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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
26章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、自家製ダンジョンで暴れ回る。1

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魔王ちゃんと星の勇者ちゃんと学園の勇者の剣くん

「はい、そこまで」



 僕がポンと手を叩くと、息を切らして膝に手をついている一般生徒パーティの子たちが汗を流している顔を上げた。

 キラッと流した汗が滴となって消えていき、どうにも運動部の青春の一ページのような姿に、学生時代に出来なかったことをこんなまっさらな気持ちで見られるとは。と感動しつつ、彼ら彼女らに持って来ていた水筒からカップに飲み物を注いで手渡す。



「水分をちゃんと取りなよ。いくら学校に出来た遺跡だからって、それなりに本場の遺跡に寄せて作っているんだから、そういう準備も想定しなきゃだよ」



 一応、エリアごとに飲み水が流れている仕様にしているとはいえ、本来なら水分をとることも難しい場合もある。



 一般生徒パーティの子たちがはにかみながら頷き、一応持って来ていた手拭いで体を拭いだした。

 その間に、僕はみんなの傷を癒し、幾つか食べ物を渡す。



「甘やかすなよ」



「遭遇ボーナスだよ。どうせテッカとソフィア以外の他の子たちはやりたいようにブッ飛ばして、そのまま投げ返すでしょ。ならせめて僕たちくらいは優しくしなきゃ」



「……お前ら良かったな、最初に接敵したボスが俺たちで」



 一般生徒パーティの子たちが苦笑いで頷き、僕たちに揃って頭を下げ、ありがとうございます。と、お礼を言ってくれた。



「ううん、気にしないで。ところで他の子たちと戦ったって子たちは見た?」



 するとみんなが顔を引きつらせて視線を逸らし、そんな反応に僕たちは首を傾げる。

 なんでも、ここに来る前に出会った子たちがひどい状態で、ずっとクマさんにくっ付いて離れなかったそうだ。



「……ミーシャだな」



「だろうねぇ」



 僕はため息をつき、彼女たちに鈴がくっついた道具を手渡す。



「もしまだ同じところにいたら、この鈴をその子たちの傍で鳴らしてあげて。月神様の加護で、心を癒してくれるから」



 一般生徒パーティの子たちが再度礼を言って頭を下げ、元のいた場所に転移されていった。



「ミーシャめ、多分殺気ばら撒いてグーで殴ったな」



「そういやぁあいつスキル使わなくても妙なこと出来るんだったな」



「そうそう。別に手加減しろとは言わないけれどさ、もう少し成長の機会を与えてあげても良いと思うんだよね」



「うんな器用なことあの聖女に出来るわけねぇだろ」



 別に魔王の威光なんてどうでも良いけれど、このままでは学園で最も威光を発揮しているのが聖女ということになってしまう。

 幼馴染はそれを気にしないだろうけれど、僕としてはあの子が怖がられたままというのも複雑だ。



「さて……」



「だな」



 僕とガイルは大きく伸びをして、背後に意識を向ける。

 エリアボスと戦っていた時から見られていたのは気が付いていたけれど、そろそろ僕たちの情報も集まったころだろう。



「ランファちゃ~ん、クレインく~ん」



「良いチームじゃねぇか。けれどランファ、俺と戦う時はあまり光を出すなよ、ただの燃料になるぜ」



 振り返って手を振る僕と、ニッと幼く笑い振り返るガイルに、本棚の物陰からランファちゃんとクレインくんが額から脂汗を流しながら出てきた。



「……出来ればそこを退いていただきたいのですけれど」



「ああ、そういえば僕たちの後ろに別のエリアに向かうための転移装置があるね」



「そういやぁそうだったな。いやぁ気が付かなかった」



「……さっきの子たちのように俺たちにも優しくしてもらいたいのですが」



「う~ん? クレインくん、僕普段から優しくない?」



 ウインクする僕に、2人がため息をついた。

 ここまで煽られて大人しくするタイプでもないよね。



「……ランファ嬢」



「ええ、頼みますわ――」



 クレインくんのつま先に重心が乗った直後、先に動いたのは金色炎。



「『魔をも穿つ宿敵の福音(エクストラリミット)魔に委ね尚猛る陽(エクシードウリエ)』」



「それはさっきの――ッ!」



 飛び出したガイルに、僕は指を鳴らす。



「『魔剣解放・信仰は銀姫の腕となる(アガートラーム)』」



 魔剣から放出された光線が、ガイルの聖剣に飲み込まれていき、次々と弾丸を生成する。



「二重連――」



「――ッ! 『発破・天凱、六光絶技(ろっこうぜつぎ)・胴体強化、腕力強化、脚力強化』」



 打ちだされたガイルの聖剣を、クレインくんが第6スキルを使用して、その放たれた拳を両側から拳を打ち付けることで勢いを止めた。

 しかし聖剣の炎によってクレインくんに爆炎が放たれたけれど、胴体強化によって必要以上のダメージを防いだ。



「クレインそのまま! 『聖剣顕現・時穿つ極光の七つ星(セブンスフィムリート)地に注ぐは堅牢な稲光(カラドボルグ)』」



 巨大な機械剣、雷を大気に奔らせ、辺り一面に降り注いでいく。



「我らが奏でる星の息吹、あまねく光よここに集い、全てを白き聖域に!『星降る幻想の閃光(エトワールレヴァリエ)』」



 眩い光のカーテン『光を従え歩む者(プリンシパルルミナ)』の最終スキル。

 光の波がガイルに襲い掛かるけれど、当然そんなことはさせない。



「『月に身捧ぐ絶対守護(カノンルーナアイギス)』月を冠する守護を舐めないでよね」



 月の守護盾によってガイルへの攻撃をすべて防ぎ、その光とランファちゃんの星の光が全てガイルの聖剣に吸い込まれていく。



 その光を受けたガイルが歯をむき出しにして嗤う。



 新たな光の弾丸が補充され、クレインくんによって受け止められたまま、その弾丸を消費する。



「四重連!」



「まずッ!」



 光を吸収した炎はさらに輝きを増した金色となり、クレインくんとランファちゃんを巻き込むように、爆炎が猛攻を振るう。



「ああぁもう! 発破・天涯『四翠(しすい)覚醒強化(・・・・)』!」



 これは――。



 クレインくんの戦闘圧が跳ねあがる。

 多分それだけではない。身体強化もついている。

 覚醒強化……なるほど。



「……」



「……ほ~、あれを避けるか」



「覚醒強化。まさにチョコレート効果だね」



 僕とガイルが揃って図書館の2階部分の手すりに目をやると、そこには呼吸を荒くしながらランファちゃんを脇に抱えたクレインくんがいた。



「……ありがとうございますわ、助かりましたわ」



「いいえ。でもごめん、何度も使えない」



「そうでしょうね」



「ランファ嬢、目的は変わらず?」



「ええ、相性最悪、そもそも相手が悪い。付き合ってやる道理はないですわ」



「……強行突破は無理そうだね」



「わたくしがとっておきを出しますわ」



「……了解、任せるよ」



 最早隠そうともしない辺り、相当自信があるのか、もしくは意味を成さないと勘付いているのか。どちらにせよ、やはりあの2人は賢い。

 指揮官向きというか、ちゃんと周囲を見渡せる。今ある最大のカードを躊躇なく切れる。



「相談は終わった?」



「お前らのどちらかがソフィアかエレノーラと組んでいたら違った結果だったかもな」



「……生憎ながら、誰と組んだところでお2人には勝てそうにありませんので、戦略的撤退を選択しますわ」



「させると思うか?」



「ええ、出来ますわ――」



 相当な自信、ランファちゃんが切れるとっておきといったら何がある。

 僕はそこまで考え、1つの結論に達する。



「あっ」



「『集いし星の魂の極光(アストラルフェイト)』――」



 僕は嫌な予感を覚え、あらゆるに対応しようと僕の持つ魔王のスキルをほとんど発動させる準備をする。



「『時穿つ極光の七つ星(セブンスフィムリート)星が導く時の行方(ヴァルドランウラノス)』」



 アストラルフェイト、星神様の極星が持つ素質の具現化。星の顕現、星の権威、星の特権――星の名を持つ勇者様はどのような力を持っているのか。

 僕は身構える。



 が、妙な感覚がする。



「――?」



 動いた。けれど違う。景色が違う。

 僕がすでに(・・・)発動させていた魔剣の位置が違う。



 これは――。



キン○クリムゾン(・・・・・・・・)、すでに!」



 つい叫んでしまった僕はすぐに振り返る。

 そこでは転移装置が発動し、見事にクレインくんとランファちゃんを別のエリアに運んでいる光景だった。



「……何が起きた?」



「多分空白の時間を作ったんだよ」



「空白?」



「ガイル、今ランファちゃんがアストラルフェイトを発動させてから、何秒経ったと思う?」



「一瞬だろ」



「うんにゃ、僕たちが認識できない空白の時間を作って転移装置まで移動したから5秒ってところかな。ほれ、一発もらちゃったよ」



 僕は自分の腕から流れている血とガイルの腕から流れている血を指差す。



「……なるほどな。あいつ時間を壊しやがったのか」



「そういうこと。認識できない時の中を動かれちゃ僕たちは手を出せないよ」



「やるなぁランファ、フィムあたりが大喜びしてんじゃねぇか?」



「絶対してるね。あ~あ、まんまとしてやられたね」



「だな。で、どこに逃げた?」



「う~ん、森林エリアっぽいね。追いかける?」



「いやいい。あいつらの全力が見られたしな」



「りょ~かい、それじゃあちょっと休憩したら僕たちも次のエリアに行こうか」



 僕は自分とガイルの腕の治療を終えると幾つかの食料を取り出し、現闇で作ったテーブルに腰を下ろす。

 しかし想像していた以上にみんなが強くなっている。これは思った以上に苦戦しそうだ。



 みんなの成長を喜びつつ、ここからはさらに慎重に行動しようと僕は決めるのだった。

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