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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
25章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、企画を任される。

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勇者のおっさん、弱体化される

「むっ、どこかで可愛いが発生している!」



「何言ってんだおめぇ」



「いや、学園の方から強い力を持った可憐な経産婦が、仲間内にしか見せない子どもっぽさを披露したかのような可愛さを察知したんだよ! ほんとだよ!」



「なに、お前の探知そんなことまでわかんの?」



「あと俺っ子ケモ耳少女がガウガウしてたり、清純正統派美少女が終始ほっぺた膨らませて――」



「わかったわかった、さっさと手を動かせ」



 俺はここのところずっと話題の尽きない魔王様に頭を抱えつつ、彼女の指示を待ちながらあちこちにロイから預かった小麦をまいていく。



「これ、こんな適当に蒔いて大丈夫なのか?」



「ええ。まあ小麦自体に意味があるわけではなく、そこに蒔いたという事実(・・)があることが重要ですから」



「……どういうことだ?」



「今配った小麦ですが、これは普通に栽培しても小麦になりますけれど、これ、ただの絶気ですからね」



 ロイの言葉に、俺は小麦を一粒つまむと、信仰で押し潰してみる。

 するとそれは呆気なく霧散し、俺は驚く。



「うわっほんとだ。お前もまともに絶気使わなくなったのかよ!」



「心外な。と、言いたいところですが、リョカさんに倣ってやれることは一通りやっておこうかと思いまして」



「やめろやめろ、お前までリョカの真似し始めたら手に負えねぇだろ」



 だだでさえ面倒な力を持っているのに、これ以上研究されたら本当にどうなるかわからなくなる。

 これ以上面倒な相手は増やしたくはない。そんなことを考えていると、アルマリアが俺の腰を叩いてきた。



「もう遅いです」



「あ?」



「今ロイさん、リョカさんたちが使っている家にいるんですけれど、昨日までなかった畑がすでに家に作られてました」



「学者気質の奴はこれだから!」



 俺が頭を抱えていると、ラムダが豪快に笑っていた。女神じゃなかったら殴りかかっていたところだ。



「まあまあガイルくん、ロイくんは悪いことしようとしているわけじゃないんだからさ」



「だから手も出せねぇんだけれど」



 俺が盛大に肩を落とすと、テッカがジッとロイを見ていた。

 そしてロイがそれに気が付き、申し訳なさそうに顔を伏せる。

 頼むから以前戦ったことのある俺たちにそんな情けない面を晒さないでほしいところだが、これはもう性分なのだろう。



「俺にそんな申し訳なさそうな顔をしなくても良い。そんな顔をした奴に再戦しようとしている俺がバカみたいだろう」



「……いえ、やはり強いですね、あなた方は」



「当然だ」



 ロイが小さく微笑み、小麦をテッカに手渡した。

 あれなら2人は心配ないだろう。

 しかし今度はアルマリアが膨れ始めたのが見える。



「ロイさん私に強いとか言ったことないですよね? どうしてガイルさんとテッカさんには言って私には言わないんですかぁ?」



「調子に乗るからですよ」



 ロイの腰を叩き始めるアルマリアに、俺たちは揃ってため息をついた。



「おい年長組、何遊んでんだ。日が暮れるぞ」



「さっきまで心どこかに吹っ飛ばしていた奴に言われたくねぇよ」



 いつの間にか真面目に作業に取り掛かっているリョカがため息をついていた。

 こいつこういうところあるんだよな。



「ああリョカちゃん、さっき言っていた話だけれど、クオンがミーシャちゃんに贈り物をしたみたい」



「え、クオンさん来ているんですか! 撫でてもらわなくちゃ!」



「……俺、竜神様に会ったことないんだけどよ、そんな感じなのか?」



「クオンは女神の中でも数少ない子持ちだからね、リョカちゃんはそう言うのが刺さるみたい」



 女神で子持ちってどういうことだ。

 まあそういうのはリョカが考えるだろう。



 というより、今ラムダの奴なんて言った? ミーシャに贈り物?

 俺と同じ疑問に辿り着いたのか、テッカが顔を引きつらせている。



「豊神様」



「ラムダで良いよ~。というかリョカちゃん、クオンですらさん付けなのにあたしは様付けなんだね……ちょっと寂しいぞ」



「いえあの、ラムダ様はその、ロイさんいますし、なんというか、様付けが似合うと言うか」



「あたしもアヤメほどとは言わないけれど、せめてルナくらいには――ああそうだ、あたしもほら、女児服だっけ? あのカラフルな――」



「駄目です。ラムダ様にはもっと似合う服がありますから。今度ちゃんとした着物とか作っておきますね」



 ラムダが涙目でロイの腰をポンポン叩き、リョカを指差している。



 そんなラムダに、テッカが頭を抱えながら尚声をかける。

 あいつのああいう空気の読めないところ、俺は嫌いじゃないけれどな。



「あ、その、ラムダ……様」



「テッカくんまで! どうせあたしは子どもっぽい服似合わないよ! みんなどうせあたしのことおばあちゃんって思ってるんでしょぅ!」



「……テッカ、豊神様を泣かせましたね」



「あ~あ、テッカさんが女神様泣かしたぁ。普段は一番女神様に敬意を持っているぞ的なこと言っているくせに~」



 ロイの目がきらりと光ると、アルマリアがニヤケ面でテッカを追い詰める。

 俺は一瞬間考え込み、アホみたいなツラで片手を上げる。



「そーだそーだ~、テッカくんがラムダちゃんイジメました~」



「ガイル貴様っ!」



 俺はテッカから目を逸らした。

 するとリョカが手を叩き、そろそろいったん休憩しようと言った。



 テッカ以外の面々がリョカに返事をし、彼女が敷いた敷物に集まる。



「テッカ、いい加減まともに反応したら損をする相手がいることを学習しようね」



「……実はお前たち、ミーシャとカナデより性質が悪いだろう」



「リョカちゃん、あたしは普通に傷ついているからね」



「いやいや、そりゃあアヤメちゃんみたいな嫌がらせ半分の衣装を着させるわけにはいかないって言うのもありますけれど」



「リョカ、頼むから俺の故郷の女神様で遊ばないでくれ」



「ラムダ様、普通に大人っぽいんですもん。それに合った服を着てほしいですよ。まあどうしてもって言うのならちょっとデザイン考えますけれど」



「どうしても!」



「それじゃあテルネちゃんとクオンさん説得してください。トリオ組ませますから」



「任せて!」



 俺はにやりと笑う魔王を見逃さなかった。

 多分目的はテルネだろう。



「っとそうだ、これちょっと試しておこうか」



 そう言ってリョカが俺たちに腕輪を渡してきた。

 これは確かテルネの加護がかかった――。



「これがギフトを弱くする腕輪か?」



「そうそう。僕たちはこれを付けて、対になる腕輪を一般生徒に渡す」



 そうしてリョカがその対になる腕輪を腕に通すと、その瞬間、どうにも言いようのない感覚が俺を襲った。



「うぉっ」



「これは……」



「どんな感じ?」



「うわ~、これすごいですねぇ。スキルの第3から上が使えないですね~」



「ええ、しかも私に至ってはギフトが1つしか使えませんね。ガイルとテッカ、アルマリアはどうです?」



「う~ん、いや俺は使え……あ? なんか信仰が使えねぇぞ」



 ファイナリティヴォルカントが出ない。いや待て、これ相当ヤバい道具じゃないか?



「私も神官のギフトが弱体化されていますね」



「ああそれ、ギフトの数によって制限がかかる感じだね。だからギフト2つのガイルくんとテッカくん、アルマリアちゃんは両方使える。けれどロイくんはギフト3つだからそれで多く制限がかかっちゃってるんだよ」



「信仰も?」



「そう、多ければ多いほど制限がかかる。セルネくんとランファちゃんくらいだと聖剣が使えるんだけれど、ロイくんとガイルくんくらいになるとそれも制限されちゃうみたいだね」



「マジか……」



 俺が呆然としていると、アルマリアが手を上げた。



「あの~、エクストラコードは?」



「以ての外」



 テルネの奴、とんでもないものを、とんでもない奴に教えやがって。



「まあまあ、これは一般生徒相手に発動するものだし、そこまで制限されるほど培った技術があるのならなんとか出来るでしょうってことだと思ってさ」



 そう言ってリョカが腕輪を外した。



「これ終わったら即壊すか。いや、テルネちゃんかルナちゃんに預けるか」



「悪用するって考えが浮かばなくて助かるぜ」



「女神様の力だしね。それにこういう行事ならまだしも、僕は全力で応援してもらいたいから弱体化は使わないよ。体調悪い時にライブとか行っちゃ駄目、いいね」



「あ、ああ」



「それよりも僕が気になるのはさ、ねえガイル、ソフィアの第2ギフトって何?」



「あ? ソフィア第2ギフトまでいったのか?」



 俺がテッカを見ると、奴は首を横に振った。わからないらしい。

 そしてリョカが顔を引きつらせており、何事かと首を傾げるのだが、すぐに思い至った。



「……僕、ソフィアと戦いたくないんだけれど」



「……奇遇だな、俺もだ」



 多分ソフィアはテルネからギフトを貰ったのだろう。

 つまり、奴の加護も渡っている可能性が高い。



「ソフィアも知らんところで強くなるよなぁ」



「本当に」



「半分以上はお前のせいだからな」



 リョカが抗議の目を向けてくるが、少なくともあの令嬢は目標にしている者を間違えている。いや、それが間違いであってほしいというか。ともかく、とんでもない化け物であることは確かだ。



 俺はリョカが用意した弁当をかっ込み、作業を再開する旨を伝える。



 まあこれは企画だ。祭りみたいなもので、気楽に構えられる。

 まったく、いま世界中で忙しくしている勇者たちが見たら泣くだろうな。



 そんなことを考え、俺はリョカの指示のもと、体を動かすのだった。

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