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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
27章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、自家製ダンジョンで暴れ回る。2

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輪廻の魔王さんと世界を纏う娘ちゃんとその騎士

 さて、私の解説が板についてきたのか、私たちの会話に耳を傾けている学生さんたちがいることがうかがえる。

 そんな空気を感じたのか、隣のヘリオス先生が私と視線を合わせて頷いた。



「リョカ=ジブリッドやミーシャ=グリムガントの行方も気になるところだが、ここは真っ当に遺跡――ダンジョン攻略をしているジンギ=セブンスターとロイ殿の――」



「エレノーラです、エレノーラ=ウェンチェスター。ギフトは『他の目を盗む者(アウフィエル)』という視界関係のスキルを扱います。ただあの子の場合、豊神様の加護で、そのほとんどが目に見えるものを世界と見なし、それを操ることに特化しているとリョカさんが話していましたね」



「世界……リョカ=ジブリッドの絶界のようなものでしょうか?」



「ええ、魔王の転界、聖女のアルティニアチェイン、あまり評価の高くないスキルですが、エレノーラはそのスキルとしては使いにくい部類のものを、あり得ない方法で使いこなす方々を見ていましたからね」



「……なるほど、新しいスキルのありようですか。私も学ぶことが多そうです。ところで、視界に作用されるといいますが、それは魔物にも?」



 ヘリオス先生の疑問に、私は視線をラムダ様に向ける。



「ちゃんと通用するよ。魔物は確かに一般的な生命とは別の在り方だけれど、体の機能に関しては他とあまり変わらない。というか、そうしないと勝てないし、こっちとしても消費できないからそういう形をとってるね」



「で、あるなら、あのエリアボスも2人で勝てそうですね」



「そりゃあどうかしらね」



 アヤメ様が画面を、特にジンギくんを見ていた。



「ジンギは確かに防御に優れているけれど、攻撃面はどうかしら? 魔王種なんて基本は絶気で体を覆っているから並の攻撃は通らないわよ」



 確かに、ナイトマイトメタルは体を金属に変えることで、攻撃も可能であるが、絶気には弾かれる。

 そうでなくても荒野のえりあぼすは――。



「それにキリングエンドラーですか」



「物質に宿る不可視の魔物ですね。本体の魔物はまさに空気のような存在で、その状態では倒すことは不可能、しかし宿った物によって耐久地や攻撃力などの戦闘能力が上下し、面倒な物に宿ると討伐ランクが跳ねあがる魔物ですね」



 テルネ様の補足に私は頷き、しかも宿った存在が明らかに竜の骨、あれは本物なのだろうかと豊神様に目を向けると、彼女はにやりと笑う。本物なのですね。



「竜の骨に、さらにあれギフトなんだ?」



「魔王とドラゴニュート、さらにフィムのおかげでバーサーカーが混じってるね」



「バカヤロウお前、ジンギじゃきついだろ」



「というかドラゴニュートなんてどこで拾ってきたんですか?」



「え? ここにあったよ」



 首を傾げるルナ様とアヤメ様だったが、私は2人に耳打ちをする。



「以前アリシア様が現れた時の」



「……ああ、そういやぁリョカたちが倒してたな。この国に体を埋めたんだな」



「うちの子再利用されてるねぇ」



 やはりこれはエレノーラとジンギくんには厳しいのではないだろうか。と、私は画面に目を向ける。



『エレっ! 怪我してないか!』



『大丈夫』



 エレノーラを過剰に庇いつつ、ジンギくんがキリングエンドラーの攻撃を受け続ける。

 彼の信念は本当に優しいものだ。だが、この場面でそれは……。



「ジンギさん、本当に子ども相手だとああいった行動をしてしまうのですよね。本来なら称賛されるべき行動なのですが、ダンジョンの中でそれをやってしまうと、中々」



「ええ、あれでは攻撃に回れませんか」



 骨の竜が飛び上がり、その口からミーシャさんが吐く竜砲のようなそれを吐き出し、ジンギくんの体を焦げ付かせる。



 しかしさすがの防御力、その程度ではあまり傷になっていないのか、ジンギくんはエレノーラを担いで駆け出した。



『あ、あの! ジンギお兄ちゃん――』



『……悪い、わかってる。ただ、俺はこういう戦い方しか出来ねぇんだ』



『……』



 エレノーラを背後に立たせ、ジンギくんは迫る攻撃を受け続ける。

 そしてキリングエンドラーの様子が変わった。



 動きを突然止めたキリングエンドラーがめきめきと音を鳴らし始める。



「あまりこっちには例がないから知らないだろうけれど、元々ドラゴニュートって、竜から人の姿になれるギフトなんだよね」



「……? そうなのですか、以前私が聞いた話だと、ドラゴニュートのギフトによって竜の特性を与えられるスキルだと」



「う~んと、ちょっと変わった仕様なんだけれど、ドラゴニュートのギフトを得た時点で、僕も世界も、その人は竜って認定するの。だから人の状態で竜を引き出す。これがドラゴニュートのスキルだよ。え~っと、リョカちゃんならなんて説明するかなぁ」



「あ~つまりだ。簡単な話、竜でない奴もギフトを得た時点で竜になり、その体を補うのは信仰――それはお前の今の体やテッドの『大地の魂の極光(プラネテスフェイト)』を発動させるって認識で良い」



「なるほど、つまりあのキリングエンドラーは……」



 ジンギくんとエレノーラが戦うキリングエンドラーがヒト型になり、咆哮を上げた。

 骨がスキルを発動させたから骨のままのヒト型と思われたが、魔王の現闇らで補修し、あちこち空洞になっているが、肉のついた人の体を模していた。



『こいつは――』



『っ! ジンギお兄ちゃん!』



 ヒト型のキリングエンドラーが高速でジンギくんに詰め寄った。



『しゃらくせぇ! 厳剛拳王(がんごうけんおう)



 ナイトマイトメタルの第3スキル。拳を金属に変え、さらにそれが手甲のような形になる。

 ジンギくんはその手でキリングエンドラーの突進を止め、魔物の両手を自身の手でつかんだ。



 けれど竜となったキリングエンドラーは止まらない。

 その口から覚えのある気配。かの魔物から力の奔流が吐き出された。



『それは聖女で学習済だ! 厳爆鎧王!』



 全身を金属に変え、そのまま鎧へと変わり、竜の息吹を防いだジンギくんがそのままキリングエンドラーを殴り飛ばした。



 そしてそのままジンギくんがキリングエンドラーに組み敷き、鎧化させた拳を何度も魔物に叩きこんだ。



「……うん、やっぱ火力が足りてないね。防御面は本当に優秀、何の金属かわからないけれど、あそこまでナイトマイトメタルを扱える人は初めて見たかも」



「あれ、確かリョカちゃんがでっち上げた金属を思い込みで練り上げてるんだったっけ? 僕の記憶ではそんなこと言ってたような気がするんだけれど」



「え、あれ思い込みの産物なの? すっごいなあの子、あたしの魔物作りにも参考にしよっと」



 ラムダ様とクオン様が驚く中、私の視線はエレノーラに注がれた。

 あの子は一体なにをしているのでしょうか。

 ここからだと何かしているのはわかっても、それが何なのか全く見当が付かない。



 すると、キリングエンドラーもそれに気が付いたのか、ジンギくんを跳ね除け、その視線をエレノーラに注いだ。



『――っ!』



『させっかよ! 【厳々脚王(がんがんきゃくおう)】』



 すぐに体勢を整えたジンギくんが飛び出し、鎧化させた脚でキリングエンドラーの攻撃を防ぎ、そのまま飛び上がって蹴り上げた。

 しかしえりあぼすの攻撃は止まらず、竜の爪の連撃、さらに息吹を吐き出され、ジンギくんの体に傷が増えていた。



 私がルナ様に目をやると、彼女も残念そうにうなずき、私はブラックラックレギオンの準備をする。



『待ってお父様!』



「……エレノーラ?」



 辺りを見渡すと、エレノーラのクマが浮いており、あの子はここでもズルをしていましたか。と、画面の中で視線をこちらに向けているあの子を呆れたような顔で見る。



『ごめんなさいお父様、でも、もう少しだけ』



「……もう少しだけですよ」



 エレノーラが頷いた。

 そして自身を守ってくれる眼前の騎士に、私の娘が頭を下げる。



『……ジンギお兄ちゃん、その――』



『いいよ、言ってみろ。やっぱ俺はまだ使われるくらいが丁度良い』



『あとちょっとだから、その間』



『エレを守ればいいんだろ?』



『うん』



『んじゃ、トドメは任せる。俺には荷が重かったみたいだ』



『ううん、ジンギお兄ちゃん、格好良かったよ』



『……それならよし! もうちっと頑張るか』



 リョカさんから貰った薬巻に火を点し、ジンギくんが嗤った。

 ああ、彼もああいう表情が出来るようになったのですね。



 あの時、バイツロンド爺から怯えるだけの彼ではなくなったのだと、私は振り上げていた手を下ろし、そのまま見守る。



「大丈夫でしょうか?」



「大丈夫ですよ、ジンギくんは強い子だ、それに私の娘もいますから」



 微笑む私に、ルナ様も安堵の息を吐いて見守ることを決めてくださったようだ。



『っしゃぁぁぁっ! 防御に徹した俺を易々と抜けると思うなよ!』



 ジンギくんはキリングエンドラーに飛び掛かりのだが、それは龍の腕によって振り払われる。しかし頑強な彼はそれでもなお飛び掛かり、しがみつき、何が何でもエレノーラへの攻撃を自身へと通していた。



「うん、見事。ジンギ=セブンスターくん、うちの馬鹿に憧れたみたいで、どんな子だろうと思っていたけれど、いやいや、格好いい子だね」



「それ、本人が一番喜ぶ評価ですよ。あの子は格好良いに憧れていますから」



「あのままでいてほしいね。聖騎士なんかにするのはもったいない」



「……ルーファ(・・・・)に牽制すんなよな。まあけどそれは俺も賛成だな。聖騎士よりもっといいギフトがあると思うぜ」



 ジンギくんの評価が女神様間で上がっている中、ついにジンギくんのスキルが切れた。

 これは――と、私が準備するのだが、彼が微笑み、意識を背後にやっていることに気が付き、私の視線はエレノーラに向けられた。



『ありがとうジンギお兄ちゃん、もう大丈夫。リョカお姉ちゃんの世界だったから、少し時間かかっちゃった。それとあの魔物、中々エレの方向いてくれなかったんだよ』



『……おぅ、あと、任せた』



 ルナ様に目を向けると、彼女が首を横に振ったために、きっとジンギくんはあそこで立ったまま、エレノーラを守り切ったまま、意識を手放したのだろう。



 キリングエンドラーが咆哮を上げた。

 それは勝利を確信したのか、それとも強者を倒したことの喜びなのか。



 しかしそれは、私の娘を怒らせる行動だったようだ。



『――』



 エレノーラがキリングエンドラーを睨みつける。

 戦闘圧を伴ってずかずかと歩みを進めている。



『準備は出来ました。戦っている最中、ずっとずっとあなたの意識をずらし続けていました(・・・・・・・・・・)。発動に時間がかかるのが難点ですけれど、もう負けません。それ以前によくもあれだけジンギさんを傷つけましたね。【魔をも穿つ同士の福音(エクストラリミット)曖昧な世界の陽炎アルティラムダエンブレム】』



 あれはリョカさんがガイルにも渡していた福音、アストラルフェイトやプラネテスフェイトのような素質の武装化。

 それを使ったエレノーラの衣装が変わり、私は少し苦笑いを浮かべる。



「ありゃ、あれって確かロイくんの開いていたお祭りで」



「ええ、精霊女王様が着ていた衣装ですね。私とアンジェの手作りでしたが、あの子は気に入っていましたから」



 精霊女王様を称える人形劇で彼女が来ていた衣装。

 それは煌びやかなドレスのようでありながら、平民でも平等に救いを与える親しみやすさ、さらに同じ畑に立って我々に力を与えてくださるような存在を意識して作られたもので、今思えば田舎の令嬢感がある衣装で、少し恥ずかしくもなる。



 しかしそんな感情を吹き飛ばすように、エレノーラの衣装が変わった瞬間、あの子の背後がまるで陶器のようなヒビが入る。



 私も、女神さまたちも驚いている中、ルナ様が画面の1つを大きくし、そこには私たち以上に驚いているテッポウのようなものを構えたリョカさんが映っていた。



『ぬわぁっ! え、なに、誰? え、書き換えられた? 僕の世界になんか別の世界が混じってるんだけど』



「これは――」



 私は急いでエレノーラの映る画面に目を戻すと、そこにはどこか亡くした妻の顔を彷彿とさせる表情を浮かべたエレノーラが、色香を以って嗤っていた。



『ねえ魔物さん、今、あなたの目の前に映っているのは誰ですか(・・・・・)?』



 キリングエンドラーが飛び出し、エレノーラにその爪を向けた。

 しかし、魔物の懐に飛び込んだ私の娘が大きく息を吸って口を開く。



金色炎(・・・)



 キリングエンドラーの攻撃を腕で払ったエレノーラがえりあぼすのの懐に拳を放った瞬間、見慣れた金色の炎が魔物を吹き飛ばした。



『風斬り――』



 呟いたエレノーラがとんでもない速度でキリングエンドラーを追っていき、何も持っていないはずの手に、まるで何かを握っているような持ち方で腕を振り上げた。



如月流(・・・)――』



 武器で斬られたはずもないのに、えりあぼすは血を噴き出し、呼吸を荒げてエレノーラから後退した。



「はぇ? なんだこれ? ちょっと待て、誰か説明頼む」



「……アヤメが説明できなければ、ここにいる者で説明は不可能ですよ。ちょっと待ってください」



 ルナ様が再度画面をリョカさんの方に移した。



『う~んと? エレノーラかな? あの子多分これくらいできるよね。ただなんだこれ? 世界がずれてる? いや違う、ずれた世界を同期してる? あ~、誰か映像こっちにくれないかな』



 ルナ様が目を閉じ、およそ今の映像をリョカさんに送っているのだろう。



『おっとルナちゃん? ってなんだこれ。エレノーラが他の人の力を……いや違うな。これ多分あれだ。世界の境界を取っ払ってるんだ』



「どういうことでしょうか?」



『えっと、多分エレノーラは相手の視界を曖昧にしている。つまり、誰が映っていても(・・・・・・・・)おかしくない(・・・・・・)ってこと』



「う~んと、それだとどうなるのですか?」



『誰が映っていてもおかしくないってことは、誰がそこにいても良いってこと。つまりエレノーラは他人の視界を、別の人物に置き換えて戦っている。あの魔物の視界がどうなっているのかはわからないけれど、少なくともふわふわ髪の女の子とは戦っていないはずだよ』



「そんなことができるんですか?」



『あ~っと、多分エレノーラ、凄く苦戦してたでしょ? それは僕の世界の中にいるから、この世界を理解するのに時間がかかっていたんだと思う。そんで、多分本来は彼女の記憶を具現化したうえで、その記憶を自分の世界に同期している。エレノーラはガイル、テッカになっているっていう世界を創造したんだと思う』



 リョカさんの説明を何とかかみ砕いて自身で理解しようとしていると、エレノーラが顔を歪めていた。



『ただ気を付けて。確かに相手の視界はガイルやテッカだけれど、戦っているのはエレノーラだ。彼らの戦い方を完全に取り入れても、その体は本人のものだ』



 エレノーラの手が赤くなっている。そして息を荒げている。

 リョカさんの言う通り、体はエレノーラのままなのだろう。



 私が助けに入る準備をすると、エレノーラが足を取られて転んでしまった。



「マズい――」



 すぐに準備をしたが、間に合いそうにもない。

 私は顔を歪めるが、魔物はエレノーラへの攻撃を止めずに、息吹を吐き出した。



『おらぁぁぁっ! 厳爆鎧王! エレぇッ!』



 ジンギくんがエレノーラの正面に躍り出て息吹を防ぎ、そのまま魔物の背後に回ってキリングエンドラーの下顎と上顎を両手でつかみ、口を開かせた。



『うん!』



 エレノーラが立ち上がって飛び出し、大きく開かれたキリングエンドラーの口に、同じく大きく口を開いたエレノーラが叫んだ。



『48連――竜砲!』



 がおおぉっと吐き出された誰かの信仰が、キリングエンドラーの口から流れ込んでいき、そのままえりあぼすの爆発させた。



 ポテンと尻餅をついたエレノーラがそのままの態勢で歓喜の顔で体を震わせた。



『や、ったぁぁっ!』



 エレノーラが喜びの声を上げると、ジンギくんが片目を瞑って拳を娘に向けた。

 それを受けてエレノーラがジンギくんに飛び掛かり、そのまま2人揃って荒野に倒れ込み、嬉しそうな笑い声を互いに放っていた。



「……まったく、ひやひやしましたよ」



「いや本当に、エレもやるじゃない。それにジンギも、いいタイミングね」



「ジンギくんにはあとでお礼をしなければなりませんね」



「そうしてあげてください。きっと喜びますよ」



 私は成長した娘とそしてその娘を守る立派な騎士に敬意を払いつつ、安堵の息を漏らしたのだった。

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