勇者のおっさん、ギルドの力量を見極める
「おいおいアルマリアぁ、エクストラコードっつうのはうんなもんか!」
「この脳筋――『虚像を添えて空を超え』」
月と星の出る丘に移動した俺たちはそこでアルマリアとオルタと出会い、こうして戦いを挑んでいるのだが、なるほどどうして、エクストラコードがやはり厄介なのと、オルタの補助能力がずば抜けて高い。
もっとも、それも銀色の魔王様の前では霞むが。
アルマリアがエクストラコードで強化したグリッドジャンプ改め、グリッドファントムを使用した。
あれは転移すると同時に自身の虚像を幾つも発生させ、相手を惑わすというスキルだ。
虚像には戦闘圧もあるし、気配もある、それに匂いもある。
つまり、ほぼ本物の偽物。流石に攻撃はしてこないが、それでもあれだけの気配を纏った虚像を混ぜて空間転移されると、見失ってしまう。
「だけどなぁ……うんなもん、まとめてブッ飛ばせばどうとでもなるんだよ! 二重連――」
信仰と燃料の弾を吐き出し、俺は地面に向かって思い切り聖剣を振る。
拳で大地を打ち上げ、駆け込んできたアルマリアたちに炎を纏わせた大地の残骸を叩きつける。
「アルマリア殿! 『降り注げ宝石雪・クイックソーサリー』」
鉱石を細かくして辺りにその効果を発揮させるクラックリングプリズム、オルタが駆けだしたが、あいつはあまり速くは動けない。そう思っていたが、その彼が突然加速した。
なるほど、そういう効果の鉱石なのだろう。
オルタがアルマリアの前に躍り出ると、そのまま眼前を睨む。
「『奮い立て原書結晶・クリムゾンスナッチ』」
オルタがリョカが渡したという2つのてっぽうをアルマリアの分身の左右に撃ちだし、そのままスキルを発動させた。
『無価値な煌めき』の最終スキル。
どんな鉱石さえも力を引き出せる。
オルタが選択したのはクリムゾンスナッチ、どんな効果かはわからないが、少なくともあのオルタリヴァ=ヴァイスが選択した鉱石だ、俺の体には力が入る。
思った通りに、俺が打ち上げた大地がオルタの撃った箇所に吸い込まれていく。
熱……だけじゃねぇな。衝撃や攻撃まで吸い込んでいる。
攻撃を受けなかったアルマリアが突っ込んでくる。
「今回は私の勝ちですよぅ!」
「……どうかね。三重連――」
「おっとそれ、もらいますね」
「お前の細腕で扱えるほど生温くはねぇぞ!」
クリップグリッドの吸収効果、だが本人が扱えきれないほどの衝撃は当然体に行き傷がつく。
俺の聖剣にアルマリアが手をかざした。そしてやはりというか、衝撃はアルマリアの容量を超え――。
「残念。『置き溜め衝撃吸収』」
俺の攻撃が吸収され、その衝撃が球体のようになってアルマリアの傍に浮き、さらに空いたもう片方の手が聖剣にかざされた瞬間、吸いきれなかった衝撃がさらに吸われて球体となった。
これは――俺の信仰弾丸と似たようなものか。
「今回は勝ちです。1人で挑むから悪いんですよぉ。これで終わりです『撃ち抜け・聖域を貫く矢』」
さて、どうしたものか。
この距離からのセンスガンズは避けられねぇ。
今の俺だけの信仰と燃料じゃ四重が限度だ、相殺するのも難しいだろう。
そろそろ、相棒が動いてくれると助かるんだがな。
「――ッ! アルマリア殿!」
「え――?」
ズドンというような、何か空気が破裂するような音と共に、駆け出してきたオルタの手にあるテッポウが弾き出された。
「へ……まさか。ガイルさん、あなた1人じゃ――」
「誰が1人っつったよ?」
リョカのアガートラームが俺の聖剣に光を与えた。
「五重連――」
「ちょ――」
アルマリアが焦ってセンスガンズを投げてきた。
しかし俺はそれをすぐに殴り返し相殺するとともに、アルマリアにも一発拳を入れた。
アルマリアが腹を押さえながら忌々し気に俺を睨み、肩を貸したオルタともども辺りを見渡す。
「……アルマリア殿、これ、リョカ様です」
「みたいだね~。私のパーフェクトサテラには一切引っかかってないんですけど~」
「超長距離からの狙撃っつってたぜ」
オルタが額から汗を流しながら、残ったもう片方のテッポウを構えるのだが、先ほど鳴った音がまた聞こえるとともに、そのテッポウも弾かれた。
「どこから――」
「というかなに勇者が魔王と組んでイキってるんですかぁ?」
「しゃあねぇだろ。最初に出会ったのがリョカだったんだ」
「しかもなんですかその良相性、いつの間に金色炎の勇者は魔王に屈したんですかぁ!」
「エクストラコード2つ持ちのおめぇが言うな」
そして俺は腕を回し、アルマリアとオルタと対峙する。
「さて、やっとあったまってきたんだ。すぐにやられんじゃねぇぞ?」
ギルドマスターとギルドの期待の星が苦々しい顔で体を固まらせており、俺はニヤケ顔で指を上下させる。
かかってこいよ。そんな意思を込めて、俺たちはこの楽しい戦いを始めるのだった。




