輪廻の魔王さんと女神様の騒ぎ声
「だぁっ! フィムうるせぇ!」
「喜んでいますね。確かにあれだけのアストラルフェイト、歴代でも類を見ませんね」
どうやらランファ嬢のアストラルフェイトに、フィリアム様が喜んでいるらしい。
しかし空白の時間を作る力ですか。
「……」
「ロイくん?」
「いえ、今のランファ嬢を彼女の父親と母親、それとアルフォースがみたら驚くだろうなと思いまして」
「そうですね。特にアルフォースは喜ぶのではないでしょうかね」
「ランファも強くなったよな、入学当初はあんなにつんけんしてたのに、もう見る影もねぇな」
「それ、ランファさんの前で言わないでくださいよ。気にしているみたいですし」
以前話には聞いていたが、それほど辛辣な対応だったのだろうか。今度セルネくん辺りに聞いてみても良いかもしれない。
そんなことを考えていると、テルネ様が思案顔を浮かべており、私は目をやる。
「ランファに驚くのもわかりますが、クレイン=デルマ、相変わらず誠実に強いですね」
「あれね、覚醒強化、初めて見たね。リョカちゃんがあげた食事だっけ?」
「チョコレートだな。確かにあれは気分の高揚とかあったが、健康優良児が摂取するとああなるんだな――ん?」
すると女神様方が空を見上げた。
何かあるのかと私も視線を追うのだけれど、特に何もなく、マナ嬢と顔を見合わせて首を傾げる。
「これは……」
「あ~……確かにあの子の好む戦い方とスキルですね」
「あいつはあいつでピヨピヨうるせぇからこっちに来てほしくないのよね」
「いやあの子アヤメの担当でしょう? 同じ獣属としてちゃんと面倒見なよ~」
「鳥は獣じゃねぇ」
どうにも知り合いの女神様のお話らしい。
私とマナ嬢は静かにカップを傾けてお茶を楽しむ。
「まあクレインさんはしっかりしていますし、何とかなるでしょう。それよりロイさん、エレノーラさん、ジンギさんと楽しそうにしていてよかったですね」
「ええ、ジンギくんはとてもいい子ですね。私たちのことを知っているのに、ああして普段通り、エレノーラに対しては普通の子どものように、良いお兄さんです」
「でもあいつ未だに俺たちのことをただ小さい女の子って思ってんだよなぁ」
「……私のことも平気で撫でてきますからね彼は」
「わたくしも肩車してもらいましたよ」
「ルナ、あなたはもう少し威厳を」
テルネ様が呆れているけれど、彼はあれでいいのだろう。
誰これ構わずしっかりと子どもは守るという決意を持っている。とても優しい決意だ。
そのままで成長してほしいと思う。
ふと、ラムダ様が首を傾げていた。
「……ない――」
「ん? どうしたラムダ」
「……あたし、あの子に撫でられたことないけど? ギルドで会った時、普通に敬語で話しかけられたけど?」
全員がラムダ様からサッと顔を逸らした。
「ま、マスターにも敬語で話しますからジンギくんは」
「でもアルマリアちゃんは頑張ったらジンギくんからお菓子とかもらったり、撫でられたりしているよね?」
それはどうなのだろうかギルドマスター。
今度彼女に対する印象をギルド員に聞き、まとめたものをアルマリアに叩きつけた方がいいような気がしてきた。
「大人っぽくみられるのは良いことではないですか? わたくしは別にそうは見られたくはないですけれど、ラムダはこう、雰囲気から歳を取っている感がありますし、気配を読むことに長けているジンギさんは一目で見た目詐欺だと気が付いたのではないですか?」
「……お前何でこの場面で毒吐くんだよ」
「ま、まあルナの言い分はともかく、女神としては威厳があるというのは素晴らしいことですよ――」
「やだぁぁっ!」
女神様の説得もむなしく、ラムダ様が泣き顔で私に飛び込んできた。
私は豊神様を受け止め、苦笑いで彼女を慰める。
「女神がうんなこと気にすんなよな」
「アヤメは幼くみられているからいいよね同い年なのにさっ。そうだクオン、クオンとジンギくんを会わせよう! きっと胸だよ!」
「……」
「……」
ルナ様とテルネ様が凄く怖い顔をしてラムダ様を見ている。
この手の話題は男性が必ず悪者になるために口は出さないでおきたい。
女神様というのは基本的に小さなお体で世界に顕現される。
もしかしたら子どもの姿のまま女神様になったのかもしれない。
すべての女神様を知っているわけではないが、確かにラムダ様はルナ様やアヤメ様と比べて少し体つきが大きい。
それでもエレノーラと同じほどで、年頃にして10から12ほどだろうか? どの女神様と並んでいてもお姉さんらしい見た目をしている。
「胸ってお前、俺ともそんなに変わらないでしょう。ルナとテルネが特別小さいだけよ」
アヤメ様にルナ様とテルネ様が近づき、ポコポコと小さな抗議を始めた。
「止めろ無乳ども! 貧乳はステータスだが、そもそもお前たちには数値になるだけのもんはねぇだろうが! ゼロはステータス上表示されねえんだよ!」
「……」
「……」
月神様と叡智神様の気配が変わった。
やはりこの手の話に男は関わらない方がいいですね。アンジェにも、私からは何も言ってもいないのに散々胸の話はしないでと言われていましたからね。
「特権使おうとすんな!」
私はラムダ様を膝に乗せたまま、この手の話とは関わらないために画面に目をやる。
するとある画面が気になり、そちらに目をやる。
「あ、マスター、オルタくんと組んだみたいですね」
「ええ、中々の高相性ではないでしょうか? オルタくんはしっかりしていますし、アルマリアの我が儘も受け止めた上で戦術を立てられるでしょう。それにアルマリアも、新人である彼に格好悪い姿は見せないでしょうし」
「う~ん」
「どうかしましたかマナ嬢」
「いや~、マスターはオルタくんが有能なのを知っていますから、甘えちゃうと思うんですねよ。オルタくん、ただでさえ私とマスターには甘いですし」
「……なるほど」
「あ、動き出しましたよ」
アルマリアたちがどのような活躍をするのか期待している一方、場所が月と星の空間、つまりリョカさんの力が最も発揮される場所。
先ほどリョカさんとガイルが転移装置に乗る準備をしていましたし、あの2人があの区域に足を踏み込めば厳しい戦いになるでしょう。
とはいえ、アルマリアには2つのエクストラコードがあり、それなりに戦えるでしょうからあとは私がまだ知らないオルタくんの活躍次第といったところだろう。
未だに女神さまたちの議論は終わっていないが、このダンジョンはやはり楽しいものだ。
やはり出場すればよかっただろうかと、小さな後悔を抱きつつ、私はみなさんの活躍を期待せずにはいられないのだった。




