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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
22章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、喧嘩爺ちゃんに会いに行く。

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魔王ちゃんと巨人の王

「で、休むんじゃなかったの?」



「ああうん、そう思ったんだけれど、僕よく考えたら彼とあまり話してないし、頭がだらける前に接触しておこうかなって」



「リョカお姉さま、働き者です」



「アヤメにも見習ってほしいですが、あの子にこの手の話をすると耳を畳むのですよね」



 耳を畳むアヤメちゃんは今度の機会に見るとして、僕たちは今、ヘカトンケイルのあるバルドヘイトに訪れていた。




 今日以降、僕たちはアルフォースさんの捜索に労力を割く予定であり、きっと極星についての仕事を僕が請け負えない。

 ならばこそ先回しにしていた問題に手を打とうと、こうしてやってきたわけである。



「とはいえ――」



 街に入った途端、わかりやすく殺気を向けられている。

 何とも盛っている。けれどこれ(・・)がいい。これくらい僕にヘイトをぶつけるくらいが丁度良い。



「さ~って、巨人の王は何を語るのやら」



「巨人の王?」



 僕はスピカに笑みを返すと、そのまま歩みを進めていく。



 そうしてヘカトンケイル本拠地に入り、ジュウモンジたちのいる玉座のある間に辿り着くと、さっそく闇の女の子とニンジャの子が僕に殺気をぶつけてきて、戦闘態勢に移行したのが目に入ったから、すぐにアガートラームで彼らに光線を放ち、その行動を制限した。



 僕は闇の子とニンジャの子に見向きもせずに、不遜に膝に腕を立てて頬杖をついているジュウモンジと対峙した。



「ふんっ、相変わらず不可思議な殺気を放つな貴様は」



「そりゃあ僕は可愛いアイドルなので、殺気なんて怖いもの放てないですよ~」



「……それで、ここには何をしに来た。わざわざうちの者に喧嘩を売りに来ただけではあるまい」



 全く動けなくなっている闇の子とニンジャの子をちらと見たジュウモンジが、姿勢を正して僕を睨みつける。

 スピカが僕の前に出ようとするけれど、僕は彼女を引き寄せて彼に微笑みを向けた。



「まあ用はあるっちゃあるけれど……元気そうですね?」



「貴様が余計な手を回してくれたおかげでな」



「それはなにより。それで用件なんだけれど、ちょっとお願いがあってね。薄々感づいていると思うけれどちゃんと言葉にしないとだし」



 ジュウモンジが肩を竦め、僕に手のひらを向けて言葉を促してきた。スピカから手を離し、彼女を背中に下がらせる。

 流石王を目指していただけはある。

 こうしてちゃんとした場とタイミングがあれば耳を傾けてくれる。

 彼は暴君ではなかった。



「ありがとう――ジュウモンジ=ミカド、あなたには極星を続けてもらう。星の煌めきも、その力も、好きなように使うといい」



「……この我に、星の座に居座れと?」



「何か問題でもある――」



 僕が言い終わるよりも先に、ジュウモンジが拳に衝撃を纏わせて飛び込んできた。

 すぐに両指から衝撃の魔王オーラを放ち、ジュウモンジが纏っている衝撃ごと、その両腕を魔王オーラに吸わせて腕を上げさせる。

 けれどかの巨人の王は僕の魔王オーラを無理矢理ほどき、血液によって赤くなった衝撃を纏わせながら腕を自身に引き戻した。



「やるぅ~」



 僕は軽口を叩き、足元に衝撃の魔王オーラを放つと、弾けた衝撃が迫るジュウモンジの拳を弾き、そのまま足を一歩進めて彼の首筋に指を鳴らす直前の構えを押し当てた。



「……」



「……」



 僕は空いた手でポケットから薬巻を取り出し、それに火を付けて煙を宙に吐くとジュウモンジが口を開いた。



「貴様から見て、俺の力とはどの程度だ?」



「普通に弱いね」



「そうか」



 ジュウモンジが僕からそっと離れて玉座へと戻っていく。

 普通に弱い。確かに僕はそう言ったけれど、後ろにいるスピカが訝しんでおり、彼女の感覚は間違っていない。

 少なくとも、現極星としてフィムちゃんに認識されている、僕とランファちゃんを除けばジュウモンジが極星最強だ。

 ヴェインとキョウカさんよりも、マルエッダさんよりも強い。



「俺は、この国を穢そうとした。何故、まだ俺に星の導きを与える」



 この言葉は僕ではなく、フィムちゃんに向けられており、僕が彼女に目をやると、星神様は首を傾げてキョトンとしていた。



「私があなたを選んだからですよ」



「その選択は、間違いだったな」



 自傷気味に笑うジュウモンジに、さらに角度を付けて首を傾げているフィムちゃん、隣のルナちゃんが少し笑っていた。



「まだ、間違っていないですよ? あなたの星はまだ輝いています」



「――」



 ポカンとするジュウモンジに、僕は声を漏らして笑う。



「さすがの巨人の王も、星の無垢さには言葉を失うか」



「……月の魔王、貴様、俺に何を求める」



「僕は別に、誰に何も求めちゃいないよ。ただいい加減、夜も星も秩序も及ばない深き大地に根付く暗闇を、何とかしてほしいってことを言いに来ただけ」



 ジュウモンジから濃い戦闘圧が漏れ出ている。

 僕はスピカとフィムちゃん、ルナちゃんに目を向けるとそのまま踵を返す。



「リョカ=ジブリッド」



「ん~?」



「最後に1つ答えろ」



 僕が振り返ると、ジュウモンジが相変わらずいかつい顔ではあるけれど、小さく頬笑みを浮かべ、口を開いた。



「ミーシャ=グリムガント、奴は俺がさらに力をつければ、再戦を許してくれるか?」



「強ければね」



 ウインクをしてそう言うと、ジュウモンジが満足げに立ち上がった。

 僕たちはそのまま玉座の間を出ていこうとすると、背後からその巨人が声を上げた。



「ランマル、リュード、すぐに皆を集めろ」



「ぼ、ボス?」



「長い休暇は終わりだ。すぐに取りかかれ」



「はい!」



「御意に」



 嬉しそうな声色の闇子ちゃんとニンジャくんが僕らを通り越して外に飛び出して行ったのを横目に、僕たちもヘカトンケイルから出ていく。



「リョカありがとう」



「うんにゃ、ここにいるのもあと少しだろうからね。やれることはやっておかなきゃ」



「あ――」



「スピカ?」



「……」



 スピカが僕の袖を控えめに引っ張る。かと思えば体を引っ付けてきて口をつぐんだ。

 僕が首を傾げていると、強く強く腕を抱きしめられている。



 僕が困惑しているとルナちゃんがそっと微笑んだ。



「……ミーティアに帰りましょうか」



「え、う、うん」



 何か含みのあるルナちゃんがそっとスピカを支えており、僕は終始頭にクエッションマークを浮かばせていたけれど、リア・ファルを使ってミーティアへと帰るのだった。

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