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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
20章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、勇者に再会する。

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魔王ちゃんと新たな星の極光

「魂壊の魔王・ミルド=エルバーズ、女神様の体を奪いエクリプスエイドの発生、世界の生成……あなた相変わらず頭おかしいのではなくって?」



「へへ、よせやい」



「褒めてないですわ」



 ぺしと額にチョップしてくるランファちゃんに、僕はサンディリーデの僕がいなかった日々に想いを馳せる。

 こんな風に引っ叩いてまで誰かの行動をツッコミで止める行動をとらざるを得ないほど、向こうの誰か……ガイルとカナデを止めていたのかと思うと涙が出てくる。



「……なんですの?」



「ランファちゃん、こっちではゆっくりしていきなよ」



「異次元からの理解力の高さを見せつけてきますわね。まあそうさせてもらいますわ、そもそもこちらに来たのも、ガイルさんが面白いことになっていそうの一言で決行されたことですし」



「よくヘリオス先生とテッカが許したね」



「ヘリオス先生は笑っていましたけれど、テッカさんは許していないですわ。結局生徒を……わたくしとセルネを連れて行く学校行事という扱いで学園側を納得させましたし」



「それガイルじゃなくてヘリオス先生の提案でしょ?」



「ええ――っと、あまりわたくしたちの話を続けていると、スピカさんたちが困ってしまいますわね」



「ううん、私は学校に通ったことないからとても貴重な話で楽しいわ」



「あれ、スピカ学校通っていないの?」



「聖女の修行でいっぱいいっぱいだったもの。ある程度の教育はマルエッダ様に仕えてから習っていたの」



「どこかの聖女に聞かせてあげたい話ですわね」



 深くため息を吐くランファちゃんに、ルナちゃんが笑った。



「でももしミーシャさんが本来の聖女然としていたら、わたくしはちょっと嫌ですね」



「……」



 僕もランファちゃんもスピカも、聖女らしい聖女のミーシャを思い浮かべる。



「イヤね」



「イヤですわ」



「無理だねぇ」



 満場一致である。



 そして僕はふと、ランファちゃんと先ほどからソワソワと彼女を見ているフィムちゃんに目をやると、そのまま抱き上げる。



「ランファちゃん、君に勇者の力を与えてくれたフィリアム様だよ~」



「え?」



 ランファちゃんが驚き目を見開いた。

 やっぱり知らなかったのか、でもそれにしては聖剣の名前が。



「ランファちゃんランファちゃんっ、聖剣、聖剣見せて、見せて」



「え、え?」



 僕の腕からするりと降りてランファちゃんの周りをピョンピョン飛び跳ねる星神様。けれどスピカがフィムちゃんを捕まえて抱き上げた。



「フィリアム様、ランファ困ってますよ。それに聖剣って体力消費が激しいのですから、そんな見たいだけで頼んでは駄目です」



「う~、でもぉ」



「フィム、まずは説明してあげたらどう? ランファさん、突然のことで困っているのだと思うよ」



 テッドちゃんがランファちゃんに一言謝罪し、フィムちゃんへ事の経緯の説明を求めた。

 さすが姉妹のように育った女神様だ。



「うん――えっとね、ランファちゃんこの間、あーちゃんのあれに襲われていたでしょう? その時私の目には星がピカピカしていたの! ランファちゃんにびゅんって星が流れるのを見たの! だから――」



「フィリアム、それではわかりませんよ。アリシアの襲撃の時、ランファさんの在り方に極星としての素質を見た。ということですね?」



 フィムちゃんがブンブンと首を縦に振り、ランファちゃんの手を両手でがっちりとつかんだ。



「星の瞬き、私が知る中で最も多くの星を統べる七つ星、それに聖剣、私の名前――」



 僕がルナちゃんに説明を求めるような目を向けると、彼女がこそっと耳打ちしてきた。



「極星はどれだけの星を操れるかという基準を設けています。ミルドで5つ星、現極星で最も多くてスピカさんの3つ星、マルエッダも3つ星でしたね。あとは1つか2つ。でもランファさんは現極星の倍近くの星を瞬かせたのです」



「それって大分すごいのでは? それじゃあ僕が極星になっていたら星を操れていたのかな?」



「どうでしょう? 極星について、わたくしよりはフィリアムの方が詳しいですから」



 するとテッドちゃんが首を横に振り、どこか引き攣った笑みを溢していた。



「いやリョカさん、多分貴方の素質は星で数えられないです」



「え、どうして?」



「だって落としていたじゃありませんか。しかもあれだけの数を操って落としていた(・・・・・・・・・)じゃないですか」



「あ~」



「そう言えばあれも星でしたね」



 僕のなんちゃってメテオスウォーム、ゲームで見たままのことをやってみたけれど、女神様的にはあれはヤバい攻撃だったらしい。



「ランファ、そんなにすごいのね。やっぱ私ももうちょっと頑張るべきよね。弱い聖女のままではいられないし」



「スピカは立派だよ」



「そうですよ、あの末っ子女神の面倒を見ていますし、聖女としても他の参考になれるくらい素晴らしい在り方です」



「ありがとう。でも今回のことで、もっと強くならなきゃいけないって再認識したわ。ミーシャにも言われたけれど、私たちにもっと戦う力があったのならエクリプスエイドは再発しなかった」



「スピカさん、それはあたしが」



「ううん、今回はテッド様の体を乗っ取られて起きたことだけれど、きっとこの先、こういう手段を用いずともグエングリッターに脅威がきっと来るのよ。だから前と同じように、ただ平和を維持するだけではいけない」



 僕はスピカの頭を撫でてやる。

 本当に賢い子だし、グエングリッターを一番に考えている聖女様だ。

 これだけの思想を持っているのなら、強くなれるのもあっという間だろう。



「あたしも、精一杯協力します」



「ありがとうテッド様」



 ルナちゃんがテッドちゃんを慈しむような目で見ている。

 きっと心配していたのだろう。今の状況に慣れるか、力のなくなった女神様が新たな目的を持ってくれるか。



 僕はルナちゃんの頭を撫でると、手を伸ばして来て抱っこのおねだりポーズ、僕は彼女を抱えると、ランファちゃんに目を向ける。



「……状況は理解しましたわ。わたくしが極星候補、ですか」



 ランファちゃんが思案顔を浮かべている。

 突然のことだし、すぐに結論は出ないだろう。



 まあそれを星神様が許してくれるかはわからないけれど。



「イヤですか?」



「いえ、とても光栄なことです」



「なら――」



「ですが今すぐにとはいきませんわ。わたくしは、わたくしたちの恩人の助けもあり、学園に通わせてもらっています。それを途中で投げ出して、極星という大事を名乗るわけにはいきませんわ」



 ミーシャとソフィアのお父さんズだな。

 ランファちゃんも頑固だから、こればかりは最後までやり通すんだろうな。



「む~」



「でも学園を卒業した後なら――」



「えいっ!」



「うぅっ?」



 と、説得大変そうだなと油断している内に、フィムちゃんがランファちゃんに何か……あれ、加護与えられてるな。

 これはもう有無を言わさず極星にされてるね。



「むふ~っ」



 満足げなフィムちゃんに、テッドちゃんが焦り顔で彼女を羽交い締めにした。



「こ、こらフィム、加護の強制は駄目だよ! ランファさんにも考える時間は必要だよ」



「やだ~、ヤっ! ランファちゃんは誰が何と言おうと私の極星なの!」



「い、いや、でも今そんなことをすると――ハッ」



 ああうん、怒っているなぁ。

 僕はチラと抱えている月神様に目をやる。

 顔は陰っていて見えないけれど、物凄い怒気が流れているのはよくわかる。

 それに気が付いたのか、テッドちゃんがフィムちゃんを離し後退し、スピカはランファちゃんの背中をさすりながら頭を抱えていた。



「とりあえずジュウモンジの席にランファちゃんを置くとして――」



「フィリアム」



「リョカお姉さまが13番目の極星で――」



「フィリアム」



「あとは――」



「フィリアム」



「も~うるさいです――」



 僕の腕から降りたルナちゃんがフィムちゃんの肩をガシッとつかんだ。



「ぴぃっ!」



「フィリアム、まさかわたくしたち(めがみ)の我が儘で人の行く末を決定づけるなどという愚かな真似はしないですよね」



「あ、えっと」



「フィリアム、ランファさんは学園は卒業したいと言っているのです」



「あぅ、でもその、早めに手を付けておかないと他のお姉さま方に――」



「フィリアム」



 大分怒ってらっしゃるな。

 僕はランファちゃんに目配せする。

 すると彼女が頷いてくれ、僕は大きく深呼吸をした。



 そしてルナちゃんとフィムちゃんの間に入る。



「はいそこまで」



「リョカさん、今は大事な――」



「わかっていますわかっています。フィムちゃんも無理矢理は駄目ですよ。それは魔王の専売特許です」



 相当怖かったのか、瞳いっぱいに涙をためているフィムちゃんが首に手を回して抱き着いてきた。



「それならこうしましょう。ランファちゃん、学園は当然優先、でもこっちのギルド(・・・・・・・)からの依頼を優先的に受けるっていうのは約束してもらえる?」



「ええ、それくらいなら約束しますわ。でもどこのギルドの、それとやはりここまで来るのに時間がかかってしまいますわ」



「僕は魔王だよ、そんなものどうにでもなる。それで、ランファちゃんばかりに負担をかけるわけにもいかないから、僕はこのグエングリッターでギルドの設立を宣言するよ」



「リョカさん、でもそれは」



「もちろん僕もこっちにずっといるわけじゃない。とりあえず当てがあるからギルドの運営はそっちに任せようと思っている」



 またアルマリアのお父さん探しが遠のいちゃうけれど、お父様に集めてもらった情報では確かにここにいるはずである。

 彼を見つけ出せれば、多分アルマリアのお父さんのことをなにかわかるかもしれない。



「フィムちゃん、ランファちゃんが自分で決めるまで、もう少し待っていてあげてくれない? その代わり、僕が出来ることはするからさ」



「……うん」



「よしよし良い子だ。ルナちゃんもせっかくの可愛い顔が台無しだよ? フィムちゃんも軽い気持ちでやったわけじゃないんだから、ね?」



「む~……わかりました。でもフィリアム、これ以上は言いませんけれど最後に1つ――どんな理由であれ、わたくしたちが人に与えるのは加護とギフトだけです。生き方や在り方を押し付けてはいけません。わかりましたか?」



「あぃ……」



「もぅっ」



 シュンとしたフィムちゃんを撫でながら、両手を腰に当てているルナちゃんの頭も撫でる。

 するとスピカが何か決意を固めたように拳を握って僕に目を向けてきた。



「よし、それなら私はもう少しだけ頑張るわよ」



「スピカ?」



「まだ極星たちはこの街に滞在していますよね?」



「う、うん、でもどうしたのスピリカ?」



「リョカとランファが動きやすくなるようにします。フィリアム様、もう一度極星たちを円卓に呼んでもらえませんか?」



「わ、わかったぁ」



「それじゃあみんなも行きましょう」



 僕とランファちゃんは顔を見合わせ、やる気満々なスピカに促されるまま足を進めていくのだった。




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