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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
26章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、自家製ダンジョンで暴れ回る。1

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風と歩む元暗殺者さん、フラグを立てる

「……」



「どうだセルネ」



「……はい、強い魔物の気配はまだないと思います。ただ」



 セルネに周囲の探知をやらせているのだが、どうにも落ち着かない様子で辺りを見渡している。



「その、なんというか、漠然と? なんだろう」



「妙な感覚がするか?」



 俺が最初に出会ったのはセルネだった。

 俺にはやはり勇者の剣が向いているらしく、あのバカと出会った頃と同じく、手探りで道を進んでいる。

 遺跡にはいくつか潜ったことがあるが、あの銀色の魔王が作った遺跡、どうにも侮れない。



 魔物の種類は古今東西あらゆるものがおり、ひよっこの冒険者に任せるには少し強い。

 しかもどうにもデカい魔物もいるようで、リョカが話していたエリアボスというものだろう。



 もっとも、俺たちのいるこの木々の生い茂る区域では、さっきとても大きな気配と共に魔物の断末魔がこだましたが……。




「ミーシャだろうな」



「……ですよね~」



 セルネが肩を落とし、悲壮感に顔を覆った。

 俺はセルネの肩を軽くたたくと、とりあえず元気づけようと試みる。



「そう悲観するな。少なくとも俺とお前ならミーシャから逃げ切れる」



「う~、そうですけれどテッカさん、もしリョカと組んでいたりしたら」



 体をブルと震わせたセルネだが、むしろその方が俺としては助かる。



「いや、リョカならマシだ。あいつはミーシャを止められるからな」



「あ、そっか、ミーシャがあんまり暴れるとリョカが止めてくれるのか」



「ああ、むしろオタクやジンギだとマズい。あいつの行動に振り回されて制御不能になる」



「……俺、テッカさんと組めてよかったですね」



「ああ、お前も間違いなく振り回される。まあ敵として出会ってもそうなりそうだがな」



「あの、俺そんなにミーシャに対して弱気に見えてますか?」



「見えるな。まあリョカから聞いたが、お前入学当初からあいつから数発貰っていたそうじゃないか?」



「……はい、お恥ずかしい話ですが、相当調子に乗っていたので」



 ランファとジンギもあまりその時のことを話されたくないのか、あからさまに会話をはぐらかしており、俺は深くは聞かないようにしている。



「あの時の俺は、リョカが一番まともだと気付くのに時間がかかってしまって――ミーシャがリョカとジンギたちをボコボコにしていたのを目の当たりにして初めて気が付いたんですよ」



「お前はミーシャに振り回されてばかりだな」



「ええ、でも……」



 セルネが肩をすくませ、苦笑いを浮かべたかと思うと、どこか誇らしそうに顔を上げた。



「そんなミーシャが、あんたは良い壁役ね、今度からあたしの壁になりなさい。なんて褒めてくれたんですよ。確かにミーシャはみんなを何か知らないうちに引っ張ってくれますけれど、戦いの場では、俺はせめてあの聖女様の壁にならなくちゃって」



「……それではお前にミーシャは倒せないな」



「そうなんですよね」



 たはは。と笑うセルネだが、俺は別に嫌いではない。

 このセルネ=ルーデルという勇者はまだ半人前だ。そんなこと自分で自覚しているだろうし、一人前になるための鍛錬も怠っていない。

 そうでなくてもこの勇者はただの約束を、誓いを聖剣に変える勇者なのだ、約束のために勝てないというのであれば、それでいいのだろう。



「なんか、ミーシャの話ばかりしているからそこからひょっこり出てきそうですね」



「それは困るな。ところでセルネ、もしミーシャが組んで最も危険なのは誰だと思う?」



「え? え~っと、ソフィアとかガイルさんですか?」



「ソフィアは振り回されるだろうな。ガイルは……別行動しそうだから大丈夫だろう。いるだろう1人、同じ速度、同じ歩幅、同じ心の波長で歩める奴が。お前いやになり過ぎてさっきから一度も会話に挙げていないぞ」



「……」



 セルネの顔が青くなる。

 リョカとミーシャがいない間、セルネとランファに奴を止める役に就いてもらっていたのだが、結果心労を与えただけだったらしい。



「カナデ……」



「そうだぞ。あいつと一緒になるのが一番まずい」



 自分で言ってなんだが、あれは本当に手が負えなくなる。

 するとセルネが顔を引きつらせて笑っており、そのまま口を開いた。



「も、も~止めてくださいよテッカさん、前にリョカが言っていましたよ、テッカさんはふらぐ? っていうほぼ予知を起こすのが上手いから変なこと口走りそうになったら口をふさいだ方がいいって」



「あいつは俺のことをなんだと思っているんだ」



「ですよね――」



 まったくバカバカしいにもほどがあると一蹴すると、俺たちの背後の茂みがゴソゴソと動いた。



「あら、テッカとセルネじゃない」



「あ、本当ですわ~。セルネ、キサラギの人、楽しんでいますのぉ?」



 セルネは瞬時に聖剣を使用し、俺も一気に空気を切り替える。



「セルネぇッ!」



「わかってますっ!」



 俺たちは最悪な2人に意識を向けるよりも速く、脚を動かす。

 セルネはまだ最高速に達していないようだが、逃げるだけであるのなら直線的な俺の動きよりはあちこちに動き回れるセルネの方に分がある。



「追ってきているか?」



「わかりません! ただ、ミーシャにこの速度は――」



「『臣下宣言(エクストラコード)因果をも収める強欲(ヘリオトオーブ)』裏不知火――夢幻白凪」



 いつぞやの距離を無視した高速転移。いや違う――リョカ曰く、距離を切り取って実質ゼロを進んでいるとのことらしく、転移でも何でもなく、カナデは移動しているらしい。



 相変わらず理不尽でバカげたスキルだ。



 カナデは短刀を構え、俺たちにその刃を放ってきた。



「プリマ!」



「ういういっ、セルネごめんねぇ」



「我が授かるは蒼炎の契約、コンコンコン、切り刻め! 我が刃に災禍の喝采! 『アリスオーダー・表不知火――回天炎舞』」



 炎を纏わせた短刀を持ったまま回転しながら突っ込んできたカナデに、俺は舌打ちを1つし、大きく息を吸う。



「如月流疾風二式『影伝い(かげづたい)(こがらし)』」



 超速の剣技によってカナデの短刀を止め、俺はすぐに彼女を蹴り上げた。

 そして再度態勢を整えようとカナデから距離を取ろうとしたのだが、セルネがハッとした顔を浮かべたのが見えた。



「――ッ! テッカさん!」



 狼という動物の姿をしたセルネが俺を突き飛ばしてきた。

 なんだと顔を上げるのだが、俺の頭がすぐに警告を出した。



 俺とセルネすれすれに、真っ黒な力の奔流が通り過ぎていった。



 木々を燃やし、灰となった一本道をゆっくりと歩んでくる者がいた。

 焦土を歩むその姿は、誰が何と言おうと聖女ではない。



「セルネ、テッカ、いきなり隠れるなんて随分じゃない。せっかくですし、正々堂々、真正面からやりましょうよ」



 そう言って嗤う聖女が大きく口を開け、がおおおと辺り一面を火の海に変えた。



 ふと俺は違和感に気が付く。



「……なあセルネ」



「ミーシャの様子変じゃないですか?」



「ああ、なにやら口調や様子が――」



『あ~テッカ?』



 頭に響く声、セルネにも聞こえているのか、首を傾げている。

 これは、神獣様の神託。



『ミーシャな、クオンから力貰って情緒不安定だから、本当に気を付けなさいよ』



「え、いや、気を付けろと言われても――」



『じゃっ、頑張ってな』



「……」



 プツンと神託が切れ、神獣様の言葉は聞こえなくなった。

 セルネが頭を抱えており、俺もそうしたいのをぐっと我慢している。



 だがつい、心からの言葉が喉を突き破ろうとしている。



「あんの獣めえ……はっ、あ、いや」



「……わかりますよテッカさん、アヤメ様、大事な時、本当に役に立たないですよね」



「いやっ! 俺はそこまでは」



 俺はつい頭を抱えてしまい、現状最も出会いたくない2人を前にして顔を歪める。



「お話は終わり? それじゃあやり合いましょう、楽しみましょう、殺し合いましょう――沸き立つ死合いを、心躍る殴り合いを――鮮血で虹をかけるほどの高尚をっ!」



「こわっ! テッカさんあのミーシャいやです!」



「俺も見たくはなかった……」



 セルネと揃って顔を引きつらせ、俺たちはこの状況からどう脱しようかを思考を巡らせるのだった。

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