魔王ちゃんとイケオジ先生の頼み事
「う~ん、やっぱりみんな海の向こうに興味津々だったねぇ」
「それにしたってはしゃぎすぎでしょう。そんなに興味があるなら自分で行けばいいのに」
昼食のお弁当を食べ終え、ミーシャとルナちゃんにお茶を手渡すと、クラスメートのキラキラシイタケ眼に苦言を呈した。
ちなみにアヤメちゃんはお腹いっぱいになり、椅子を繋げて僕の膝に頭を置いてお昼寝している。
「お前みたいに行動力のあるものばかりではないからな」
「それに貴族の子も多いですからね、ミーシャ=グリムガントのように中々行動に移せないしがらみがあるのですよ」
そんなミーシャの言葉に、ヘリオス先生とテッカが言葉を返し、僕たちの座る席に腰を下ろした。
「神獣様はお眠りになっているのか」
「ご飯の後は眠くなるからね、ご飯あとは貴重な甘やかし時間なの」
「……まあ、それだけお前たちに気を許しているということだろう」
「テッカさん、正直に言っていいんですよ。もう少し威厳のある姿でいてほしいと」
テッカがものすごい勢いで顔を逸らした。
僕は苦笑いを浮かべ、トイボックスからそっと物を取り出す。
「ああそうだヘリオス先生、教室では渡しづらかったので。よかったらこれどうぞ」
「うん? いや私に土産は――」
「リア・ファルミニチュアバージョン。生産ギフト持ちなら中身も気になるのでは?」
先生が断ろうとしていた口を閉じ、僕が手渡したリア・ファルをゆっくりとした手で受け取った。
「……ふむぅ」
「リア・ファル、確か空を飛ぶ船だったか。なるほど、ヘリオスなら喉から手が出るほど欲しいだろうな」
「……テッカ先生、誤解があるようなので言っておきますが、私はそれほどマルティエーター然と生きているわけではありません。必要だから使っているのです」
「とはいえ空飛ぶ船には、リョカ風に言うのなら浪漫がある。マルティエーター然としていなくても魂がくすぐられるというわけか」
ヘリオス先生が照れたように顔を逸らし、それを小さく喉を鳴らしたテッカが子どものような笑みで見ていた。
は? なんだその、それは? いつからフラグが立っていたんだ? 2人ともそりゃあ顔が良いから絵になるのは当然で、いやしかしテッカはガイルがいて……いやよそう。これ以上は魔境だ。
「ごちそうさまでした」
「ん? すでに食べ終わっていたように見えたが?」
「お気になさらず~」
僕がこの光景を噛みしめていると、ぐでっとしているミーシャがテッカに目を向けた。
「テッカ、あたし暇しているのよ」
「そうか、勉学に励め」
「暇しているの」
「オタクたちでも連れて遊びに行ったらどうだ」
「テッカ」
「……リョカ、この聖女グエングリッターに行く前より好戦的になっていないか?」
「負けちゃったからね」
「親父さんは仕方ないだろ。俺でも勝てんぞ」
「あれは無効試合」
「ガイルみたいなことを言いおって」
向かいに座る頬を膨らませるミーシャをつついていると、テッカが思いついたように手を叩いた。
「そうだヘリオス、あの話、リョカにしてみてはどうだ?」
「リョカ=ジブリッドに? いやしかし、彼女は帰ってきたばかりですし」
「どうせ頼むことになるんだ。ついでにミーシャの欲も満たせるだろうしな」
「あのテッカさん? せめて僕に出来るかどうかの確認をしてくれません?」
「ミーシャ、リョカが面白い催しを企画してくれるそうだぞ」
「――」
ミーシャが顔を上げて、期待したような視線を向けてくる。
あの野郎、僕とミーシャの扱い方が随分うまくなったな。
「……まずは話を聞いてから」
「すまないなリョカ=ジブリッド」
「いいえ、ヘリオス先生とテッカの頼みなら然う然う無碍にしませんよ。それでどんなお願いですか?」
ヘリオス先生が思案顔を浮かべたけれど、すぐに肩をすくめて諦めたように口を開いた。
「実は学園からこの間のような企画がないかと打診されてね」
「この間って言うと……ガイルとテッカ、アルマリアとの交流戦ですか?」
「ああそうです。あの戦い以降、生徒たちのやる気がものすごく出てきてね、学園側もそれに味を占めたみたいだ」
なるほど、生徒のモチベーション向上のためのお祭りをしたいということか。
しかしこの間のあれはみんな観戦していただけだったからなぁ。
「リョカ、なにかないか? お前の思いつくことは俺たちも楽しめることだからな」
「まあ、考えがないわけじゃないですけれど」
「それは?」
「ダンジョン……遺跡風です」
「遺跡を生徒で探索するのか? だがそれは――」
「遺跡風だって。だから遺跡を作るの」
「は?」
「そんなごってごての遺跡じゃなくてね。わかりやすい遺跡みたいなものを作って、あちこちに宝箱を設置する。みたいな感じ」
「そんなことできるのか?」
「うん、僕が絶界を使えば協力は必要だけれど可能だよ」
「絶界……確かお前の」
訝しむテッカに、ルナちゃんが手を上げた。
「神域の生成です。結局リョカさんの絶界は女神間で神域という扱いになりまして、『魔王特権』も女神特権に準ずるスキルと断定されましたので、使う時はわたくしに許可とってくださいね」
「え? そんな規定が出来たんですか?」
「あれは強力過ぎますからね。女神たちがざわついてしまいまして」
「え~っと、それは絶界の方ですか? それとも魔王特権?」
「魔王特権の方です」
「なるほど、それなら近々使用を申請するかもですけれど、大丈夫ですか?」
「テルネもいますし、大丈夫だと思います」
僕が胸をなでおろしていると、テッカが何か言いたげにしていた。
「なにはともあれお前に任せて正解だな。必要なものがあったら言ってくれ」
「助かるよリョカ=ジブリッド、それと必要なものの費用は全部学園に押し付けるから、ジブリッド商会で買い付けると良い。これほどの無茶を提案してきたんだ、少しは痛い目を見た方がいい」
「わかりました。それじゃあ企画を纏めて持って行くので、今度時間作ってください」
ヘリオス先生とテッカが頷いたから、僕も大きく伸びをしてこの話を終えた。
しかしふと気になったことがあり、2人に尋ねる。
「そう言えばガイルは?」
「グエングリッターに遊びに行った、連絡も一切寄越さなかったあのバカ3人組は今日は休みだそうだ。魔王がこうして学園に出てきているというのに、勇者様は長期滞在の疲れを癒すために休暇を取られたようだ」
「……お疲れ様です」
棘のあるテッカの言いように僕は心底彼をねぎらい、今日の晩御飯を作りに行ってあげようと決めた。
しかし帰って来て早々何とも学園らしい問題を持ってきたな。
そもそもこの学園、僕たちが来るまでろくな企画はなかったはずだ。生徒の自主性を育むとうたっておきながらその自主性を引き出す催しが一切なかった。
まあこれを機に学園ももっと生徒に寄り添ってくれると願って、僕は2人から頼まれた企画を頭の隅で考え始めるのだった。




