魔王ちゃんと新たなる極星の道
「もうっ、ヴェインはどこに行ったのかしら?」
「ロイさんに誠心誠意指導されているみたいですよ」
「本当、あの男は……」
スピカが呆れているけれど、ブリンガーナイトはウルミラもそうだったけれど、少年漫画的な在り様が好きらしい。
こういう事務的なことよりも、努力、友情、勝利に結びつく歩みにまっしぐらなようだ。
そんな呆れているスピカにキョウカさんが頬杖をついたまま、気怠そうに尋ねた。
「で、スピリカよ。また私たちを呼んだのには意味があるのでしょ?」
「うん、ちょっと今回のエクリプスエイドで、思うところがあってね」
「思うところっつうのはどういうところ?」
「私たち弱すぎ」
キョウカさんもそうだけれど、他の極星たちも顔を伏せた。
実際問題、ここにいるどの極星も戦闘面では圧倒的にジュウモンジに劣っている。
「ねえ、今回の事件で全く役に立てなかったと自覚している人は手を上げてくれない?」
スピカが一番に手を上げると、ボチボチと極星が手を上げ始めた。
「リーデッヒが手を上げないのは何故かしら?」
「俺は一応、この緊急時にうちで持っているあらゆる物を提供したつもりだよ。役に立っていなかったってことはないだろう?」
「なるほど。それならキョウカも手を下げなさい。あなたたちも治安維持に貢献していたでしょう」
「スピリカ、お前何を考えている?」
訝しむキョウカさんに、スピカが大きく息を吐いた。
「今手を上げている者はとりあえず極星の地位を返納すべきだわ」
スピカの提案に、皆がざわついた。
そしてフィムちゃんも驚いた顔を浮かべ、スピカの腰をペチペチし始めた。
「痛い痛い、フィリアム様痛いです」
「む~」
「……スピリカ、まず理由を聞くわ」
「単純に、私が弱すぎたって話よ。あ、それでみんなが許してくれるのなら、私はマルエッダ様を再度任命したいわ」
「それだけ?」
スピカが首を横に振り、ルナちゃんに目を向けた。
「月神様、リョカとミルドの戦いって今見られますか?」
「ええ、構いませんよ」
ルナちゃんが鏡を出し、それを極星みんなに見えるように円卓に設置した。
そして僕の戦いとミーシャの戦いが上映され、キョウカさんを含めた極星たちが顔をひきつらせた。
「このくらいの力、とは言わないけれど、少なくともジュウモンジに対抗できるだけの力は欲しかったわ」
「……ねえスピリカ、あんた私たちに化け物になれって言いたいの?」
「誰が化け物ですか。可愛いが大好きなアイドルですけれどぉ!」
「リョカちょっと黙っていなさい」
「化け物であることはたぶん誰も否定しませんわよ。というかずっと可愛い可愛い言ってあの魔王を倒したのはどうかと思いますわよ」
「だって可愛いフィムちゃんを泣かせたし」
「戦う理由が異例過ぎる」
そんなことないと僕は声を大にしたい。
可愛いを知っているから僕はあそこまで出来たのだ。
「少し訂正するわ。今回役に立たなかったものではなくて、将来的にこれほどの力を付けられる自信がある者は極星を続けなさい」
「あ~スピリカ? 無理無理、リョカお嬢様とミーシャお嬢様は本当に昔からヤバかったし」
「ヤバくないわ! 可愛いの権化だわ!」
「2人ほどとは言わないわ。けれど――」
スピカがランファの背を押し、前に出した。
「彼女はランファ=イルミーゼ、フィリアム様が見初めた勇者様よ」
「勇者? ということは」
「さっき無理矢理加護を与えていたわ。七つ星極星」
「七つ星っ!」
またしても極星たちが騒ぎ出す。
そしてスピカが再度ルナちゃんに目を向けると、月神様は頷き、先ほどのランファちゃんの聖剣とそれを使用した映像を流した。
「ランファはリョカと同じでサンディリーデの出身よ。当然ギルドはない」
「なるほど、スピリカが何を言いたいのか見えてきたよ」
「あ? どういう――」
「前から思っていたのよ。キョウカ、あなたのギルドでも極星に近しい力を持った人はいるでしょう?」
「そりゃあいるわよ」
「それじゃあその子が極星に見初められたらあなたどうするの?」
「そりゃあ降りるに……」
「それじゃあ駄目なのよ。当然、いつまでも縋りついているべきものでもないけれど、少なくとも私はまだ極星を名乗れるだけ強くはないと考えているわ」
「つまりスピリカは、極星をギルドではなく、個人で賜る称号にしたいわけだね?」
「うん、もちろんその個人の力にギルドの功績も加味すべきだわ。でも力のある人を次の代に引き継ぎで抜いてしまうのは戦力の分断に繋がるわ」
極星が思案顔を浮かべた。
スピカの考えはわかったし、確かにギルドに縛られるよりはずっと強い人材を取り入れられる。
けれど1つ足りない。それは――。
「でもさスピリカ、どうして俺たちがギルドを基準にしているかはわかっているよね?」
「ええ、不正を失くし、公正な信頼を得るためよ」
「だったら――」
「そう、だからこそ、私たち極星にも極星を選ぶ機関が必要だわ。最終的な判断はフィリアム様に仰ぐとしても、その力に関しては……」
スピカが僕に目を向けてきた。
なるほど、それで僕の出番というわけか。
「さっき小耳に挟んだんだけれど、どこかの魔王様がこのグエングリッターにギルドを作りたいそうよ」
全員の目が僕に向けられる。
「仮にも月神様と星神様、さらに金色炎の勇者様と神獣様、その配下にはグエングリッターの英雄とその英雄を信者に持つ豊神様、他にも色々なしがらみがある魔王様よ。誰も逆らえないし、誰よりも公平だと考えるわ」
極星たちが思案顔を浮かべながら、徐々に頷き始めた。
「私は、極星を選ぶギルドの設立を進言するわ。そしてそのギルドマスターに、リョカ=ジブリッドを推薦する」
やられたなぁ。
小悪魔っぽくウインクをして舌をベッと出すスピカに今すぐ抱き着きに行きたいけれど、ここで醜態をさらすと、せっかく信頼されているのがパーになりそうだ。
「ランファにもそれを手伝ってもらいたいのだけれど、どうかしら?」
「……ええ、それほどの重要な役割、断ってしまってはイルミーゼ家の名折れですわ」
スピカが満足げに胸を張った。
そんなスピカを見ていたキョウカさんが好戦的な顔で僕に視線を向けてきた。
「それで魔王様よ、あんたは力だけを見るのか? それはちと平等じゃないでしょ」
僕は急いで紙にペンを走らせて、ある程度の条件をその紙に記し、それを紙姫守を使って渡した。
「極星って言うのは、この国の発展のための役割だと考えている。もちろん力だけ持っていても行きつく先は闘争の渦中だ。そんなもの認められるわけがない。当然、支援に特化している極星には、それ相応の基準を設けるよ。力はある程度持ってもらうけれどね」
「げっ、俺がきつくないですかお嬢様」
「当然だよリード、君はジブリッドの名も背負っている。不甲斐ない極星であって良いはずがないんだから、情けも容赦もしない。死ぬ気で国に貢献しろ」
「いいね、銀色の魔王リョカ=ジブリッド、あんた人を使うのに向いてるよ」
「商家の娘なので」
「魔王だからでしょう」
笑みを向けてくるキョウカさんに僕も勝気な表情を返し、改めてスピカに目をやる。
「ん~?」
「それで提案。スピカとウルミラは僕のギルドに移籍してきな」
「え?」
「僕はずっとこの国にいられるわけじゃない。だから基準を公表して別の人に回してもらいたいんだよ。でも僕が想定している人は戦う強さの判断は得意そうなんだけれど、それ以外だとちょっと心配でね」
「誰に任せるつもりなのよ」
「この国にいるっていう情報はお父様から聞いていた。きっとアルマリアのお父さんの行方を知っていると思ったからね」
「え~っと」
「バイツロンド=ルクシュ、彼は今、この国に滞在中なんだ」
「バイツロンド?」
スピカが首を傾げる中、キョウカさんとリードが席を立ちあがった。
「おいおい銀色、あんたまさか狂仁をギルドに置くつもりか!」
「……前言撤回、力を見られる方が地獄だわそれ」
名前を知っていたのか。
確かに聞いた通りの実力者ならこの国にもその名をとどろかせているだろう。
「バイツロンドさん――ジンギが憧れている方ですわよね」
「そうそう、お父様に頼んで捜してもらっていたんだよ」
「有名な人?」
「スピリカはその辺り知らないか。とにかくすっごい強い人」
「ガイルより強いらしいよ。ミーシャは、どうだろうなぁ。相手が強いとあの子やる気出すからなぁ」
僕がバイツロンドさんを雇用すると言った後、フィムちゃんがどうにも考え込んでいる。
「狂仁のバイツロンド……クオン姉さまの――大丈夫かなぁ」
「う~ん?」
「フィリアム、それについては多分大丈夫ですよ。彼のやることにあれは何も言いはしませんから」
女神さまたちが何事かを思案しているけれど、ルナちゃんの雰囲気からまあ気にしなくてもいいだろう。
「っと言うわけで、僕たちの目的はアルフォース=ノインツさんを捜すことなんだけれど……それは完全にブリンガーナイトに投げちゃうとして。僕たちはバイツロンドさんを捜そうか」
「マルエッダ様にも相談しなきゃ」
これからの極星の在り方、そしてこれからの僕たちの行動が決まったところで僕は伸びをする。
「ああそういえば、別に今スピカが言った極星のあれこれはすぐにってわけじゃないんでしょ?」
「そりゃあそうよ。現極星たちにも引き継ぎをしてもらいたいし、続けたいのなら続けたいなりの力を示してもらう予定だから、すぐにってわけじゃないわ」
「まっ、この調子だとマルエッダとヴェイン、俺とキョウカ以外は降りそうだけれどな」
「後ジュウモンジだな。あいつ、狂仁が出張ることになったら腰を抜かすな」
「別に全員辞めなくてもいいのよ? リョカはそれなりに良識があるから、基準を見て判断しても遅くないと思うわ」
スピカの厚い信頼に応えようと、今も話しながら紙に走らせるペンを止めないでいる。
それをルナちゃんとフィムちゃん、テッドちゃんに確認してもらいつつ、僕は極星へと想いを馳せるのだった。




