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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
19章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、星を想い巨人に臨む

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魔王ちゃんと決着、星の巡り合わせ

「う~ん……よく寝た」



 僕は大きく伸びをして辺りを見渡す。

 ここはミーティアの……ああそうだ、アストラルセイレーンの本部に戻ってきて、そのまま寝てしまったんだった。



 あの絶界は大分体に来るな。せめて帰るまではと意識を繋いでいたけれど、戻ってきて即ベッドインだったから、あの後どうなったのか僕は知らない。



「おはようございます」



「ん~? ああおはようルナちゃん、今何時ですか?」



「戦いが終わってからどれほどの時間が経ったかという問いにつなげたいのなら、答えは3日後のお昼時です」



「うげ、3日も寝てたのか僕」



「毎時間誰かしらがお見舞いに来てくれていましたよ。スピカさんなんかはずっと」



「随分と懐かれているなぁ。まあ悪い気はしないね」



 僕がクスクス声を漏らすと、扉からそのスピカが入ってきて少し驚いたような顔を浮かべたかと思うと、早足で近づいてきた。



「リョカ――」



「おっと」



 飛びついてきたスピカを撫で、僕は困り顔を浮かべる。



「随分と熱烈なおはようだ。そんなにくっ付かれると身動き取れなくなっちゃうよ」



「……寝坊しているリョカが悪いのよ」



「そりゃあそうだ。心配かけてごめんね」



 スピカがギュッと暫く引っ付いてきたけれど、少ししたら深呼吸をした後離れてはにかんだ。



「おはよっ」



「うんおはよう――ん?」



 扉から半身を出して、フィムちゃんがこちらを見ていた。

 するとそのフィムちゃんの襟を掴み、ミーシャとアヤメちゃん、ウルミラが一緒に入ってきた。



「あら起きたのね、調子はどう?」



「すこぶるいいよ。いい加減体を少し動かしたいくらいかな」



「そっ」



「と言うかリョカお前、ルナに聞いたが世界を創り上げたって本当か?」



「世界と言うか、世界に必要なものを用意して世界そのものを模倣しただけだよ。偽物には変わりないし、使ったら使ったでこの様だよ」



「敵の攻撃より自分のスキルで消費するってお前らしいと言えばお前らしいけれど」



「ミルドあんまり強くなかったですよ」



「んなわけあるか」



「相性がとことん悪かったですね。リョカさん、わたくしの加護の影響で魂に関する攻撃に特攻が乗っていますし、ミルドの攻撃もほとんど効いていなかったはずです。驚くべきはわたくしの加護がそれほどの脅威になるほどの信仰ですかね。わたくしの信徒すごいです」



「何自慢してんだお前は」



「だって放っておくとフィリアムがとろうとしてきそうでしたので」



 スッと目を逸らすフィムちゃんにルナちゃんがどんどん笑顔を近づけていた。



「末っ子イジメんなよ」



「む~」



 アヤメちゃんに引っ張られ、渋々とルナちゃんが離れていた。

 僕は女神様の戯れに癒されていると、ふと思い出してウルミラを見た。



「ああそうだウルミラ、クオンさんが君に興味を持っていたよ」



「クオンさん?」



 首を傾げるウルミラに、ミーシャがペンダントを竜のモチーフに変えて信仰を見せる。



「竜神よ。あんたの次のギフト、クオンから貰えるかもね」



「ふわぁっ?」



「良かったじゃないウルミラ、あなた剣に水龍なんて名付けるほどだったんだし、竜神様に気に入られるなんて願ってもないことでしょう」



「え、ええ、でも私なんてまだまだですし」



「クオンさんが、だから鍛えてあげてってさ」



 ウルミラが嬉しそうに顔を綻ばせた。

 するとフィムちゃんが小さく頬を膨らませた。



「むぅ、クオン姉さま、ウルミラは極星候補なのに持って行かれると困っちゃうです」



「まあ良いじゃねぇか。ヴェインだってアリシアの信徒じゃない」



「あーちゃんは良いんです。でもクオン姉さま、まだまだ私のこと子ども扱いしますし」



「逆にしてない女神はアリシアとテッドだけだぞ」



「私が子どもならアヤメお姉さまも子どもっぽいじゃないですかぁ」



「よ~し喧嘩ね? 喧嘩売ってるのねフィム」



 アヤメちゃんがフィムちゃんの頬を引っ張っていると、横からルナちゃんが出てきて、星神様を撫でながらウルミラに目を向けた。



「クオンの与えるギフト、ですか。そこそこに癖が強いですけれど、ウルミラさんなら大丈夫ですね」



「使いにくいんですか?」



「使い辛いというより、ほらあの子ってどちらかというとミーシャさんやガイルさんみたいな思考しているじゃないですか? だからギフトもその」



「戦闘特化なのよ。扱い辛いっつうか、怪我するのが前提と言うか」



 ルナちゃんとアヤメちゃんがウルミラから目を逸らした。



「そうなんです! ウルミラに何かあったらクオン姉さまどうするつもりなのでしょうか」



 ぷくぷくと膨れるフィムちゃんを撫で、僕はもう一度扉の方に目を向ける。

 そこにはテッドちゃんと彼女の背中を押すラムダ様がおり、その後ろからアルマリアとロイさん、エレノーラがやってきた。



「あ、リョカさん起きたんですね~」



「アルマリア、おはよう。大活躍だったそうだね」



「これでもギルドマスターですから」



 近づいてきたアルマリアを撫でながら、ふとロイさんの姿がクマに戻っており、戻ってきた時は確かに人型だったはずなのだけれど。



「ああ、この姿ですか」



 苦笑いっぽい雰囲気のロイさんだったけれど、エレノーラとラムダ様が呆れたように肩を竦ませている。



「お父様、あの姿のままだと人垣ができるんですよ~」



「しかも女の子だけ」



「どうにも、私が街を救ったと勘違いをしているみたいで、たくさんの人に声を掛けられるようになったんですよ」



「いやいや、実際にアルマリアとロイさんが街を救ったようなものでしょう?」



「私はただ、振るえる力を振るっただけですよ。それに頑張ったのはアルマリアとヴェイン君とマルエッダ嬢、そして戦うことを決めた街の聖女とブリンガーナイトのみなさんですよ」



「……なるほどこういうところか」



「お父様がみんなに頼りにされるのは嬉しいですけれど、まだ新しいお母さんとかは求めていないです」



「えっとエレノーラ、うちのところの聖女と……マルエッダ様がごめんなさい」



 マルエッダさん、大分ロイさんに首ったけだなぁ。

 僕が苦笑いを浮かべていると、アヤメちゃんがラムダ様に絡んでいた。



「というかラムダさ、お前テッドの仕事を引き継ぐのにこんなところで悠長にしていていいのかよ?」



「テッドが産まれる前はあたしの管轄だったし、別に急いでやるようなこともないからのんびりやっていくよ」



「お、それなら……ミーシャ、俺にフォーチェンギフトだ! 精霊の部分だけ取り出しなさい」



「は? そこだけとか難しいんだけれど」



「良いからやれって。これでやっと仕事から解放されるわ」



 この獣女神様は何を言っているのだろうか。僕が呆れると、ルナちゃんが神獣様の頭をはたいた。



「ただでさえそんなに仕事をしていないんですから、それくらいはやってください」



「うるせぇ! リョカのぬいぐるみが仕事を代わっているお前には言われたくないわよ! 俺も無職になりたい! ダラダラしたい!」



「……あなたただでさえ精霊に仕事を任せているのに、これ以上何をサボると言うのですか」



「精霊に任せる?」



「ええ、アヤメは獣ですからね、獣と言うのは上下を作ります。その特性なのか、精霊にある程度の権限を与えて、この子は投げっぱなしにしているんですよ」



「どうりで精霊の力が上手く回っていないと思ったよ。アヤメ、君はあたしとクオンに並んで古い女神なんだからもうちょっと威厳をだね」



 ん? アヤメちゃんが古い女神? あれで?

 僕は疑いの目をアヤメちゃんに向けると、彼女が勝気な顔で胸を張った。



「まあ可愛いからいいか」



「リョカさん、アヤメを甘やかしちゃ駄目ですよ」



「獣は甘やかされてこそ真価を発揮するのよ。じゃあもうテッドでいいや、ほれ、俺の精霊の力を持って行きなさいな」



「えっとアヤメ様、多分あたしじゃ上手く出来ないです」



「俺だってうまく出来ていないわよ」



「胸張って言わないでくださいよ」



 ルナちゃんが頭を抱えており、僕は彼女を抱き上げてベットに乗せると、テッドちゃんに目を向ける。



「テッドちゃんは変わりない? 無理矢理に力を奪ったから何か変なところがあったら言ってほしいです」



「いえ、特に変わりはありません。けれど……」



 テッドちゃんが自分の手に目を落としていた。



「魔物を操る力だけでなく、女神特権ももう使えないみたいです」



「ごめんね、あそこでテルネちゃんを納得させるにはそれしか方法がなくて」



 テッドちゃんが首を横に振った。



「銀色の魔王……月を創る銀の魔王様、あたしはあなたに本当に感謝しています。あたしに、またフィムの隣にいさせてくれた。女神としての力は振るえなくなってしまったけれど、これからはこのグエングリッターへ償いをするために在ろうと思います」



 頭を下げるテッドちゃん、僕はそれをしっかりと受け止め、手を伸ばして彼女を撫でる。



「星も作りましたよ!」



「フィリア~ム?」



「ぴぃっ」



 戦いの後と言うのはこれくらい穏やかな方が良い。

 星をめぐる今回の騒動、僕たちはただ巻き込まれただけだったけれど、こうしてここに来たのもその星の導きがあってこそなのかもしれない。



 星は運命を司る。

 私の世界の星は少なくともそんな意味合いも含んでいた。



 これが今回の星の巡り合わせだったのだろう。

 運命なんて。とも思いたいけれど、こんな風に可愛い子が笑っていられる未来を指し示していたのなら、僕はいくらでも運命に乗ろうと思う。



「リョカさん?」



「……お腹空いちゃった。僕もそろそろ起き上がらないとね」



 僕は起き上がってみんなを見渡し、1人1人に視線をやる。

 ミーシャではないけれど、今回も平和をつかみ取った。やっぱり可愛いというのはこういう時にこそ生まれるものだ。

 僕は今この光景に安堵の息を漏らし、みんなを連れて食事の用意をしようと部屋から出て行くのだった。

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