聖女ちゃんと金色の再会
「ランガ悪いわね、付き合わせてしまって」
「いえいえ、ボスもダンブリングアヴァロンに出てしまっていますし、私としてもミーシャ様に色々学ばせてもらいたいですからね」
「あたしから学べるかはわからないけれど、そういうのはロイの方が得意よ」
今ランガが言った通り、ダンブリングアヴァロンが開催され、リョカとルナもスピカもそこに出ている。
時間を持て余しているあたしは、アヤメとウルミラ、ポアルンを連れて依頼に出ようと思っていたところ、ランガが同行してくれると言い、そして軽く修羅場っていたロイを引き連れて街の外まで出てきた。
「ミーシャさん、その……」
「異性に好意を寄せられるというのもそれなりに大変なのね、あたしはそう言うのは良いわ面倒」
「安心しろ、誰が好き好んで顔面狙ってくる聖女と好い仲になりたいなんて思うのよ。お前にそんな悩みは今後一切ないわ」
「え~ミーシャ様素敵ではありませんかぁ」
「特定の奴にはえらくモテるが、偏りが凄いわね」
ポアルンの言葉にアヤメが呆れたように肩を竦ませた。
まあその手の話はあたしには縁遠いし、特に興味もないからこのまま流そうと決め、改めてロイに目をやる。
「アルマリアとエレノーラ、マルエッダを置いてきたけれど良かったのかしら?」
「私が近くにいるよりはマシでしょう」
「ランファを連れてきたら面白いことになるわね」
「ロイさん、まだいるんですか……」
「ウルミラ、言い訳するつもりもないですけれど、私が今までもこれからも愛しているのは妻のアンジェだけです」
頭を抱えるロイにあたしは鼻を鳴らして笑う。
「まあエレノーラとアルマリアに関しては、ただの娘だものね」
「いつのまにか2児の父になっていましたか」
「愛娘2人の猛烈防御ですね」
「あたしたち、アルマリアの父親を捜しに来たはずなのだけれどね。もうロイで良いじゃない、仕事手伝ってあげなさいよ」
「手伝ってもいいのであれば手伝いますけれど……アルマリアは一度父親と話すべきでしょう。あの子が認められたいのは私ではなく、彼女の本当の父親なのですから」
薄く笑うロイにあたしは首を傾げる。
この辺りの心はあたしにはよくわからない。父親でもないし、誰かの親でもない。きっとロイでなければ見えないものがあるのだろう。
「本当にお前は良い奴に戻ったな。最近では女神間でもパパ魔王って呼ばれてるぜ。ラムダが全却下しているけれどな」
「どのように呼ばれても構わないのですが、やはりラムダ様の目に叶う名こそが相応しいでしょう」
「お前は良い信徒だな。ラムダが羨ましいよ」
「アヤメ様こそ、良い信徒がいつも一緒にいてくれているではないですか。少なくとも、私はあなたの信徒に救われていますよ」
「え~、だってこの信徒口より先に手が出る系信徒だぜ? お前自分の娘として考えてみろよ、アルマリアとエレノーラが何も言わずに殴ってきたら嫌だろう?」
そう言ってアヤメがあたしの腰を叩いてきた。
あたしはすぐに拳を握り、神獣の脳天に拳を落とす。
「ふんっ」
「あぁぁっぶったぁ! 何でお前はいつもいつも俺の頭にげんこつ落とすのよ!」
頬を膨らませてロイの腰にピトとくっ付いたアヤメ、本当にどんどん幼くなっているような気がする。
ルナ曰く、飼い主に甘え始めているだけとのことだった。
あたしは飼い主になった記憶はない。
「いつ見てもミーシャさんとアヤメさんの関係は真似出来ないほどすごいですよね」
「フィムもたまには引っ叩いてあげなさい」
「わかりました!」
「ポアルン様、スピカさんに怒られますよ!」
ウルミラがポアルンを羽交い締めにしているのを横目に、あたしの意識は街道脇に向けられている。
さっきから何かがあたしたちを見ている。
強い気配だ、これはもしや――。
「――ッ!」
ウルミラが反応した。
本当にこの子は強くなった。けれどここは少し引いてもらおう。
「ウルミラ、ここはあたしにやらせなさい」
「ミーシャさん、これは」
ウルミラとランガがポアルンを連れて数歩下がったのを確認し、ロイの言葉に耳を傾けたけれど、きっとこれは。
「魔王種でしょう?」
「ええ、それと――」
ロイが何か言いたげにしていたけれど、魔王種と呼ばれている魔物が飛び掛かってきたために、その言葉は遮られた。
あたしは信仰を腕に込め、黒い力に変えると、それを腕に押し付けて真っ黒になった腕に目を落とす。
「それ、ジュウモンジにも使っていたものですわね」
「あれより信仰が少ないけれどな。ほれ、バチバチしてないだろう? 純粋に信仰を攻撃の力に変えただけだが……お前もう武器いらずだな」
ガルガンチュアとリーブアルゴノーツを使用して信仰を固めて腕に纏わりつかせただけのもので、獣王より消費は少ないけれど、常に信仰を纏わなければならず、それなりの消費はするけれど、一撃は重い物となっている。
あたしはこれの威力がどれほどかの確認をしようと、魔王種に近づいて行く。
けれどふと、この魔物とは違う脅威が飛び出してきたことに気が付いた。
「――ッ、全員頭を伏せなさい! ガルガンチュア!」
空気を重くし、アヤメとウルミラ、ポアルンとランガを地面に押し付けた。ロイは自分で距離をとっていたけれど、その表情が苦笑いで、あたしは首を傾げる。
「っつ!」
何者かの攻撃があたしに伸びてきて、それを拳で防ぐのだけれど、あたしの拳とその巨大な手甲が火花を散らし、金色の炎を噴き出した。
「これは――」
「おーミーシャ、相変わらずとんでもねぇ火力してんなお前!」
「ガイル」
「そいつはやっつけちゃっていいのか」
「あたしの得物よ! 取りたいのならあたしを退かしてみなさい!」
「はっ、相変わらず可愛げのねぇ生徒だな! ファイナリティヴォルカント!」
そこにいたのは、金色炎の勇者・ガイル=グレック。
あたしはガイルの拳を弾くと、すぐに駆け出して魔王種へと拳を叩きつけようとする。
「させっかよ! 『威光を示す頑強な盾・祝福された金剛の書』」
ガイルの盾……のはずなのだけれど、あたしの進行を防ぐように生成され、その壁を殴って壊す。
けれどそれで一瞬の隙が生まれてしまい、ガイルの方が早く魔王種へと拳を届かせた。
「とった――」
「『絶慈――命芽吹く楽園の豊穣』」
「いっ!」
腕を振ったロイの絶慈が大地から生え、魔王種を貫いた。
「おっと失礼、隙だらけだったもので」
「てめぇロイ、相変わらずいい度胸してんじゃねぇか」
2人が好戦的に嗤い合っている横で、あたしは頬を膨らませる。
こいつら、あたしの得物かっぱらっていきやがったわね。
「お~いミーシャ、拗ねるのは構わないけれど、ウルミラとポアルンに説明してやれ、ポカンとしているわよ」
アヤメの提案で、あたしは拳を下ろすと、ため息を吐く。
そしてあたしはウルミラとポアルンに、この戦闘狂勇者の紹介を始めるのだった。




