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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
21章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、故郷の戦いを思い出す。

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魔王ちゃんと圧倒的ライブハウス

「それじゃあ絶界張るよ~。中で暴れ回っても良いけれど、見ている子たちがいるのも忘れないでね」



 ガイルとロイさん、アルマリアとエレノーラとランファちゃん、ミーシャとセルネくん、どうにもサンディリーデの面々は血の気が多い。



 そしてスピカとウルミラ、ヴェインとマルエッダさんのグエングリッター組が観戦というらしい。



 僕は女神さまたち、ラムダ様とテッドちゃんに目を向ける。



「ああそうだ、絶界の中だと女神様の権能が使えないので、先に魔王種を出していただけると」



「君とんでもないことしているよね。まあ今さらか――ミーシャちゃん、数は一体でいいの?」



「10」



「……どのくらいの強さ?」



「ロイが戦ったのよりちょっと強め」



「そんなもの10体もいたら街なんて灰になっちゃうくらいなんだけれど。いや、いいか」



「よくないですよラムダお姉ちゃん、ただでさえ魔王種なんて存在してはいけないものなのに、それをそんなたくさん」



 テッドちゃんが顔を顰めており、本当に魔物に関して真面目に管理していたのが窺える。

 本当に僕の聖女が申し訳ない。



「ついでにタクトにお土産として体の一部を持って帰ってあげなさいよ」



「ああ、それいいね。魔王種なんて知ったらタクト大喜びだよ」



 タクトくんの話が出たのだけれど、魔物に喜ぶと言うワードで、テッドちゃんが反応した。



「魔物が好きな方がいるんですか?」



「うん、チェイサーノートのギフトを持っている僕の友だち」



「チェイサーノート……あたしに加護を与える力が残っていたら、その人に加護を渡していたかもしれないですね」



「そういえばタクトさんはテッドと相性が良さげっぽいですよね」



「おや、じゃあ代わりにあたしがその子に加護渡そうか? あたしの信者になっちゃうけれど、使う神核はテッドのだし問題ないでしょ」



 自分のいないところで勝手に話が決まっているけれど、タクトくん驚くのではないだろうか。あの子もあの子で何だかんだ好戦的だし、喜びそうではあるな。



 さて、そろそろやるかな。



 ラムダ様が魔王種の生成を開始し、ニヤケ顔をしていたフィムちゃんが横やりを入れるようにその生まれかかっている魔物に何かをしていた。



「『絶界(ぜっかい)僕だけの月の世界律リップヴァンウィンクル』」



 世界から切り離される。

 恩恵も庇護も受け付けない高密度の多重結界――その中に大地も星も月も在るということを錯覚させる。

 結界の中の世界は勘違いを繰り返し、この場所には夜が来ていることを認めさせる。



 世界と切り離された世界、錯覚と疑いと確信を何度も何度も繰り返させることで起きる世界のバグ。それは1つの世界を確定させると言う事象にまで昇華させた。



 さっきまで太陽が高く昇っていた景色は一転して、夜の帳が辺りを包む。



 月も星も顔を覗かせる異常空間、殺風景な世界の中で、僕は指を鳴らして観戦席を生成した。



「ほれバトルマニアども、これで存分に戦えるでしょ? 怪我しても一瞬で治してあげるから各々全力でやりな」



 僕が観戦席の最前に腰を落とすと、呆けたような顔でミーシャ以外のみんなが僕を見上げていた。



「おいおい、やれって言われたからやったんだ、驚愕吃驚はなしにしておくれ」



「こんなことしておいてあの涼しい顔、ちったぁ顔を歪ませるくらいした方が可愛げっつうもんがあるもんだぜ」



「水面から顔を出した美しい鳥より、その下でバタ足を必死にしている鳥に可愛さを覚えるの。まあ別に僕は辛くないけれどね、クマたち数体に肩代わりしてもらっているし」



 僕が指差した場所にはクマがおり、絶界を作る際の補助をしてもらっていた。



「さあ、聖女も勇者も魔王も極星もギルドマスターも魔王の娘も、この世界で福音を鳴らせ、拳を打ち鳴らし、剣戟で闘争心を奏でろ。魔王の御前だ、生温い戦いなんてするんじゃないよ」



 僕の挑発ともいう言葉に、みんなが好戦的に嗤った。



 ラムダ様が出した魔王種が徐々に形を現して行き、その咆哮が大気を揺るがせた。

 そんな強大な魔物を前にしても、獣の2人は牙を研ぎ、爪を立てている。



 大地の命を一身に受け止める彼は太陽を撃ち落とそうと歯を剥き出しにして嗤う。

 それを受けた太陽が、バチバチと音を鳴らす金色の炎を噴き上げる。



 豊穣も嫉妬も受け入れた小さな影は、戦いの気配を芽吹かせるように鋭い気配を纏わせた。

 純粋に色を、無垢に振りかざすその異形はなによりも清純に誰かの心臓に刃を入れるが如く、純白の殺意を可愛らしい笑みに張り付かせていた。



 僕は息を吐くと、言葉を忘れてしまったようなグエングリッター組に視線を向けた。



「話には聞いていたけれど、実際に体験するととんでもないわね」



「この中でリョカさんに勝てる想像が一切できないんですけれど」



「……魔王がこれだけの力を持つのって結構ヤバいだろ」



「国が国なら一発指名手配ですわね。大教会が霞むほどの奇跡ですわ」



 僕はグエングリッター組に笑みで応え、準備しておいた茶菓子とお茶を彼女たちと彼に渡す。



「僕たちはのんびり観戦でもしようか。きっと良いものが見られるよ」



 スピカの苦笑いに、僕は戦いの合図を告げるのだった。

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