、リョカお姉ちゃんの精神操作ですよ』



「は? 精神操作? いやだからってこんな状態に――」



『エレはエクストラコードの影響で、魂をこの目に捉えられます。だから異常があるとすぐわかるんです。どうにも呼吸を意図的に少なくされているようでしたけれど』



「呼吸――? 酸欠か!」



 アヤメ様が弾かれたように立ち上がり、その頭の耳をピンと立てて辺りを見渡した。



「ルナちょっと音消せ!」



「は、はい」



 リョカさんの歌が聞こえなくなり、それと同時にアヤメ様が大きく息を吸って口を開いた。



「全員大きく息を吸え! はい吸って! 吐いて、吸って、吐いて――」



 アヤメ様のその声に、私の頭もはっきりしてきた。

 周囲のみなさんや生徒さん、教員の皆さんもそうなのか、それぞれに何が起きたのか理解出来ないのか、一様に首を傾げている。



「アヤメ、説明を」



「やってくれたなあの魔王――精神操作なんてもっとデカく動かしてなんぼだろ。それを高が呼吸を少なくするだけとか、気が付くわけないでしょう」



 頭を抱える神獣様に、私はラムダ様たちと目を合わせて、どういうことなのかを尋ねる。



「テルネ、お前空気の重要性はよくわかっているわよね?」



「え、ええ、生きるのに必要なもので、ないと困ります」



「ああそうだ、だけどそれは限界までいってだ。その途中には頭に酸素が行かずに集中力不足や眠気、思考がままならない状態にもなる。さっきから妙に頭が働かないと思っていたけれど、まさか自分で呼吸を止めていたなんて」



 私はアヤメ様の言葉を頭で纏め、手を上げる。



「つまり、今私たちはリョカさんの歌の影響で、腑抜けていたということでしょうか?」



「そういうことよ」



「ルナ、もう音を戻していいわよ」



「ええ――でも、わたくしはなにもありませんよ」



「リョカがお前に何かするわけ……いや違う。そういやぁ歌にお前の加護が込められていたわね。それで精神操作していたのね」



 ルナ様が納得して手を叩き、巨大すくりーんから音が聞こえ始めた。

 リョカさんはすでに歌を終え、クスクスと声を漏らしながらタクトくんを称賛していた。



『いや流石タクトくん、まさか【命の鐘の魔王オーラ】を気合で弾くとはねぇ』



『……以前、狂気とうまく付き合うには、最初から狂えばいいと助言を貰ったことがありますぜい。その言がなければ、あっしもヤバかったですぜい』



『バイツロンド爺に感謝だね。さて』



 立ち上がってタクトくんと合流したオルタくんにリョカさんが目をやり、ニッと笑みを浮かべる。

 まるでこれからが戦いだと言わんばかりに、あちこちに現闇を設置する彼女はまたしても声を大きく利かせるための道具、マイクを手に取った。



『オルタぁ!』



『――っ! 歌わせないでござるよ!』



『え~、リョカちゃんの可愛いライブを楽しんでいってよ~』



 その場で踊りだす彼女に、観客の皆さんも、神獣様も頭を抱えている。

 かくいう私も、彼女のああいう戦い方には覚えがあり、どうにも顔が引きつってしまう。



「本当に、ペースを握るのが上手い奴だ。ロイ、お前ならあの怖さ、散々身に染みてるわよね」



「……ええ、初めて彼女の絶慈を受けた時、何を考えているのかと激昂したものですが、今思えばあの時点で私は彼女に引きずり込まれていたのですね」



 前座は終わった。

 あまりにも衝撃的な前哨戦であり、すでに舞台上の2人も、舞台を観戦する我々も、銀色の魔王リョカ=ジブリッドから目が離せないでいた。

 本当に、彼女は素晴らしい。

 つい零れてしまう笑みはいつかの戦いを思い出したもので、魔王としての力の在りように、わたしはただ感心してしまうのだった。

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