魔王ちゃんと星の権限
「本当にもう、男の子たちは野蛮で嫌ですね~」
「あの、1人聖女が交じっていますわよ」
「ミーシャお姉ちゃん、少年みたいな顔で血まみれになるからね」
そんな生まれながらのサイコパスみたいな少年は嫌すぎるだろう。
しっかし随分のんびりとしているな。僕的にはあの3人をずっと眺めていたいけれど、せっかく絶界まで使ったのに、彼女たちの力が見られないのはもったいない。
僕は思案顔を浮かべると、フィムちゃんに目を向ける。
「フィムちゃん、さっき魔王種に何かしました?」
「ん~? うんっ、ミルドにやらされていた時みたいに成長、出産を繰り返しました!」
「……フィム、いくらなんでもそんなものを人に向けちゃ――」
「あっ、ミーシャとセルネくん、2体目撃破しましたね」
「早いな」
聖女と勇者を2度見して、テッドちゃんが頭を抱える。
そんな彼女に、ラムダ様がからからと笑う。
「まあここはリョカちゃんの世界の中だし、どんな魔物を生成してもここにいる子たちなら何とでも出来るよ。テッドは相変わらず心配性だなぁ」
「心配性にもなりますよ。フィムは考えているようで何も考えていないし、アリシアはそう言うの止めないで笑って加担するし、あたしがしっかりしないとやりたい放題なんですから」
「テッド、いつも苦労をかけてすみません。アリシアに関しては、もう少しわたくしが寄り添っていればよかったのですが……」
「い、いえ、ルナ様に責任は……あの、その」
テッドちゃんが顔を逸らして言い淀んでいる。
アリシアちゃんに近い大地神さまだから、きっと何か言いたいこともあるのだろう。けれど彼女はそれを飲み込み、首を横に振るだけだった。
ルナちゃんは顔を伏せ、アヤメちゃんは呆れたように息を吐き、テッドちゃんは顔を伏せ、ラムダ様は頭を掻いて肩を竦めた。
そんな女神さまたちの空気を知ってか知らずか、フィムちゃんがキラキラ眼でミーシャたちに目をやっていた。
「スピリカ、スピリカ!」
「……はいはいなんですかフィリアム様」
「スピリカもミーシャお姉さまみたいなツヨ聖女になる?」
「無理ですね~。私はもう少し大人しい感じで強くなりたいですね。リョカやロイみたいな、どんな時でも冷静でいられる系な聖女になりますよ」
「そっかぁ。ミーシャお姉さまみたいなイケイケな感じはウルミラに期待かなぁ」
「あれ、私ミーシャさんほどの戦力を期待されています?」
「うんっ、だってクオン姉さまに見初められたし、行きつく先は多分あれだよ」
ウルミラが頭を抱えているけれど、フィムちゃんの明るい声に女神さまたちも小さく笑っていた。
流石は星神様、夜の帳に散りばめられた宝石のように、月とは違う光を落としてくれる。
「しょうがない。フィムちゃんの喜ぶことでもしようか」
「みゅ? リョカお姉さま、何かするの?」
「うん、せっかく極星候補も、極星もいるんだからいつか辿り着ける星の瞬きを見せてあげたいじゃない」
僕がちょっと悪い顔で歯を見せて笑うと、フィムちゃんがパッと咲いたような笑顔で頷いた。
僕は観戦席の縁に立つと、アルマリア、エレノーラ、ランファちゃんに目を向ける。
「『魔王特権・僕こそが月の庇護を受けた魔王なり』」
世界すべてが僕に意識を向ける。
僕の世界なんだ、この世界は僕のために当然在る。
風も空気も、大地も月も星も全部が僕を見ている。
ああ、歌いたい。
こんな熱烈な意識を向けられたら体が火照って仕方がない。
「『凶兆を告げる魔の星・星々を駆る必中の魔剣』」
銀夜を駆るほうき星、僕はダーインスレイブに横乗りし、口を開いて歌を唄う。
僕の姿を目に捉えたからか、アルマリアの顔が青ざめている。
「……あれ、どこに行くと思いますかぁ?」
「……間違いなくダラダラとしていた人のところですわね」
「――はいっ」
「どうしました~エレノーラ?」
「エレは魔王の娘です!」
「逃がしませんからね~、というかリョカさん相手にエレノーラの補助がないと軽く死ねますね~」
「あなた意外と強かな子ですわね」
やっと危機感を覚えたのか、3人が戦闘態勢に移行した。
僕はスピカとウルミラに目をやる。
「それじゃあサクッと行ってくるよ。ぜひぜひ極星としての強さの参考の1つとして楽しんでいってね」
「フィリアム様、ちなみにリョカは何個星ですか?」
「う~ん……ここに在る星は全部かなぁ」
「一切参考にならないことはよくわかったわ」
僕はクスクスと声を漏らし、横乗りした箒で浮き上がる。
正直、僕もエクストラコードを得たアルマリアとエレノーラ、そして勇者となったランファちゃんの力には興味がある。
もちろん戦いたい倒したいじゃなくて、一緒に依頼を受けるだろし、戦力を把握しておきたいという意味だ。
ミーシャやガイルのように、強いからって噛みつく様な躾のなっていない淑女にはなりたくはない。
まあ、それでもここ何日間では一番楽しめるだろうけれど。
僕は笑みを溢しながら、星となって空を駆け抜けるのだった。




