魔王ちゃんと星々の集い
「う~ん……」
僕は今、頭を悩ませていた。
星神様と大地神様を巻き込んだ第2のエクリプスエイドが起きてから2週間、僕たちはミーティアにあるアストラルセイレーン本拠地でお世話になっていた。
とはいえ、いつまでもごく潰しでいるわけにもいかず、臨時であるけれど僕とミーシャ、アルマリア、ロイさんエレノーラの計5名はブリンガーナイトに籍を置かせてもらい、依頼を受ける日々を送っていた。
スピカからはこの国の恩人を働かせるわけには。と、僕たちの提案に苦言を呈していたけれど、戦いに身を置かなくなったミーシャが暴れて僕が止めることになると思う。と話したところ彼女がすぐにヴェインに頼み、ブリンガーナイトの依頼を受けることで決着がついた。
その時にフィムちゃんが僕にギルドを作ることを勧めてきたけれど、ルナちゃんに睨まれてしまい、いつもの小鳥のような鳴き声でその提案を下げていた。
そして現状僕が何を悩んでいるのかと言うと……。
「では、やっと落ち着いてきましたのでこれからのこと、あと新たな極星と……私のお友だちの紹介のため『13の円卓を囲む極星』を開催したいと思います」
アストラルセイレーン本拠地にある円卓にて、僕は13番目の席に着いているなう。
スピカとヴェインは当然いるけれど、ジュウモンジは来ておらず、あと見知った顔は……爽やかな顔で僕に目を向けてくるリーデッヒ=カロナ、リードくらいだろうか。
あとはまったく知らない。
悩み事はこれだ。
ダンブリングアヴァロンを開くから僕にも出てほしいとスピカとフィムちゃんに頼まれた。
確かに13番目の席はもらったけれど、極星を名乗るには信用が足りないのではないだろうか。
と、僕が思案していると僕の膝に乗っているルナちゃんが圧を込めてフィムちゃんに視線をやった。
「フィリア~ム、リョカさんは13番目の席に座っていますけれど、あなたの極星ではないですよ~」
「ルナお姉さまのケチ!」
「フィム、ルナ様になんてことを」
ルナちゃんや僕のことはある程度話が行っているのか、月神様から星神様への突然の意見も、周囲の極星たちは特に慌てている様子はない。
となると、僕がやるべきは黙っていることではないな。
僕はフィムちゃんと可愛らしく睨みあっているルナちゃんを抱き上げて横に下ろすと、その場で立ち上がり、全員に見えるようにカーテシー、そして笑みを向けて口を開く。
「月神様と星神様から紹介いただきました、私の名はリョカ=ジブリッド、ギフトは――魔王です。極星、と名乗って良いかは未だに悩んでいますが、13番目の席に座っていた魂壊の魔王・ミルド=エルバーズを討伐し、暫定的ではありますが、この席に座らせてもらっています。どうかよろしくお願いします」
下げた頭を上げるとスピカと目が合い、どうにも彼女がジト目で僕を見ている。
僕だって多少の社交性は持っているし、TPOくらい弁えるのですよ。
しかしふと、どこからか殺気を覚える。
正面に座っている女性、彼女の手が机の陰から上がってくるのが見えた。
「魔王ね、実際どのくらい強いのか――」
彼女の頬付近に素晴らしき魔王オーラを投げ、どこまでも可愛く見えるような笑顔を見せる。
「……」
「キョウカ、止めておけ。お前じゃ……いや、ここにいる極星が束になっても勝てないぞ」
ヴェインが肩を竦めて言うから、僕は上品に笑って見せて口を開く。
「まぁヴェインさんったら、まるで私が極星相手にも勝てると驕っている愚か者みたいに言うのですね」
「今の一瞬で現闇幾つ設置した? それが驕りではないのならこの闇の数は確信だろう?」
「100個ほど」
変わらず笑みを浮かべたまま、僕は指を鳴らす。
するとあちこちに設置した現闇が姿を現し、円卓が殺傷能力のあるあらゆるの形に囲まれた。
ヴェインが引き攣った笑いで額から脂汗を流しており、スピカ、ついでにリード以外の極星たちが驚きに顔を青ざめた。
「スピリカはよく平気な顔をしていられるな」
「リョカが私を傷つけるわけないじゃない」
まあその通りである。
スピカの周辺には現闇は一切設置していない。
「私的にはリーデッヒがまったく焦っていないのが癪ね」
「リョカちゃんのことは良く知っているからね、それに焦っていないわけじゃないよ。現にリョカちゃん、俺のケツに思い切り刺しているからね」
「あらリーデッヒ=カロナ様、相変らず女性のお尻ばかり追いかけているのですわよね? たまには背後から刺される感覚を味わってもらおうかと」
「ははは、リョカちゃんは相変わらず俺に厳しいなぁ」
「幼少のわたくしが街で可愛い子を見ていた時に、あなたが言った、リョカちゃんの目は頼りになる、リョカちゃんが認めた相手を口説くと本当に可愛いんだよって言ったこと忘れていませんからね」
「うわ……」
「ちょ、ちょっとスピリカ、その反応はちょっと傷つく」
「リーデッヒ……」
「ヴェインは同類だろう!」
「一緒にするな!」
「あなたリョカの胸を揉んだ挙句唇まで奪ったでしょう」
「おいおいヴェイン、リョカちゃんに手を出すのはヤベェって」
スピカとヴェイン、リードが騒ぎ出したことでダンブリングアヴァロンに混沌が忍び寄っている。
僕は圧を込めて手を叩くと、全員が口を閉ざした。
「ほい、お試しリョカちゃんは終了、ここからは被り物を取っ払ったアイドルなリョカちゃんで進行するよ。フィムちゃん、紹介は僕だけじゃないですよね?」
フィムちゃんにウインクを投げると、嬉しそうに頷き、円卓の中心でフィムちゃんの背中に隠れているテッドちゃんを前に出した。
「あ、えっと、フィムの……星神様の――」
「それヤ」
「……フィムの友だちの女神で、大地を……いや、今はもうただの女神のテッドです」
緊張と罪悪感からか、テッドちゃんがしどろもどろ。
僕が苦笑いを浮かべると、彼女が頭を下げた。
「10年前と、今回のエクリプスエイドの発端は――」
「皆さんも知っての通り、前と今回のエクリプスエイドを起こしたのは魂壊の魔王・ミルド=エルバーズ、彼は卑怯にも星神様のフィリアム様を人質に取り、大地の女神様であるテッド様から力を奪い、あの惨劇を引き起こした」
「え?」
「けれどこのテッド様は、最後までフィリアム様を救おうとずっと戦ってきた。そして月神様と神獣様、それと豊神様に協力を仰ぎ、見事魂壊の魔王を討ち倒すことに成功したのだけれど、この真面目な大地神様は自分の力が使われたことをひどく悔やんでおり、自ら星神様の元このグエングリッターの繁栄と発展に協力してくれると声を上げてくださったのです」
僕はルナちゃん――月神様に祈る時のような空気感で信仰を表に出し、清楚で、信心深い無力な人を演じながら涙目で極星たちを見渡した。
すると、そこまでの事情を知らない極星たちが何と素晴らしき女神様だと、テッドちゃんを称賛し始めた。
「え、え?」
「さすがリョカお姉さま」
「本当良く回る口ね」
「……というか早速乗っ取られているような」
フィムちゃんとテッドちゃんに微笑みを向け、僕は指を鳴らす。
ここに来る前に事前に用意していた茶と菓子をアルマリアくまのトイボックスに入れ、それをグリッドジャンプで円卓に並べた。
「それでは自己紹介も終わったことですし、本題に進みましょうか」
どこか納得していなかった極星たちも、この空気と勢いに頷き、僕の進行でダンブリングアヴァロンが開催されるのだった。




