魔王ちゃんと開催、魔王ダンジョン
翌日、僕は校庭にて集まった生徒たちを眺めているのだけれど、どうにも覇気がない。
あれ? みんな企画でテンション上がってくれると思っていたんだけれど、勘違いだったのだろうか。
どうにも瞳から生気が失せており、今から断頭台にでも足を進ませるかのような空気感だ。
「え~っと」
僕は先生たちから始めの司会進行と説明を任されており、校庭の台にいるのだけれど、これこのまま話し始めて大丈夫なのだろうか。
「……リョカさん、もしかしたらみなさん勘違いをしているのではないでしょうか?」
と、コソとクマ姿のロイさんが僕に耳打ちをしてきた。
「勘違いですか?」
「ええ、リョカさんが配った紙を見て思ったのですけれど、あれだけですと彼らはリョカさんやガイルたちとも常に戦わなければならないと思ったのではないでしょうか?」
「あ」
合点がいった。
彼ら彼女らはまさに首を斬られる一歩手前の気持ちなのだ。確かに説明不足だった。
「あ~ごめんね。みんな勘違いしているけれど、みんなは別に僕たちと戦わなくても大丈夫だよ」
その言葉に、全員が顔を上げ、パッと咲いたような顔で天を見上げた。
どれだけ嫌だったんだろうか。
「それじゃあ説明するね。今回のダンジョンっていうのは遺跡のことで、それを4人の集まりで攻略してもらおうと思います。中には魔物とかもいてそれなりの危険地帯になっているから一緒に組んだ人の実力や自分の実力をよく考えて行動してもらいたいです」
僕がそう説明すると、生徒の1人が手を上げた。
もしやられてしまったら自分たちは死んでしまうのかという質問だった。
その質問に僕は首を横に振る。
そして先生たちにそれぞれのアイテムを配ってもらい、それを1つずつ説明する。
「まずこのピンクの玉、これは地面に叩きつけるとすぐに割れて中からクマ……みんな知っていると思うけれど、僕の絶慈で出てくるあのへんな生物が出てきて、グリッドジャンプを使ってくれます。もう戦うことが出来ない、これ以上進めない。そう判断した時はこれを割ってください」
生徒たちが頷いたのを確認して、僕はロイさんクマを前に出した。
「それでも完全じゃない。中には引き際を誤る子も当然いるだろうからね。そんなときは勝手に彼……ロイさん、みんな知っているよね? このくまさんがみんなを助けてくれるから安心してね」
そして僕は少し考え込む。
これだけサポートに入っちゃうと甘える子が出てきそうで、少しペナルティを入れようと考える。
「ただし、正直引き際を間違えると言うのはこの先冒険者や学者としてやっていく学生としてはあってはならないことだ。だからもしこのロイさんに頼った場合、このダンジョンで手に入れた装備は全て没収とさせてもらうよ。これで少しは緊張感も持てるでしょう?」
他の子たちが力強く頷き、僕は満足する。
「ああただ、1つ例外があります。それが所謂ボス戦――ダンジョンのあちこちに転移する床があるんだけれど、その先には僕たちの誰かがいます。その時だけは負けたとしても転移してきた場所に戻すだけだからまあ力試し程度に挑んでおくれ。もちろん勝てた場合は僕特性のとんでも装備をあげちゃうよ」
他の生徒が僕の話に目を輝かせて食いついた。
けれどやはり不安なのか、戦うのかを悩んでいる生徒が多くいる感じであった。
「ちなみに、みんなに渡した腕輪だけれど、それは僕たちのギフトを弱体化する腕輪だよ。みんなと戦う時に限り、僕の場合はスキルが2つしか使えない。ガイルはスキルが3つと聖剣なし。ミーシャに至っては信仰が制限されているから多分スキルがほとんど役に立たない。これなら怖くないでしょう?」
そこでやっと生徒たちが歓喜に騒ぎ出した。
そしてあちこちで仲間集めが始まり、僕はそれを眺めているのだけれど、ふともう1つ伝えることがあり、少し注目を集めると、僕は手をルナちゃんとアヤメちゃんがいる方に向けた。
「そうそう、一応昨日準備してきたとは思うけれど、まだ補充したい子たち向けに特別購買を用意したよ。これから先、何があるかわからないし、どうかジブリッド商会の品物をお求めくださいね」
生徒たちがこぞって購買でジブリッドの商品を買い始めた。
一応格安にしてあるし、数もそれなりに用意してある。
それにしても店番するルナちゃんとアヤメちゃん可愛いな。エプロンも良く似合っている。
すると呆れ顔したガイルがやってきた。
「ちゃっかりしてんな」
「まあね。それでこっちのみんなにはさっき説明した通りだから」
こっちのみんなと言うのは僕とミーシャ、ソフィア、ガイル、テッカ、アルマリア、カナデ、オルタくん、タクトくん、クレインくん、セルネくん、ランファちゃんとジンギくん、エレノーラである。
「というかエレノーラまでいんのか」
「エレも頑張るよ~」
「わたくしたちだとエレノーラやソフィアと組めればいい感じというところですけれど」
ランファちゃんがちらと僕を見てくる。
なんだ~、抱っこしてほしいのかしら?
「まあそれはランダム……最初に出会った人と2人組になるって言う感じだから運だよ」
僕はみんなに腕輪を配り、それを腕にはめたことを確認すると、大きく伸びをする。
「さて、それじゃあ始めようか」
あとの進行はヘリオス先生やルナちゃんとロイさんに任せ、僕たちはダンジョンの入り口に立つ。
一応遺跡を知るガイルたちやルナちゃん、テルネちゃんの意見を参考にして作ったけれど、それの全体については正直把握していない。
だから作成者でもある僕だけれど、楽しみにしている。
グエングリッターにいた時、最後に戦ったのがガイルたちの来た時で、それ以降はずっと裏方だった。
今日は良い羽伸ばしになるだろうと期待して、僕はダンジョンの扉をくぐるのであった。




