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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
24章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、故郷へ帰る。

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魔王ちゃんと水星の舞1

 水星祭――元々はどの村でもやっている豊穣祭の一種だったらしいのだけれど、他のどの街よりも気合を入れて臨んだことやこの街出身の聖女様が贔屓したために、祭りの規模が他よりも大きくなり、さらに観光客が大挙したこともあり、グエングリッターいちの祭りとなったという背景があると、スピカが呆れたように話していた。



 街中をグエングリッターの工芸品やリードのところから出される出店など、レビエンホルン全体が祭り一色の雰囲気になる。



 そんなお祭りで緩む財布も星々が夜空を覆うその時まで。

 この水星祭、そういう出店も楽しさの1つだけれど、何よりも期待されているのは、聖女の舞――水星の聖女、つまり今期はポアルンさんが舞うはずなのだけれど……。



 僕たちが招待されたのは街とは対岸にある場所。

 そこでは星神様と大地神様、豊穣神様の3柱がティーカップ片手に、パラソル付きの丸テーブルで優雅にお茶をしていた。



「リョカお姉さま、ミーシャお姉さま、こっち、こっちですっ」



「ルナ様もアヤメ様も、お茶の用意は出来ています」



 フィムちゃんとテッドちゃんに呼ばれ、僕たちは隣の丸テーブルに腰を下ろした。



 女神さまたちにお茶を淹れてもらうのも悪いと思い、僕は立ち上がってお茶の準備をしようとすると、フィムちゃんにむ~顔で睨まれてしまい、彼女を抱きしめた。



「リョカお姉さまは今日お客様」



「は~い――かわええなぁ」



 フィムちゃんを抱っこしたまま席に戻ると、テッドちゃんがお茶を淹れてくれ、僕はそれに礼を言って、視線を別に向ける。



 いるなこれ(・・・・・)

 本当にあの子は紛れる(・・・)のが上手らしい。



 僕は一度ため息をつくと、改めて街とは対岸から伸びる舞台に目をやった。

 そこではスピカとウルミラが集中しているのか目をつぶっており、2人の真剣さがここまで届いているようだった。



「2人とも、本当に頑張ってたんですよぅ」



「みたいだね。でもああして舞台に立つなら言ってくれればよかったのに」



 それなら衣装を2人揃えたものにしたのにと残念がっていると、2人の囁きが突如耳に届く。

 いやこれ、エレノーラのスキルか?



 舞台に目をやると、スピカがベッと舌を出しており、すでにあの子まで巻き込んでいたかと苦笑いを返す。

 僕に一杯食わせたかったのか、スピカもウルミラも小さく喜んでおり、その嬉しそうな空気感のまま、2人の声がレビエンホルンに響き渡る。



「『魔の福音を運ぶ流れ星(ステラハートグレゴリ)福音を鳴らせ摂理の声(エーテルリッダー)』」



「『魔の福音を運ぶ流れ星(ステラハートグレゴリ)福音を鳴らせ竜星の声ドラゴニック・ル・シャルダ』」



 2人の衣装が変わる。

 元々この祭りで使う衣装に寄せたのだろう。



 そもそも僕が2人に渡したあの宝石は変幻自在だ。

 服の作り方と聖女の信仰さえあればいくらでも見た目を変えることが出来る。



 そしてそれとは別、つまりあの子たちがステラハートグレゴリと呼んだその機能が、星神様の加護を土台にしたアストラルフェイトの真似事だ。



 私の世界で言う巫女服のような衣装に僕が満足していると、フィムちゃんに頬をペチペチされる。



「む~」



「いたいいたい。でももっとやっていいですよ!」



「少しは懲りろお前は」



「あれ、下手したら現極星のアストラルフェイトやあたしの大地の魂の極光(プラネテスフェイト)より強力ですよね?」



「強力って言うか、もっと出来ることを増やしただけですよ。だって素質なんて1つしかないんですから、一度決まったらそれで固まっちゃうじゃないですか。だからもっと広義に素質を取り入れて、それを武装化しただけですよ」



「む~、スピリカもウルミラも私の極星なのに~。これじゃあ魔王の流れ星だよぅ」



「スピカちゃんはテッドの加護によって広大な大地から無尽蔵の力を。ウルミラちゃんはあたしの加護によって、何度も生まれ変わる力の再利用……こりゃあ女神形無しだね」



「いやいや、女神様より強いものを僕が作るわけないですよ~。だって女神さま大好きですし」



 フィムちゃんをぎゅっとして、テッドちゃんとラムダ様にウインクしてみせる。



「……ルナ、頼むからリョカちゃんたちと違えるようなことをしないでくれよ」



「むしろわたくしがリョカさんとミーシャさん連れてテルネに突貫しますよ」



「えっ! テルネちゃんをお着替えさせてもいいんですか!」



「いいですよ」



「……おい、私怨に信者を巻き込むんじゃねぇよ」



 女神さまたちとやいややいやしながらも、僕の瞳はスピカとウルミラに向けられていた。



 2人がステラハートグレゴリを使用して、スピカの手には鈴が鳴る杖、ウルミラの手には僕が渡した水龍とは別に手に持った短刀。

 あれが2人の素質プラスアルファだろう。



 そして2人が深く集中し始めると同時に、ここまで聞こえていた祭りの喧噪も鳴りを潜め、誰もが星の聖女様と水龍の騎士に目を向けていた。



 スピカが鈴を鳴らしながら舞い始める。

 鈴の音に誘われるように、風が、炎が、大地が――彼女の下に集まって形を成す。

 そしてそのそれぞれに、スピカがリリードロップを使用し、自然の属性に強化を促す。

 炎も花も風も、スピカを中心に舞う。



 スピカが柔らかく、それでいて親しみのある舞を踏む中、ウルミラが剣を構えると、半透明の龍が現れ、それに水龍を添えながら同じように舞う。

 どこか厳格な、それでいて力強い舞を舞うウルミラが、大きく短剣を振るうとその龍が湖を滑るように低空で街の方にまで飛んでいき、人々にその圧倒的な存在感を示した。



 僕たちはスピカとウルミラ、2人の素晴らしい贈り物に、ただ、見惚れるのだった。

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