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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
22章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、喧嘩爺ちゃんに会いに行く。

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輪廻の魔王さんと竜を纏う者

「まさかこんなにも早くあなたとまみえることになるとは」



「そうかの? 魔王としあう(・・・)ことは人類の夢じゃろう?」



 勇者に憧れを抱く時代を生きてきた者の言葉だろう。

 しかしこの男、一体齢はどれほどなのだろう。そんな言葉を、しかもさも遠くから見てきた者が放てる言葉のようにも感じた。



「以前の私だとまったく相手にならなかったでしょうね」



「魔王が成長するなど人にとっては脅威でしかないが、わしは祝福すべきじゃと思うがのう」



「……随分と高みから申されますね。あなたは何者ですか?」



「ハッ、そんなものはこの拳で計れ! ゆくぞ――」



 バイツロンド=ルクシュ、狂仁と呼ばれる一級の冒険者の拳が私目掛けて飛んでくる(・・・・・)

 そう、飛んでくる。

 本当に拳が離れて飛んでくるわけではないが、あの者が放つ戦闘圧が、闘争心がその拳を何倍も巨大に見せた。



 スキルを使わずにこれか。

 この圧は当然ながらミーシャさん以上、アルマリアやガイル、テッカさんから強いと言わしめているだけはある。

 しかし――。



「『芽吹く麦は信仰の如く(オメガブリューナク)』」



 私は飛んできた拳の腕に下から拳を入れ、そこを起点に体を潜り込ませて彼の腕をもう片方の手で掴み、背を向けてそのまま投げ飛ばした。



「神官の上位スキルか! しかしちとものが違うの――豊神の恩恵か」



「私と娘は、今現在唯一ラムダ様を信仰していますので」



「厄介な加護持ちじゃのう」



「素晴らしい加護、ですよご老人」



「ラムダも主のような信者がいることが誇りじゃろうな――『狂気と踊れ(センスバーサーカー)』」



 スキルを使用し、さらに空気がひりつく。

 まだまだ理性のある瞳、第1スキルですでに以前の私のアークブリューナクよりも強化されている。

 以前彼は私を倒す価値もなく見逃したと話していた。

 なるほど納得だ。前の私だったのならその事実に気が付くことなく、彼に嬲り殺されていただろう。



「いいのう血冠魔王――いや、ロイ=ウェンチェスター! それほどの力、それだけの胆力、主は強い魔王じゃ」



「お褒めに預かり光栄です。しかし1つ謝罪を。私はあなたほど正面から戦う者ではありません」



「構わんさ! 喧嘩っつうのはなにも正面からだけの戦いじゃあない。互いが持つありとあらゆるものを、信念を乗せて、意志を乗せて殴り合うからこその喧嘩じゃ!」



「それを聞けて安心しました。『豊かに芽吹く血思体ブラックラックレギオン』」



 分体に強化を施し生成し、バイツロンド爺へとけしかける。



「ブラッドヴァンか! しかしこれ、ラムダの加護で大地から血を吸っておるな? 無限にも等しい有限の力か。わしの体力切れでも狙っておるのかの」



「まさか、この分体たちは私の手足ですよ。『現闇・大地は我が支配に在り(ハイフォルト・ロウ)』」



 分体すべてが以前ガイルにも使った竜草の茎で編まれたロッドを手に持ち、それぞれが攻撃を仕掛ける。



 攻撃の速度を崩すもの、攻撃の隙を誘うもの、攻撃を受けもつもの、それぞれの集団に担当させ、私はその隙を窺いつつ同じく前に出る。



「この強さの分体が百ほどか、ちと厄介じゃの。ならば――『傷つき壊すことが誉也(タイラントギガース)』」



 バイツロンド爺が攻撃を受けながらも動きを止め、その場に佇んだと思うと、スキルを使用し、そのまま腕を振り上げた。



「ぶっ飛べ」



「これは――」



 バイツロンド爺が大地を叩いた瞬間、周囲の木々も草木も、音すらも彼を中心に吸い込まれていき、大地を爆ぜさせるようにめくれ上がった。



 私も分体ももれなく空へと打ち上げられ、浮き上がった地の塊に足を付けてバイツロンド爺に視線を向けた。



「む……」



「ゆくぞ――『拳聖の狂化(クリフバーサーカー)』」



 明らかに今までの強化とは格の違うスキル――これだけ離れているにもかかわらず、あの拳はここまで届くのを理解してしまう。



 私は小さく浅い呼吸を繰り返すと、腕を振るう。



「絶気――」



 魔王としての気配が空気に解ける(・・・・・・)。魂が芽吹きを思い出す。



 拳が迫る。

 私はその絶対なる殺しの気配を一身に受けて瞳を閉じた。



「これは――?」



 大きく振るわれた拳の衝撃は、私を消し去ろうと放たれた。

 その衝撃を受けた。



 溶けていく、私の体が全てをそこに置き去りにする。



「――」



 輪廻を得た芽吹き、これこそが今私の持つ絶気。



 消し飛んだ体――しかし魂の粒子が金色の麦に私を記録し、新たにそこから始める(・・・)



「『輪廻の果ての芽吹きエレダーオブスピキュール』」



「後ろっ!」



 バイツロンド爺が驚き振り返る。

 私は彼の後ろで風に靡いていた小麦からその身を再現させた。



「『血鮮樹(けっせんじゅ)血の豊穣(ロキア)』」



「むっ!」



 大地の血液がバイツロンド爺を包み、彼を縛っていく。

 彼から流れるあらゆる血を吸収していき、血液の樹は大きく鋭くなっていく。



「終わりです」



 私が腕を上げると、血の大樹が徐々にひび割れていく。

 そして腕を振り終えると同時に、その大樹は血の力を逆流させて破裂した。



「んがっ!」



 バイツロンド爺の体が傷つき、その傷から血が噴き出す。

 私はその光景を横目に、チラと背後に目をやった。



 愛娘のお節介だろうかと肩を竦めると、ふと額から脂汗が流れたことに気が付く。



「――?」



「……よい、よいのうロイ=ウェンチェスター。主は強い、ああ強いとも」



「嫌になる気配ですね。それなりに認められたと言うことでしょうか」



「ああ、そうとってもらっても構わんよ。わしに傷をつけたのはジンギと……いや、奴はまだ無意識だったか。しかしこれだけの傷、何百年以来かの」



「あなたは、一体――ッ!」



「ちと使うぞ。ちゃんと避けろよ輪廻の魔王――『竜玉を持つ者(ドラゴンオーブ)』」



 バイツロンド爺の皮膚が波打ち、まるで人のそれとは違うものへと変異していく。

 あの皮膚は……竜。あのギフトはまさか。



「ギフト・竜人(ドラゴニュート)ですか!」



 私が生きてきた中では一度も見たことのないギフト、それどころか私よりもっと古い魔王が持っているという例しかなかったはずのギフト。

 竜神さまであるクオン様はギフトというものをむやみやたらと渡さない。



 クオン様のギフトはこのドラゴニュートというギフトしか存在していないものだと言うのが世間一般だ。



「いいや。『ギフト・竜にその身を燃やす者(ドラゴンルーラー)』それがわしのギフト」



 バイツロンド爺の両手からあり得ないほどの力が溢れている。

 それはどんどんと丸くなっていき球体になり、それを持ったまま私を見て嗤う。



 マズい。

 その球体が解けていくとバイツロンド爺の拳に纏わりつき、拳を光輝かせる。



「受け取れぃ」



「くっ――」



「退きなさいロイ!」



「ミーシャさん!」



 私が後ずさると同時に、どこに隠れていたのか聖女様が飛び出してきた。



「125連――」



 バイツロンド爺が拳を放つと同時に、稀代の聖女様からも圧倒的な闘争心と殺意が漏れ出て、その気配そのまま聖女の拳が狂仁へと振るわれる。



「獣王!」



 ミーシャさんの拳とバイツロンド爺の拳がぶつかった瞬間、私は舌を鳴らし、2人を覆うような植物の盾を生成しようとする。

 すると私たちの戦いを見ていた魔王様と勇者、そして愛娘たちが飛び出してきた。



「だぁもうなんでミーシャいるんだ! 『絶界(ぜっかい)僕だけの月の世界律リップヴァンウィンクル』エレノーラお願い!」



「はいです! お父様、ガイルさん! 『空は鏡、鏡こそが現チックタックミラーワールド』」



「おうよ! 『威光を示す頑強な盾シールドオブグローリー祝福された金剛の書(カノンアダマント)』」



「『大地は我が支配に在り(ハイフォルト・ロウ)』」



 エレノーラが私とガイル、リョカさんの数を増やし、それぞれが盾を生成する。



 これだけの盾で防いでも尚、衝撃は私たちを通り抜け、あろうことかリョカさんが創り出した世界にもひびを入れる。



「この脳筋どもめ! ちっとは周りへの影響考えろって!」



 リョカさんが歯を食いしばりながらも盾を維持する姿に、私もガイルも苦笑いで応える。

 そして私たちの盾が消滅し、リョカさんの世界が崩れ去ると同時に、聖女と竜人との打ち合いは終わった。



 私とガイル、エレノーラとリョカさん、アルマリアたちは安堵の息を漏らしたのだけれど、件の2人は随分と満足げに胸を張っており、それを見たリョカさんの額に青筋が浮かんだ。



 そしてミーシャさんとバイツロンド爺にずかずかと近づいて行くと、2人の頭を引っ叩いた。



「あぅ」



「むむ」



「この脳筋ども! 少しは手加減しろぉ!」



「じゃってぇ、ロイ=ウェンチェスターが強かったんじゃもん」



「このジジイが強かったわ」



「うっせぇば~かっ! じゃもんじゃないよクソジジイ!」



 アルマリアとパルミール嬢に背中を撫でられているリョカさんが頭を抱えた。



 私が小さく笑みを漏らすと、ゆっくりとリョカさんが私に目を向けた。



「ロイさんも後でお話がありますからね?」



 ガイルに肘で腕を討たれ、私は頭を掻く。

 まったく、随分と愉快な生を歩むようになってしまったな。と、私は小さく肩を竦めるのだった。

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