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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
19章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、星を想い巨人に臨む

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魔王ちゃんと銀星の魔女

「ルナ様、これは――」



「限定的局所的世界の生成、延々と続く夜に、大教会を使用せずとも神域へと踏み込んでいる」



「ふわぁ、リョカお姉さますご~い」



「フィム、これ凄いで済む話じゃないよ。人としての枠組みを取っ払っているよ」



 ルナちゃんたち女神-ズの話を耳に入れながら、僕は目の前のミルド=エルバーズを睨みつける。



 エクストラコマンドの影響によって僕の衣装は一新されている。ルナちゃんたちがやっている女神特権を参考にしたもので、この固有けっか(・・・・・)――ではなく、月と星と大地のある世界の中でだけ使用できる、所謂理不尽を煮詰めたようなスキルだ。



 そして新しい衣装は、私が最後に見たアンリたんの衣装。

 何かのアニメのコスプレだったのか、今回僕が着ていた魔女っ子のような格好をさらに豪華にしたようなもので、とんがり帽子にドレスのような白のローブ、薬草ではなく金を煮込んでいるかのような絢爛な見た目。

 見目麗しいのは求めていないけれど、可愛さの中に多少の大人っぽさがある方がギャップに磨きがかかるというもの、所謂本気モード衣装である。



「なんだお前、なんなんだお前は!」



「名乗りが欲しい? ならその耳の穴をかっぽじってよく聞きな。名はリョカ=ジブリッド、身長169cm、体重は林檎5個分、スリーサイズは……セクハラだぞお前」



 ミルドが戦闘態勢に移行し、自身の体に絶気を纏わせた。



「俺の絶気は俺の魂の強さに比例する! 強度も、鋭さも、どの魔王よりも――」



「で?」



 すでに放っていた素晴らしき魔王オーラでミルドの両腕を落とし、徐々に近づいて行く。



「あぁぁぁっ! 腕が! 俺の腕が!」



 ミルドが叫び声を上げながら落ちた腕を拾い上げて、その腕を体にくっ付けた。

 そういえば今奴には肉体はなく、エレノーラと同じ半幽霊だった。



 エレノーラに頼んで彼女の体を調べたから、ある程度作りに関して理解はあるけれど、少し厄介な構造をしている。



 こちらの物理攻撃は効くし、回復も効く。

 当然痛みもあるようだし、肉体がある時とさほど差はない。

 けれど傷の再生を任意で行なえ、尚且つスキル使用のエネルギーが肉体を通っていないからか感度がよく、初速がそれなりに速い。



 あと普通の方法では死なない。

 まあ肉体がないわけだし、死ぬ肉体がないから当然なのだけれど、エレノーラをここに連れて来なくて心底良かった。

 ミルドはエレノーラやロイさんを殺せる手段を持っている。



 だから今ここで絶慈は使えない。

 あれは魂を借りている状態だ、借りたものを傷つけて返すわけにはいかない。



「なあおい、せっかく世界を作ってやったんだ、さっき言っていたみたいに世界の中心に立ってみろよ」



「クソ、クソ――これだけの力を持っていながら、貴様は何故、女神などと」



「可愛いから!」



 ミルドが顔を引きつらせて、額から脂汗を流している。



 こいつの思想はよくわからない。一体何がここまで女神様を恨むに至ったのか、まったく興味はないけれど、きっとそのせいでこんなバカみたいなことをしているのだろう。



「そんな、そんな理由で――」



「あ? お前今可愛いを侮辱したのか? なあ、侮辱したのかおい」



「ふざけるな! 女神如きに縛られる世界などあって良いはずがない! 俺の世界だ! 俺の生き方は俺が決める!」



「勝手に決めていなさいよ。僕はそれを否定するつもりも、貶すつもりもない。ただここでお前は殺す」



「――」



 ミルドが顔を真っ赤にしながら、血管を顔中に浮き上がらせた。

 怒っている。激昂している。だから何だと言うのか。



「もう良い、もうお前は殺す。俺を怒らせたな、魂壊の魔王と言われ、女神すら出し抜く俺の力――魂とは歩んだ軌跡だ、記憶であり記録、その全てを俺の魂は覚えている(・・・・・)。これこそが俺の絶慈……『魂を震わせる程の追憶エルデヴァンノクターン』」



 ミルドの体からプチプチと体が切り離されていく。

 否、魂が次々と分裂している。



 墓場で見る人だまのようなマシュマロのようにふわふわした魂魄が、百、四百、千と次々とミルドから放出され、それぞれが形を形成していく。



 その内の一つがどんどんと大きくなり、ヘカトンケイルの本拠地の塔を壊していく。



 僕はすぐにルナちゃんとフィムちゃん、テッド様の下に駆けて彼女たちを抱き上げると、そのまま外に飛び出した。



「リョカお姉さま! ミルドの絶慈は今まで見たもの、戦ったもの、そのすべてを再現するスキルです! お姉さま1人では――」



 腕の中で心配げな目を向けてくれるフィムちゃんを強く抱きしめる。



「は~かわええ」



「あの、フィムの話を聞いていますか?」



「テッド様も可愛いなぁ。テッドちゃんって呼んでいいですか?」



 呆然としている表情もまた良し。

 すると背中にくっ付いているルナちゃんがにゅっと横から顔を出してきた。



「む~」



「ルナちゃんも最カワですよぉ!」



「きゃぁ!」



 空中でルナちゃんに頬ずりをしていると、塔よりも大きくなった巨大な生物らしき魂の追憶が僕たちを見ていた。



「あれは」



「テッドが大昔に悪ふざけで作った魔物、ヘカトンケイル」



「……フィム、余計なこと言わないで」



「あれ駆逐するの大変でしたよね、当時の勇者と実力者をとにかく集めてみんなで討伐したのも最早懐かしいです」



「ですです! リョカお姉さま、あれは本当に嫌がらせ目的としか思えないほど強い魔物です。だから今は体勢を整えて――」



 そう進言してくれるフィムちゃんを撫で、僕は彼女の目を見る。



「フィムちゃん、先に言っておくね。ごめんなさい」



「ふぇ? どうしましたか?」



「いやぁ、ここまでやるつもりもなかったんだけれど、これが一番都合がいい(・・・・・)と言いますか、既存のものをアレンジする方がずっと簡単なんだよ」



「えっと?」



「ついでにこの状況、このままだと落ちちゃうからね。空中戦を出来るようにしておきました」



 フィムちゃんが首を傾げるけれど、僕は大きく息を吸い、さっきミーシャクマが持ってきたそれ(・・)に触れる。



 ちょっとズルい気もしなくはないけれど、名乗りと名称を変えればきっと許してもらえるはずである。



 僕がそれを発動させようとすると、その大型魔物、ヘカトンケイルの肩に乗っているミルドが大声で叫んでいた。



「こんなもんじゃ終わらないぞ! これこそが最強の極星、星を蝕む俺の力! 『集いし星の魂の極光(アストラルフェイト)終わりを迎える星(アストラルオリジン)』」



 ミルドの極星としての力が発動された。

 それは黒い渦のようなもので、ミルドの周囲に5つほど浮かんでおり、それが地上へと放たれた。



「いけない!」



 フィムちゃんが叫んだ。



 黒い渦の1つが地へと触れると、全てを吸いこむように辺り一帯から命も空気も何もかもを吸いこんでいき、そしてそれを放出するように弾き飛ばして衝撃の爆発が起きた。



 なるほど中性子星、星の終わりを謳うとはフィムちゃんに喧嘩売っているのだろうか。ぶっ殺す。



「リョカお姉さま、あれは危険です。ミルドを討伐した時も、あれで何人もの人や国が……」



 星神様が瞳に涙をためている。

 その時のことを思い出して悲しんでいるのだろう。

 本当にこの子は優しい女神様だ。



「フィムちゃん、13番目(・・・・)、僕が貰うね」



「え?」



「アストラルフェイト――否、『凶兆を告げる魔の星(グリモメテオーラ)星々を駆る必中の魔剣(ダーインスレイブ)』」



 アガートラームカスタムからダーインスレイブを形成し、アストラルフェイト……つまりさっきミーシャクマで奪ったフィムちゃんの加護を使い、在り方を変える。

 僕のギフトの素質を混ぜ込んで、ダーインスレイブを新たな形へと昇華させる。



 僕に剣は似合わない。

 あれは格好良いものだ、僕が求めているのは可愛さ。



 故に僕は今の格好に合う魔剣を生成した。



 ダーインスレイブは巨大魔剣からたった1本の箒へと姿を変えた。

 魔女の姿に箒は必須だ。



 僕はそれに跨ると、そのまま空中をかけていく。



「ハハハッ! その程度で何が出来る!」



「なんでもできるよ、そもそもここは僕の世界だ! 僕中心に物事は動く」



 箒の跨り空を飛ぶ。

 魔女になりたい女児の憧れを僕は今叶えた。



 夜空に煌びやかな軌跡を残す。

 その軌跡は突如空間に大穴を開け、そこから次々と流星を吐き出していく。



 星々はミルドの絶慈から生まれた記憶を貫いて行き、逃げようとする記録にも、障壁を張っている魔物らしき記録にも、一寸の狂いなく命中していく。



「必殺必中! 僕の魔剣を舐めるなよ!」



 空から降り注ぐ幾千もの流星、それはミルドの星の終わりを射抜いて行き、夜空にいくつもの爆発が続いて行く。



「馬鹿な、馬鹿な! 貴様、そんな力などあって良いはずがない! それは最早――」



「女神さますら超えているって? 僕が女神様に逆らうわけないだろうが! だって可愛いもん!」



 箒で高く、高く上がっていき、そのまま箒を掴んで振り回す。

 すると穂先が大きくなっていく。というよりまるで石がまとわりつくように丸く巨大になっていく。



「フィムちゃん!」



「は、はい!」



「また魔王で申し訳ないけれど、その13番目、僕が貰うからね!」



「あ……」



「もう二度とこの星は穢させない! 星神様の13の極星、たった今在るべきその形に――」



 腕に抱いているフィムちゃんが大粒の涙を流しながら、歯を見せてはにかんだ。



 それが見たかった、可愛い子の笑顔が何よりも高尚な報酬だ。



 箒の穂先が空を覆うほど大きな石――星となった。



「あ、あ……」



 ミルドが絶望に顔を青白くした。



「潰れろオラぁ!」



 振り下ろした箒はミルドの絶慈のヘカトンケイルもろとも押し潰されていったのだった。

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