魔王ちゃんとダル気分からの感情爆発
リア・ファルでミーティアに帰ってきた僕たちだったけれど、事前にスピカとマルエッダさんに頼み、街の一角を僕のギルド建設予定地にしてもらっており、バイツロンドさんとパルミールさんを含めた面々にそこで待っていてもらい、僕は早足でアストラルセイレーン本拠地に入り込んだ。
「あら、おかえりリョカ。バイツロンドさんは見つかった?」
「うん。それよりスピカ、ヴェインはどこ?」
「え、ヴェイン? それならそこに――」
スピカが調理場から出てきて、僕の背後を指差した。
本当ならエプロン姿のスピカを抱きしめて、可愛いを補充したいところだったけれど、僕は振り返ると同時にヴェインに飛び掛かった。
「おらぁ確保ぉ!」
「うわっ突然なんだ!」
僕はヴェインと正面で向き合い、そのまま両腕を上げて手の側面で宵闇の騎士の両肩を叩いた。
「ぐわぁっ肩がぁ!」
「帰って来て然う然う何やってるのよあなたは」
両肩を腕をクロスして撫でているヴェインにガルルと威嚇声を上げると、騒ぎを聞きつけたのか、ウルミラとマルエッダさん、ルナちゃんアヤメちゃん、フィムちゃんがやってきた。
「リョカさんおかえりなさい」
「お前は定期的に騒がしくなるわね、スピカとフィムでも吸って落ち着け」
「あ、わたくしもやりたいです」
ルナちゃんとアヤメちゃんを両手を使って撫で、その後にウルミラを抱きしめる。
「それでリョカさん、一体何の騒ぎでしょうか? またヴェインがやらかしましたのなら、腕くらいはもいでいいですわよ」
「マルエッダ、俺のことなんだと思ってるのさ! 今回は本当に何もやっていないぞ!」
何もしていないと言うヴェインを軽く睨み、僕は頬を膨らませてスピカにトイボックスに入っている服を押し付ける。
「え? なに」
「ルナちゃん、これみんなで着て」
「う~ん……わかりました。それじゃあちょっと着替えてきますね」
「えっ、わたくしも?」
「逃がさんぞマルエッダ」
アヤメちゃんに引きずられているマルエッダさんを横目に、僕はヴェインを叩き続ける。
するとフィムちゃんが首を傾げながら僕の背中を撫でてくれ、星神様をそのまま抱きしめた。
「リョカお姉さま大丈夫?」
「最近は頭を使ってばかりだったので、可愛いを補充中です」
「わ~、それなら……どうぞっ」
少し僕から離れたフィムちゃんが、お星さま眼で両手を広げてきた。
正直辛抱堪らん。
しかし僕は何とかその欲望を払いのけ、ルナちゃんたちが歩んでいった方角を指を震わせながら指差す。
「フィムちゃん、ルナちゃんにあなたの服も渡してあるので、良かったら着てください。それで僕は生きられます」
フィムちゃんが頷き、ルナちゃんたちの下に駆けていくのを見送り、僕はヴェインの頬をこねる。
「あのリョカちゃん? 俺が何をしましたか?」
「……」
そうして沈黙を貫いていると、ルナちゃんたちのお着替えが終わり、こちらにやってきた。
「ふ~ん、中々着心地好いわね。というかなんで私だけエプロンも指定されているのよ」
「これは……学校の制服でしょうか? ちょっと背伸びしている感ありませんか?」
「こんな真っ白な生地、凄い上等な服なのでは?」
「……あの、わたくしこれ着ても大丈夫なのでしょうか、若い子たちが着るお洋服では?」
それぞれが感想を述べているけれど、僕は目を閉じ合掌――。
ルナちゃんが言ったように私の世界の高校の制服をイメージしたものだ。お嬢様高校の清楚感のある制服、寒色のチェック柄のスカート、ワイシャツにリボン、上にはベージュのチョッキ靴もしっかりとローファー。
まずはスピカ。髪型をポニテに指定し、制服の上からエプロンを掛けてもらっている。
茶髪巨乳むちっ子ポニテエプロンJKだ。良し!
ルナちゃんは一切着崩さず、服のサイズもピッタリ。しかし前髪に月とハートの髪留めなど目立たないように小物を付けてもらっている。所謂真面目なロリJKだけれど、可愛くするところは可愛くしている系に仕上げた。良し!
ウルミラはワイシャツだけで腰にカーディガンを巻いてもらっている。そしてこっちはワイシャツの第2ボタンまで開けており、活発な見た目と相まって凄く爽やかな印象がある格好に仕上げた。良し!
フィムちゃんは萌え袖完備のブレザー仕様の制服、後輩力を高めるために全体的にだぼだぼだけれど、なんかもう全部が可愛い。良し!
マルエッダさんは……何だこれエロイな。制服をオプションで付けてもらったみたいな背徳感があるぞこれ。良し!
アヤメちゃんはスク水にランドセル。うむ。
「おいリョカてめぇオラぁ!」
「それも制服ですよ」
「どこの世界にこれで登下校する民族がいるんだよ!」
アヤメちゃんを撫でていると、スピカが気の毒なものを見るような目を向けてきた。
「リョカ、あなたもしかして疲れてる?」
「……うん、もう働きたくない。それにどこだどこだと捜し回っていた人の手掛かりが実は身近にあったと告げられたから力抜けちゃった」
「身近?」
「あ~、バイツロンドにヴェインさんのことも話したんですね」
「え、俺?」
「……ヴェインさぁ、剣誰に習った? 名前言ってみ?」
「え、あの旅のおっさんか? 確か――アル、アルナントカのおっさんだったかな?」
「アルフォース=ノインツ、君に剣を教えた人がアルマリアのお父さんだよ」
「……」
ヴェインが顔を逸らし、体を震わせていた。
「なるほど。それはやる気失くすわね」
「うん、だから今日はもうお開き。スピカ僕を癒しておくれ」
「はいはい、私で良かったら一緒にいるわよ」
スピカの頭に顔を埋めていると、ルナちゃんもひっ付いてきたからそのまま体から力を抜く。
「ああそうだ、ギルド建設予定地にもう建物建てちゃったから、後で確認して。そこにこのままバイツロンドさんとパルミールさんを住ませるからその手続きとかもあとでよろしく」
「うん、それも後でね」
僕はそう言ってスピカに完全に体を預けると、星の聖女様が僕を引きずるように動き出した。
「それじゃあマルエッダ様、ちょっとリョカを休ませてきますね」
「ええ、お願いします。手続きその他はわたくしの方でやっておきますわ」
「お願いします」
こうして僕はルナちゃんとスピカ、フィムちゃんに僕が使わせてもらっている部屋まで連れていかれるのだった。




