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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
3章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、学園でエキサイトする。

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聖女ちゃん、たくさん物申す

「す、すみませんミーシャ様、俺が素っ気ない態度をとってしまって」



「あ? ああいいわよ別に。リョカのアホがしたことが気に入らなかったんでしょ? もっとやってやりなさい」



 昼休みの後、リョカは部屋に帰ってしまったのか授業に出てこなかった。色々とぐちゃぐちゃ悩んでいるけれど、あの子は放っておくと頭でっかちになる。

 どうせ1人なら考える必要ないとでも思っているのだろう。



「ですが」



「たまにはいい薬よ。そもそもあの子友だち少ないでしょ? そうなるようにしてただけだし、現状ついていけるのがあたしだけだっただけだし、たくさんの人から慕われるのに慣れていないのよ」



「む~……ですわ」



「膨れないの。言いたいことがあるのならみんなさっさと言えばいいのよ。どういうわけだか、リョカは友人が出来ないことが当たり前だと思っているし、あの子の考えを覆すにはぶん殴っちゃえばいいのよ」



「そんなこと出来るのはミーシャさんだからですわ」



「そう? だってあたしはそうやってきたから今リョカと一緒にいるわよ。順番が逆」



 考え込むカナデに、あたしは彼女の尻をはたく。

 すぱんと小気味良い音が鳴り、リョカ曰くオタク3連星が赤い顔を逸らし、カナデも呆然としている。



「あんたもあたしと同じで深く考えられないんだから、好きなようにやりなさい。ああそれと、次リョカにあったら今みたくケツを引っ叩いてあげなさい」



「……ミーシャさんお口が悪いですわ」



「聖女なんだから許されるわよ。さってあたしも帰るけれど、みんな深く考え過ぎよ。あのアホはとりあえず可愛いって言っておけば機嫌が良くなるんだから、あんたたちが意識し始めたらそれこそリョカが遠慮しちゃうわよ」



 あたしは片手を上げ、教室から出て行く。

 相変わらず何も意識していなくても人気になる幼馴染に、あたしの口元は緩んでいた。



 そんなリョカを少しは慰めてやるかと考えたけれど、ふとヌッと湧いて出てきた影に首を傾げると、その影、ヘリオス=ベントラー先生が視線をあたしに向けており、どうにも面倒臭そうなことを言いたげにしている先生に小さく肩を竦ませる。



「ミーシャ=グリムガント、少しいいだろうか?」



「どいつもこいつも、どうしてリョカのことをあたしに報告するのかしら?」



「……まだ何も言っていないのだが」



「あたしに話しかける人は大体リョカ絡みよ。まったく、あたしのことをなんだと思っているのかしら」



「いやすまない。別に君のことをリョカ=ジブリッドの付属品として扱っているわけではない。ただ話を通すのなら君が一番都合がいいだけで、特に他意はないんだ」



「わかっているわよ。リョカはあたしの言うことなら聞くと思われているみたいだしね」



「違うのか?」



「あたし以外の言うことだってしっかり聞くのよ。ただ周りが聞かせ方を知らないだけで、あの子って人の忠告は聞き入れるのよ」



「そうなのか? 私はてっきり、自分の考えに沿ったものなら聞くとばかり」



 リョカへの勘違い印象その一。思想や印象に差別意識を持たない彼女は言うことを素直に聞いているという印象が持たれない。

 理由としては、周りからはどんなことでも受け入れるからきっと考えがしっかりしていて、自分たちが知らないことを見て判断していると思われているため。



 先生の場合も、リョカの印象があまりにも広い視野で導き出されると勘違いしているからでしょう。



「先生、リョカはヘリオス先生の授業はいつもわかりやすくて楽しいと言っていましたわ。参考にもなるし、先生の授業なら身になると」



「それは、彼女が元々真面目な生徒だからでは?」



「実はあの子、嫌いな教員だと勉強が身が入らないんですよ。愚痴も言うし、授業前に憂鬱になる。でも勉強が嫌いじゃないから教員以外の術で学んでいるんです。自分の考えに沿った言うことを聞くんじゃなくて、まずそぐわない話を聞かないが先に来るんです」



「それでは普通の――」



「先生、リョカは普通の女の子よ。あたしと、この学園に通っている子たちと同じ時間しか生きていない女の子」



 クラスメートであるカナデもオタク3連星も、ソフィアだってリョカを魔王とは見ていない。それはきっと心地の良い思想なのかもしれないけれど、あの子は魔王を選んだ女の子だ。

 魔王であることを後悔していないし、それできっとあの子の夢が叶うから望んで今の場所にいる。



 自分の感情をあたし以外には上手く口に出来ていないのはあの子の責任であるのは間違いないけれど。



「……そうだったね。君たちはこの学園に通う生徒だった。まったく私も焼きが回ったか」



「まだまだ素敵だと思いますわ。ヘリオス先生がいなくなったらそれこそリョカは学園がつまらなくなると思うわよ。あの子の本性って中々表に出てこないですから」



「そうだね、それに関して言わせてもらうのならリョカ=ジブリッドも悪い。どこか達観しているし、どうにも思想が一般的な物と合致しない。まるでどこかで丸々と誰かの教育を受けてきたかのような立ち振る舞いだ」



 ヘリオス先生の言葉にはあたしも思い当たる節がある。

 でもそれをあたしは気にしないし、そもそもそれを気にする頭はあたしにはない。けれど――。



「そうね、あの子は変なことを言うことがあるし、知らない言葉を話すこともある。案外、あたしたちの知らない世界でも体験してきているかもしれないわね」



「絵空事、だが、リョカ=ジブリッドに関してはあり得るかもしれんな。中々色眼鏡が外せそうにないよ」



「ああ、あの子特別とか大事とか言われるとコロっとオチますから注意してくださいね。わりと単純に惚れっぽいですから」



「……」



 ヘリオス先生が目を逸らしたところを見るに手遅れだったか。

 きっと今のリョカは色々な感情でぐちゃぐちゃになっているに違いない。



 学園から出れば頼りになるけれど、どうにも危険のない場所だと精神がザコザコなのは何とかしてほしい。



「ああそうだ、彼女にも言ったが今回のようなことに教員は手を貸せない。だが私は君たちのクラスで授業をするのが中々に楽しくてね、手は貸せないかもしれないが、何かあれば言ってくれ」



「ええ、ありがとうございますわ」



 あたしはリョカが広めたスカートの裾を軽く上げて挨拶する、彼女曰くカーテシーなる礼儀をヘリオス先生にして、そのまま学園を出るために歩き出したのだった。

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