魔王ちゃんと帰ってきた故郷
「……ん、んぅ? うぁぅ?」
「―-カ、――ジッド――リョカ=ジブリッド」
「うぇ?」
僕は顔を勢いよく上げ、辺りを見渡す。
そして呆けた頭でつい口を開いてしまう。
「……ペヌルティーロの警備とそれにかかる費用はギルドからじゃなくて、街全体の費用として収益の一部から……あれ?」
壇上でヘリオス先生が呆れたようにだが、少し微笑んでおり、僕は苦笑いで辺りを見渡す。
見慣れたクラスメートたちが興味深そうに話を聞いており、僕は少し顔に熱が宿るのを感じながら軽く謝罪をして口を閉じた。
「随分と貴重な体験をしてきたのですね。まあ今の話から察するに、学生に任せられる仕事の部類ではないのは確かですが」
「すみませんヘリオス先生、まだ色々と抜けきっていないみたいで」
「今日くらい休んだらよかったのでは? 帰ってきたのは昨日ですよね」
「……早くみんなに会いたかったのと、現状の確認をしたかったので」
「相変わらず真面目な魔王様ですね」
やらかしたなぁ。まだ頭がグエングリッターにいる。
僕は頭を振って切り替えようとするのだけれど、隣のルナちゃんが微笑みながら袖を引っ張ってきたから、その可愛らしい頭を撫でる。
「向こうでは働き詰でしたものね。まだ帰ってきたばかりですし、暫くはゆっくりしましょうね」
「はい、そうさせてもらいます」
「ならば、今回の授業は取りやめ、自習にしましょう。他の子たちも君の話に興味があるようだし、話してあげてはどうだろうか?」
「え~っと……」
先生の言葉にクラスメートたちの顔を見渡すと、今にも飛び込んできそうなカナデをはじめ、オタクたちも興味があるのかそわそわしている。
教室の外では何故かソフィアがおり、瞳をシイタケにしていた。
「わかりました。それじゃあグエングリッター道中記でも語っていきましょうか――ああそれと、おみあげもあるからついでに配っていくね」
喜ぶクラスメートに満足しつつ、僕はグエングリッターでの日々を話し始める。
そう、僕たちは故郷に帰ってきた。
グエングリッターの日々は確かにかけがえのないものだった。
けれどこの故郷に戻ってきた安心感、やはり僕の暮らしている国はここなんだと改めて理解できる。
だからこそ、あの別れが価値のあるものなのだと……。
僕は改めてみんなを見渡す。
ここは確かに、僕が生きる世界の1つだ。
僕は少し大げさに、それでいて身振り手振りを使ってこの感動を少しでも共有してもらおうと語り続けるのだった。




