魔王ちゃんと重役会議
「だから! ジュウモンジは極星の任から外すべだろう! いくら魔王に唆されていたとはいえ、奴はあの惨劇をもう一度起こそうとしていたんだ、許されることではない!」
「それに関しては星神様が結論付けた。俺たちがこれ以上議論する必要はないだろう」
ヴェインと先ほど僕に殺気を向けてきたキョウカさんという極星の1人がデッドヒートしている。
内容はジュウモンジに関してのようで、ヴェインは現状維持、キョウカさんはあの男を外すべきだと話している。
僕は、隣の席のスピカの膝の上で美味しそうにおやつを食べているフィムちゃんに目をやる。
「ふわぁ……やっぱリョカお姉さまのお菓子は美味しいなぁ」
「フィリアム様、お口にクリームついていますよ」
スピカがフィムちゃんの口を拭い、この空間だけほのぼのと化しており、僕は苦笑いを1つ。
いつまでも眺めていたい光景ではあるけれど、ヴェインとキョウカさんの話が平行線で、一向に進まない。
僕としてはリードと商売に関する話をしたいのだけれど、このままでは一切話が進まずに時間だけが経過してしまう。
「ねえフィムちゃん、ジュウモンジは極星についてなんて?」
「ふぇ? ああえっと、力が足りないと判断されたのなら極星も下りるとのことですよ。なんだかすっかり聞き分けのいい人になりました」
「そりゃあミーシャのあんなのを見ればね。それに元々悪人ではないだろうし」
ジュウモンジのことはミーシャとアヤメちゃんから話を聞いた。
彼も彼なりに目指していた信念があった。やり方はどうあれ、この国の住人でもない僕が彼を罰する気にはならない。
僕は手を叩き、言い争っているヴェインとキョウカさんから視線を集めた。
「はいはい、君たち時間かけ過ぎだからいったん落ち着こうか。星神様が言ったように、ジュウモンジは極星を降りても良いと話している。なら現状としてはジュウモンジを極星に添えつつ、次の極星の育成に力を割くべきじゃない? 極星というのはこの国にとってとても重要な役割を持つ、そんなポンポン与えて良い役職じゃないでしょ? でもその間席が1つ空くのはよろしくない。その間だけでもジュウモンジに極星でいてもらう方が良いと思うけれど、どうかな?」
僕の提案に、ヴェインもキョウカさんも頷いた。
「ちなみに、現状最も極星に近い力を持っている人はいますか?」
「え~っと、ウルミラと――」
「おっ」
ヴェインが嬉しそうに反応したけれど、キョウカさんが勢いよく手を上げた。
「星神様、私たち、『秩序を守る星の瞬き』にも優秀な者はいます!」
「う~んでも、さっきある勇者がウルミラに対してヴェインより強いと宣言しましたし」
「は?」
喜んでいたのも束の間、ヴェインの表情が固まった。
ある勇者とは誰だろうかとミーシャにくっ付いているアガートラームを通して周囲の状況を窺うと、懐かしいというか、忘れたくても忘れられないような気配がする。
「ガイル?」
「え、あいつ今来てるのか?」
「みたいだよ。ミーシャたちとこっち戻ってきてる」
「ガイルって、金色炎の勇者、ガイル=グレック様?」
「そうそう。あのおっさん、早速ウルミラに目を付けたか」
僕が苦笑いを浮かべていると、ヴェインが頭を抱えていた。
「え、待って。ウルミラ今そんなに強いのか?」
「ミーシャにあちこち連れ回されてるからねぇ」
冷や汗を流し始めたヴェインに、キョウカさんが鼻を鳴らした。
「ヴェイン、あんたが極星を降りたらどうだ? お前より強い奴がいるのならそうすべきだろう」
「俺より強いということはお前より圧倒的に強いってことなんだが?」
「あッ?」
せっかく纏まったのに、また喧嘩になりそうな雰囲気。
僕はため息を吐くと、とりあえずこちらの話を進めておこうとリードに目を向ける。
「リード、僕からはジブリッド……サンディリーデとの交易を提案したいんだけれど」
「ああうん、それじゃあ任せるよ」
「……いや、もっと交渉とか」
「俺が旦那様やリョカちゃんに敵うわけないだろ。話を長引かせてボロを出すより、信頼している2人に任せた方が良いからな。だが、こっちからの提案は2点――良識と可愛い弟子価格ってところかな」
「……」
「うわ、リョカが今まで見たことないような苦々しい顔しているわ」
スピカの指摘通り、僕は苦虫を奥歯で噛み潰したような顔をしている。
そりゃあ滞りなく商売できるに越したことはないけれど、こうまで投げっぱなしだと癪である。
「……商会ギルドでも作るか」
「すみませんごめんなさい! うちが潰れちまいます!」
「リードさぁ、別に僕はスピカとフィムちゃんが喜ぶからジブリッドの商品をグエングリッターに卸すことはやぶさかではないのよ。でもね、うちの商品って本当に自国以外じゃ珍しいものばかりなの。それを唯一卸そうとしているリードがそんなのだと、ジブリッドの商品で何かあった時、こっちは輸出禁止なんて提案をしなければならなくなるかもしれないんだよ?」
僕の話に、フィムちゃんがスピカの膝から飛び出して行き、、リードの背後で彼を圧のある視線で見始めた。
「……あ、はい、すみません」
「星神様のためにも、リードたち――『星呼びの道具屋』には自覚と責任を持って商売してほしいんだけれど」
「はい、おっしゃる通りです」
僕は紙姫守を使って纏めておいた書類をリードに飛ばし、中を確認するように言う。
「そこには卸す商品やその扱い、品物の消費期限やら料金やら書かれているからギルドの人と相談して、値段交渉するなり、技術提供してほしい個所などを次に会う時までに纏めておいて」
「はい、そのようにさせていただきますリョカお嬢様」
「昔の口調に戻ってるぞ。極星なんだからしっかりしなさい」
ぷるぷると震えながら返事をするリードに僕は肩を竦ませる。
「なんか、ごめんねリョカ」
「いや、うん……フィムちゃんはもっと極星に厳しくした方がいいよ」
スピカの謝罪に、僕は苦笑いを浮かべることしか出来なかった。
そして僕は伸びをして薬巻に火を点すと、円卓の間の扉が叩かれ、スピカがどうぞと声を上げた。
するとアストラルセイレーンの聖女の1人が入ってきて、僕に目をやった。
何か用だろうかと思案すると、ルナちゃんがクスクスと笑っており、僕は首を傾げて魔王オーラの探知を広げる。
「お――」
「リョカ様、街の入り口にリョカさんのご友人を名乗る方が来ておりまして」
「ああうん、友だちだね。ガイルが連れてきたのかな? でも珍しい人選……」
僕はハッとなりフィムちゃんに目をやる。
「フィムちゃん、もしかして?」
「みゅ? ああはい、もう1人の極星候補です」
極星たちがどよめきだした。
このタイミングでこの末っ子は何を言いだすのだろうか。
僕は頭を抱えると、手を叩く。
「はい、それじゃあもう議論することはないよね? 星神様、締めてくださいな」
「は~い。あ、リョカお姉さま、後でお菓子を――」
「お客さんをお迎えするので、その時用のお菓子をたっぷり用意しておきますよ」
フィムちゃんがシイタケ眼で頷いた。
そして彼女がダンブリングアヴァロンの閉会を宣言し、僕はルナちゃんと、スピカ、フィムちゃんテッドちゃんを連れてやって来てくれた勇者2人に会いに行くのだった。




