星の聖女様と魔王の福音
「う~ん、う~ん……」
「フィリアム様、お仕事は順調ですか?」
「全然です。う~、私ただでさえあ~ちゃんの仕事とかその他のこととかもやってるのに、まさかここに来てお仕事が増えるとは思ってもみませんでした」
「フィム、ごめんね。多分テルネ様があたしに気を遣ってくれて」
「本当だよ~。だから一緒に手伝ってよね」
私は水星祭の準備に勤しむ聖女たちに指示を出しており、一通り回るようになったから、その場所にある一角で書類とにらめっこしている星神様と大地神様に会いに来ていた。
「まあ今はリョカお姉さまのおかげでだいぶ楽になりましたけれどね。あの人形凄い、私がしてきたこと全部出来るみたいなんだよ」
「……彼女が女神に近しい魔王様で本当に良かったよ。そうじゃなければ、本当に世界を壊しかねない脅威でしかないからね」
「だね~、やることなすこと――」
と、机に向かっていたフィリアム様が私とウルミラに振り向いたと同時に、口を閉じてまじまじと私たちを見つめている。
「フィリアム様?」
「……本当、やることの規模が違うよね」
フィリアム様が近づいて来て、私とウルミラの服に手を触れた。
「『集いし星の魂の極光』星としての意味を持つ輝きの1つ、時もまたその輝きの1つです」
「えっと?」
「素質の武装化。なんて簡単に言ってしまえばそうですけれど、本質は人々の持つ星の具現化、小さな星もある。大きな星もある。武器にならないほど弱々しい光もある。でもリョカお姉さまはそんな輝きすら掬い上げていく」
小さくため息をつくフィリアム様に、私とウルミラは顔を見合わせる。
この服の何か問題だっただろうかと女神さまたちに乞うような視線を向ける。
「これ、フィムの権能の一部を切り抜いて、他の女神の権能と魔王の力で補っているんだ」
「うん、差し詰めミニアストラルフェイト。星神でもないのに、リョカお姉さまは極星をポンポン作れるんだなぁ」
「は?」
フィリアム様の言葉に、私たちはバッと服をまじまじと見る。
この服、そんなすごい技術が……いや、どうして人であるにもかかわらずあの魔王は女神様のようなことが出来るのよ。
「あ、あの、フィリアム様、この服、私たちが着ていたらマズいですか?」
「ううん、確かにやっていることはアストラルフェイトだけれど――ウルミラには私の加護とラムダ姉さまの加護、ルナお姉さまの加護、スピリカには私とテッド、ルナお姉さまの加護、しかもその加護が編み込まれた現闇と人間界にある物質の融合で、女神の加護とは違う――これが魔王の福音か」
リョカのことはわかっている。けれど魔王としての力を、私はまだわかっていなかったらしい。
月を創る魔王様、一体どれほどの力を持っているのか、私では想像すらできない。
すると、フィリアム様が頬を膨らませた。
真面目な女神様は終了したらしい。
「む~、いいないいなぁ、私もリョカお姉さまからお洋服貰いたい」
「あとで貰いに行きましょうね」
フィリアム様を抱き上げて頬ずりする。
「ところで、具体的にこの衣装はどんなちからがあるんですか?」
「リョカが作ったものだものね、どんな効果でも驚かないわよ」
「う~ん、純粋に防御面が優れているのかなぁ?」
「そうだね、精神汚染なんかはある程度効かないんじゃないかな、ルナ様の加護が付いていて魂の防衛が完璧、あたしとラムダお姉ちゃんの加護で物理的な攻撃にもある程度耐えられると思う」
「へ~――」
私はおもむろに服に手を振れ、少し考え込むとこの衣装にリリードロップは通るのだろうかと思い至る。
聖女の奇跡は自分には影響されない。
けれどミーシャのおかげで私は、世界に属するものに奇跡をもたらせることを知った。
そして世界に属するものというのは、女神様の加護だとリョカが話していた。
夜も月も加護なのだと。
それじゃあこの服は? これも加護で作られている。
私はそっと服にスキルを使用した――。
「え?」
拝啓、銀色の魔王様。
一体私に何してくれているんだと声を大にしてあなたを殴りに行くことが確定しました。
フィリアム様はとても喜んでいました。
でも私は許しません、あとで説明と謝罪を要求させていただきます。
そうして、悩みの種が増えてことに私はため息を漏らさざるを得ないのだった。




