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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
23章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、その剣聖に牙を剥く。

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輪廻の魔王さんと父親のこと

「しっかしまさかあのおっさんがアルマリアのお父さんだったなんてな」



「親父さん、おめぇに名乗んなかったのかよ?」



「ああ、アルフォースって名前は聞いたような気がするけれど、それ以外はまったく。極星に興味があるようだったけれど、星神様はおっさんに星の才能はないって言っていたな」



 ヴェインくんにブラックラックレギオンを差し向けながらも私は耳を傾ける。

 彼は私の分体であるクマと戦いながら、隣でセルネくんの指導をしているガイルに話しかけていた。



「リョカ、大分怒っていましたよ。あのポンコツ極星めって」



「これに関しては本当に申し開きもないな。だけれどあのおっさん既婚者どころか、子持ちであるような雰囲気一切なかったし。なんというか、余裕のない人って印象だったな」



「親父さんが? うんなこたぁないと思うんだがな」



「どんな人だったんですか?」



「いや、強いギルドマスターだったぜ。まあ力もあったし、アルマリアの言うように家庭にマメな男でなかったのは確かだが、その力から来る圧倒的自信は若い頃の俺も憧れたもんだ」



「……」



 ガイルたちの話に、私はつい顔を伏せてしまう。

 今私はクマの姿ではない。周りからそれはもうわかりやすく映ったのだろう。



 現にセルネくんが戦いの手を止め、私に目をやっている。



「……長く付き合っている俺が言うことじゃねぇかもしれんぇけどよ、お前さんがそんな顔すんのか」



「父親の、気持ちはわかるつもりです。私にもエレノーラがいますから」



「もっと家庭を大事にするべきだと?」



「いえ、多分アルフォース殿はそれでも家庭を想っていたはずです。ガイルからマメではないとみられていようとも、アルマリアから大事にされていないと思われていようとも……私は父親が、妻を、子を、家族を想わないとは信じたくはない」



「アルマリアさんからそう思われていなくてもですか?」



 セルネくんの問いに、私は力なく笑い彼に顔を向ける。



「私も、エレノーラに苦労をかけましたから」



「あっ」



 銀獣の勇者が顔を逸らし、ばつの悪そうに頭を掻くのが見えた。



 するとヴェインくんが手を挙げて口を開く。



「あの、師匠、師匠はその……」



「どのような言葉で、意思で、想いであろうとも、私がやったことはただの虐殺です。それを知ったうえで聞いていただけるのなら――私は、妻とエレノーラを、いや、私たちがただ純粋に笑っていられたあの時に戻りたかっただけなのですよ」



 けれどそれは誤りだ。どんな理由があろうとも求めてはいけなかった。前に進むべきだった。

 それを出来なかった私は……。



「だから、親父さんもきっとアルマリアのことは想っているだろうって?」



「ええ、どれだけの理由があろうとも、私たちは父親です、父親なんです」



 エレノーラを長い間蔑ろにしていた私が言うべきではないけれど、それでも世の父親が、子を想わないという世界を、私は守ろうとは思わない。そうだと信じているから私はまだ、守護者でいられる。



「ったく、アルマリアも厄介なのに懐いたな」



「大人しくしていれば可愛らしい子ですよ」



「親ばかめ」



 私が微笑み返すとガイルも小さく笑った。



「それじゃあお前さん、親父さんとのこと積極的に動くつもりなのかい?」



「いえ、私が出てはややこしくなるでしょう。だからリョカさんとミーシャさん、アルマリアに任せますよ。着いては行きますけれどね」



「親父さんも、まさか娘が噂の魔王様たちと一緒に来るとは思わねぇだろうな。腰抜かすだろ」



「何事もなく終わると良いのですけれどね」



「だな」



 と、私とガイルでのんびりとした空気を形成していると、ヴェインくんが少しだけ寂しげな顔をしたことに気が付く。



「……ヴェインくん、私は今教えられること、これからもすべきことは教えたつもりです」



「はい」



 スピカさんやウルミラがリョカさんとミーシャさんに向けている視線と同じ……私もまた、彼らにとっての特別になれたのだろう。

 だからこそ、私は私の最大の敬意を以って、この宵闇の極星に応えたいと思う。



「次に会うのが楽しみです」



「――っ、はい、俺も、次に師匠に会える時をいつまでも待っています」



 ヴェインくんの頭を撫でてあげると、彼は嬉しそうに顔を綻ばせた。



「リョカにそう言うことを教えてやれよな」



「それは彼女の傍にいる方たちが長い時間をかけて教えていくはずです。私は、彼女たちが迷わないように前に立つだけですよ」



「年長者だなおい」



「あなたもですよ」



「違いねぇな。俺よりお前の言葉の方が聞き入れてくれそうなのは人柄かね」



 ガイルの呆れたような声と同時に、私たちは再度構えをとる。

 まだまだ時間はある。

 私は私が残せる物を出来るだけ残して行こうと、死を纏う星の弟子に視線を向けるのだった。

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