輪廻の魔王さんと戦闘解説1
「ジンギくん、本当にありがとうございます」
「エレは悪戯っ子だよなぁ。というかテルネ、普通に外されてんじゃないの」
「……幽体が本体なのを想定しているとでも?」
「そりゃあそうだよね。しかしエレノーラちゃん、やっぱり賢い子だ」
「ラムダ様、そう言ってもらえるのは誇らしいですが、やはり駄目なものは駄目と言わないとあの子のためにはなりません」
私は頭を抱えて巨大すくりーんに目をやる。
様々な区画で状況が動き、観戦している生徒さんや教員の皆さん、いつの間にか入り込んでいたゼプテンの冒険者の方々、みながみな、様々に変わる状況を楽しんでおり、この催し自体は成功といってもいいだろう。
「エレノーラさん、弱体化されている部分を切り離したのですね」
「幽体だからできることだよなぁ。なんか脱皮みたいね」
「ふむ……もし彼女のような存在を想定するならば――」
「わたくしの力が不可欠ですわ」
パッと咲いたような笑顔を浮かべるルナ様に、テルネ様が顔を引きつらせるのだが、すぐにため息をついてカップを傾けお茶で唇を潤した。
「どちらにせよ、ああして間違いを正してくれる方と一緒で良かったですよ。やはりリョカさんの言う通り、色々と学ぶべきかもしれませんね」
そう私がぼやくと、近くにいたヘリオス先生がやってきて、傍にある椅子に腰を下ろした。
「リョカ=ジブリッドが近い内に編入させたい子がいると話していたのですが、それはもしや」
「ええ、多分私の娘です。さっきズルをしたあの子です」
「なるほど、確かに幼いですが誰にでも学ぶ権利はある。諸々の準備が終わった時は歓迎しますよ」
「お世話になります」
互いに頭を下げて挨拶する光景に、アヤメ様が何か言いたそうにしていた。
「……これが長年世界を脅かしていたっつうからわかんねぇもんだよなぁ」
「アヤメ、そういうことは思っても言わないことです。2人に失礼ですよ」
私とヘリオス先生はすまし顔でカップからお茶を飲んだ。
そしてアヤメ様が改めて画面に目をやり、私に挑むような視線を向けてきた。
「で、お前はこの戦いをどう見る?」
「ふむ……」
女神様に挑まれたのであれば、それは試練だと受け取り迎え撃ちましょう。
私は少し考え込む素振りをし、リョカさんとガイル、アルマリアとオルタくんを見る。
「あれがテッカやカナデ嬢であったのならそれほど脅威ではないでしょう」
「だな、あいつらならあれを弾ける」
「ええ、ですがアルマリアもオルタくんも、どちらかといえばスキルの扱いによって相手より優位に立つことが出来る子たちです。反応速度や動体視力はそれなりです」
「だねぇ、アルマリアちゃんもあのオルタくんって子も……いやそれ以前に、リョカちゃんのあれは」
「速すぎますね。ここで見ていても射出された物の軌道が見えない。さらにどこから撃ちだしたのかわからないのも問題ですね。あの威力と速度、直線にしか進まないと思うので」
と、私が言うと神獣様がにやりと笑みを浮かべる。
「そう思うか?」
アヤメ様のニヤケ顔に首を傾げると、私の隣ににゅっと少女が生えてきた。
「さすがに人の目じゃあれは捉えきれないよ。アヤメのところのテッカくんやカナデちゃんがおかしいだけ」
「クオン」
「やっほ~、お仕事片付いたから来ちゃった。ついでにピヨピヨしていた子も案内してあげた」
「連れてくんなよなぁ」
可憐に笑うクオン様に、私は立ち上がって頭を下げ、席を用意した。
ありがとうと礼を言う竜神様に、さらにカップにお茶を注ぎ、話の続きを促した。
「ルナ、あれちょっと遅くできる?」
「やってみますけれど、わたくしもアヤメの憎たらしい顔の真意は知りませんよ?」
「獣の動体視力と、最強生物の竜だから見えるんだよ。ほらそこ、そこを遅くして」
クオン様の指示で画面の出来事を遅く見せたルナ様――そこで私は気が付く。
「これは――」
どこからともなく飛んできた金属の筒、それが空間に当たると同時に軌道を変え、さらに加速した。
いや違う。
よくよく目を凝らすと、金属の筒が当たった箇所には薄くだが何かが渦巻いており、私はそれを知っていた。
「『我が纏うは無色の衝撃』」
「衝撃の魔王オーラだな。リョカはあの弾……弾丸を遠くから撃ち、それを設置した衝撃の魔王オーラで操って速度を上げ、さらに発射場所や時間をわかり難くしている」
「戦場を見渡すことに関しては、君の娘ちゃんよりリョカちゃんの方が『他の目を盗む者』を上手く使えるからね。あんなもの、正直常人じゃ避けようがないよ」
「あれ、一応リョカが手加減して撃ってるっぽいのよね。致命傷は避けるようにしているし、何よりあの弾丸、回復が付与されているから実は当たっても大したことないのよ」
「……あれは、完全に殺しの武器ですね。リョカ=ジブリッドめ、あんなものを作っていたとは」
頭を抱えるヘリオス先生に同情しながら、私も少し考える。
「ふむ……」
「お前ならどう戦う?」
「物量で押し切りますね。それに、確かに軌道は読めませんが、女神様の信仰の奇跡――私のアークブリューナクで弾けますから」
「お前本当に恐ろしい奴だよな。神官で勇者すら殴り返せるほどの強化とか普通はあり得ないからな」
アヤメ様に笑みを返し、私は画面に目を戻す。
内心ではアルマリアを応援したいところですが、グエングリッターでの旅を経てまた調子に乗っていたみたいですし、この辺りでリョカさんとガイルにその高く伸びた鼻をへし折ってもらうのも良いかもしれない。
そんなことを想いながら、私は頬笑みを絶やすことなく彼女たちを見守るのだった。




