魔王ちゃんと大人の時間
「おっ、ロイさん見っけ」
ロイさんは人通りの少なくなったすみっこのベンチに腰を下ろしており、どうにも疲れた顔をしていた。
「お疲れですか?」
「ああリョカさん、こんばんは。 ええ、まあ……」
ロイさんが苦笑いで正面に目をやった。
僕はその視線を追うと、そこにはアルマリアとエレノーラ、パルミールさんがきゃっきゃしていた。
「すこし、軽く見ていたようです。これだけ年ごろの女の子が集まると、とても大変なのですね」
さては連れまわされたな。
僕はロイさんの隣に腰を下ろした。するとルナちゃんが膝に乗ってきて、彼女を抱きしめるように受け止める。
「ロイさん、楽しんでますか?」
「……ええ、そうですね。この規模の祭りは初めてなのですが、とても素敵な祭りだと思います」
「ではなく――ロイさん自身、ちゃんとお祭りに飲み込まれていますか? と、聞いたのです」
ルナちゃんがジッとロイさんの顔を覗き、彼の言葉を待っている。
この月神様は、強引な時がある。もちろん確信があるからこその問いなのだろうけれど、もう少しわびさびというか、猶予というか、噛みしめる時間というのは必要ではないだろうか。
僕はルナちゃんを軽く抱き寄せ、そのお口に手を添える。
「むむ――」
「ゆっくりすることも大事ですよ。ねえロイさん、こうやって振り回されて、疲れて、それで一息ついてお茶飲んで……これが、普通の人の速度ですよ」
「……」
「ロイさんは大人だから、誰かの速度に合わせてくれるのかもしれない。それもあなたの速度かもしれない。考えてること、やりたいこと、たくさんあるのかもしれない。だからこそ、その自分の歩みに蓋をしないでくださいね。僕もルナちゃんも、それにアルマリアもエレノーラも、ロイさんの歩みに並べるだけの力を持っていますよ」
まだまだロイさんは悩んでいいと思う。
悩んで解決して、また悩んで――その先に、もっと先に、いつまでも先に、何個も何個も結論を得て、彼の……血冠魔王としても、パパ魔王としても、ロイ=ウェンチェスターとしても、この世界を歩んでほしい。
僕は裁く者ではない。
だからこそ、これは僕の願いで、責任だ。
「僕らが守れたお祭りです。ロイさんも楽しんでくださいね」
「……はい。お2人には敵いませんね」
「あぅ、もしかしてわたくし、余計なお世話でしたか?」
「いいえ~、ロイさんに早く楽になってほしいという女神様の気遣いが見えましたよ」
「ええ、ルナ様もありがとうございます。ただ、もう少しだけ、もう少しだけ、このまどろみに身を委ねていたい」
不安そうに見上げていたルナちゃんを抱きしめ、僕とロイさんは揃って、ミーシャとアヤメちゃん、アルマリアとエレノーラ、パルミールさんがそれぞれの笑みを浮かべてこちらに歩んでくる光景を見つめたのだった。




