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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
26章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、自家製ダンジョンで暴れ回る。1

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頑強の執事くん、眼前に据える目標

「う~む」



「ジンギお兄ちゃん?」



「ああいや、今のところここは安全みたいだな」



「だよ。と、いうわけだから、皆さんもちゃんと休んでいってくださいね」



 俺とエレノーラはもといた森林から抜け出し、今は荒野のような場所にいる。

 そこは砂地で見通しは良いが、代わり映えのない景色に、竜の骨のようなものが所々にあり、年頃なエレノーラは少し退屈そうにしていたが、少しすると俺たち以外の4人組の生徒たちがやってきて、リョカに説明を受けた通り、彼らと戦った。



 そこまでは良かったのだが、思った以上に弱体化が厄介で、俺は使う金属によって強さが変わるからなんとかなったが、エレノーラは戦いにくそうだった。



 しかし膨れていたエレノーラが何かに気が付き、どうにも悪戯っ子な顔で笑みを浮かべた後からは戦況が一変した。

 他の生徒たちの攻撃が次々と外れるようになり、本人たちも困惑しながら戦いはじめ、そこからはもう、俺たちの余裕勝ちだった。



「エレ、さっきなにしたんだ?」



「みゅ? え~っと……」



 エレノーラが視線をあちこちに逸らし、俺と顔を合わせないようにした。

 これは――。

 俺はため息をつき、エレノーラの頭に軽く拳を落とした。



「ズルしたなぁ? こういうのはちゃんとやらねぇと駄目だぞ。そのまま続けたらろくでもない大人になっちまうぞ」



「あぅ」



「ルールっつうのは守るから意味があるんだ。そんで、どうしてルールが出来たのか、みんなが楽しく、安全に、そして想定外を減らすために設けているんだぞ。それを破っちまって、もしエレが怪我しちまったらどうすんだ。この遺跡を作ったリョカも怒られるし、父親のロイさんだって怒られちまう。お前が大好きな人が怒られる姿は見たくねぇだろ?」



「……はい」



「それに、俺だって一緒にいるお前が怪我したら悲しくなっちまうよ。だからこれっきりにしろな」



 俺は適当な骨っぽいものに腰を下ろし、シュンとするエレノーラに手招きした。

 すると彼女が近づいてきたから俺は持ち上げて膝の上に座らせる。



 そして今戦った生徒たちを顎で指す。



「あぅ……その、お姉ちゃんお兄ちゃんたち、ごめんなさい。エレは、ちょっとズルいことをしました」



 頭を下げるエレノーラの後ろで、俺は他の奴らに肩を竦めてみせる。

 すると奴らは顔を見合わせた後、全然気にしていないとエレノーラの頭を撫で始めた。



 こんな小さな子まで弱体化されて勝っても正直自慢も出来ないと話す面々だが、その先入観は捨てた方がいい。

 エレノーラはゼプテンのギルドマスターと似た体躯をしており、こいつらはアルマリアさんにも油断して挑むつもりなのだろうかと呆れた顔を向ける。



「う、うん、一応エクストラコードと加護は使わなかったよっ」



 と、エレノーラが話すと、奴らは口をキュッと閉じた。

 ほれ見たことか、お前らが油断して勝てる相手ではない。



「まあ、どちらにせよ、どんな相手でも油断はするな。それと、何か起きたとわかったのならいったん身を引いて戦略を立てるのも手だぞ。ちと起きてからの落ち着きが足りなすぎるぞお前たち」



 奴らがぐぬぬと顔を伏せてしまう。

 そんな奴らに、エレノーラが人数分のカップに水筒から茶を入れてそれを手渡しはにかんだ。



 奴らがそれぞれ礼を言い、のんびりとした空気感で伸びをしていた。



「それ飲んだらさっさと戻れな」



 え~とかぶうたれる奴らに適当に手を振って、早くどこかに行けと態度を示しながら、俺は背後を軽く睨みつける。



 こんな状態で戦いたくはねぇな。



 エレノーラからお菓子を幾つか受け取った奴らが今度こそ手を上げて転移していった。



「さてと」



「ジンギお兄ちゃん?」



「エレノーラ、まだ戦えるか? もし無理なら俺1人で何とかするけれど――」



「ヤっ、一緒に頑張るよ」



「……そうか」



 俺はエレノーラを抱き上げるとそのまま立ち上がり、辺りを見渡す。

 すると今まで椅子にしていた骨やここに来るまで見えていた骨、それらが動き出し、一か所に集まり始めた。



「これがエリアボスか」



「エレも頑張るよ」



「おぅ、期待してる。俺はそんなに攻撃得意じゃないからな。ちゃんと2人で勝つぞ」



 胸の中のエレノーラが拳を向けてきたから、俺は彼女の拳に拳を合わせる。

 久々の大きな戦闘だ。

 気合を入れろジンギ=セブンスター。



 どんな情けない戦い方をしようが、せめて一緒にいるこの小さな女の子には格好悪い姿を見せるわけにはいかないな。

 どんな姿であれ、子どもには格好良く、頼られる大人にならなくちゃここまで俺を引っ張って来てくれた格好良い大人たちに顔向けができなくなる。



 俺は拳を強く握り、巨大化していった骨の魔物に、まだ弱いが、それでも確かに強く願った嗤い(・・)を向けるのだった。

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