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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
19章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、星を想い巨人に臨む

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聖女ちゃんと血冠魔王の娘ちゃん

「世界を恨まなくなった魔王って言うのは、こうもつええんだな」



「ロイ?」



「ああ、魔王の力を持った魔王種っつう魔物を瞬殺だ。アルマリアもエクストラコード2つ持ちで良い感じだぜ」



 あたしは大地を纏ったジュウモンジの拳を軽く躱しながら、アヤメの話に相槌を打つ。

 捕らえられているスピカが何か言いたげにしており、あたしはそちらを見る。



「ちょっとミーシャ真面目にやりなさいよ!」



「真面目にやっているわよ。リョカもなんかキレているし、ウルミラたちは……大丈夫みたいね」



「中々に良い戦いをしていたわよ。あいつ、クオンが気に入るんじゃねぇか?」



 緩い気配で攻撃を躱していたからか、ジュウモンジが額に青筋を浮かべて力任せに再度攻撃してきた。

 あたしは神獣拳を使用した状態で、彼の拳を受け止めると、そのままはじき返す。



「あんたもうちょっとどうにかならない?」



「……貴様、本当に聖女か?」



「見てわかるでしょ。こんな信仰の闘気を纏えるギフトが他にあるのなら教えてほしいわ」



「聖女は闘気を纏わないわよ!」



「あんたたちがこのくらい出来たのなら、今頃そんなことにはなっていなかったでしょう」



「なるほど。流石ミーシャ様です」



「ちょっとポアルン、あれは参考にしちゃ駄目よ!」



 まあ、ジュウモンジが本調子ではないのも、リョカがフィムを助けに行ったことでスピカが大教会を使用しないと頑なになっているからだろう。

 少し楽しみにしていたのに残念ね。



「……スピリカ、大教会を使え」



「イヤよ。だってもうリョカが来たから、あんたたちにフィリアム様を傷つけさせないわ」



「スピカ、使ってあげればいいじゃない」



「ミーシャあなたどっちの味方よ!」



 あたしは肩を竦ませる。

 するとエレノーラと戦っているガーランドが舌打ちをしながらあたしとジュウモンジの間に割り込んできた。



「ガーランド」



「すみませんボス、あの娘、それなりにやります」




 あたしはエレノーラに目を向けると、小麦を持ったクマのぬいぐるみを抱きながらも、肩で息をしている。



「ちょっとミーシャ、エレノーラが」



「……続ける?」



「は、い、大丈夫、です」



「あなたそんなにボロボロで」



「スピカお姉ちゃん、大丈夫だよ」



 あたしは息を吐くと、ジュウモンジに意識を向ける。



「おや、随分と薄情な聖女がいるものですね。このままでは私は幼子を手にかけなければならなくなります。あなたは彼女を見捨てると?」



 ガーランドが喧しいけれど、あたしは彼を見向きもせずにジュウモンジに飛び掛かる。



「……クソ、銀の魔王一行はどうなっていますか。突然現れたと思ったら極星を軽く超える戦力を繰り出し、挙句の果てにはここまで――」



「ガーランド、口を閉じていろ。もう余計な策を用いずとも、我らはここまで来た。女神の手を借りるなど屈辱以外の何物でもなかったが、やっと報われるのだ」



 ジュウモンジの言葉に、スピカが怒りをあらわにしているけれど、あたしは首を横に振る。



「女神の力? あんたたちまだそんなこと言っているの?」



「なに?」



「あのテッドとかいう女神、中身が違うわよ」



 あたしがあっけらかんと言い放つと、ジュウモンジとガーランド、スピカとポアルンその他聖女たちも驚いた顔をしていた。



「お前知っていたの?」



「女神の気配なんてしなかったでしょうが」



「ちょ、ちょっと待ちなさい。じゃあテッド様は?」



「リョカが助けたわよ。多分テッドの奴があいつが入っていた椅子に核を移していたんだろうな、それに気が付いたリョカがぬいぐるみにテッドを移して、本体からあの魔王を追い出して再度押し込んだ」



「ちょ、魔王? 何の話よ」



「テッドの中にいたのは魂壊の魔王・ミルド=エルバーズ、お前たちも名前なら聞いたことあんだろ?」



 グエングリッダー組は知っているのか、顔を引きつらせている。

 あたしはそのミルドとかいうのを知らないけれど、リョカなら何とかするでしょう。



「というわけよ。あんたたちは女神に踊らされていたわけでもなく、ただ魔王の言いなりになっていただけなのよ」



「馬鹿な! 魂壊の魔王だと? そんなのあり得るわけ――」



「事実そうなんだっつうの。今リョカはミルドとバチバチにやりあってんぜ? まああいつはルナの加護があるから、あいつとも対等に渡り合えるからじきに終んだろ」



 ガーランドが奥歯を噛みしめながら顔を歪めているけれど、ジュウモンジがその手をガーランドの前に出し、顔を上げた。



「それでも構わぬ」



「あ?」



「誰の思惑だろうが、我は進むのみ、この力を示すのみ。スピリカ、二度は言わん、大教会を使え」



 戦闘圧を大きくさせたジュウモンジがあたしを睨みつけてくる。

 ビリビリトする感覚、あたしの口角も徐々に上がっていく。



「ガーランド、早くあの小娘を仕留めろ。我らは最早進むしかない」



「……はいボス、仰せのままに」



「――っ」



 ドッペルゲンガーによって形態変化したガーランドの腕が伸びて、エレノーラを吹き飛ばした。

 あたしは拳を握りしめ、一度そちらに目を向ける。



「あの小娘、死ぬぞ」



「……」



 あたしは何も答えない。

 あの子が選んだ、あの子が決めた。



 ならば最後まで戦わせるべきだ。



「ミーシャお姉、ちゃん、エレは、大丈夫、だから」




「……そう」



「ちょっとミーシャ! 大丈夫なわけないでしょう! このままじゃエレノーラ――」



「スピカ、大丈夫ってあの子が言っているのよ」



「でも」



 スピカが泣きそうな顔をしている。

 あたしはチラとエレノーラを見ると、あの子はふらふらと立ち上がった。



 そこであたしは見てしまった。

 あの子の瞳を、あの子の決意を――。

 まだ戦える。まだ諦めてはいない。



「あの子は強い子よ」



 ジュウモンジの衝撃を纏った拳があたしに振り下ろされた。

 あたしはそれを受け止めると、敵を睨む。



「……わからん、お前たちはどうしてそこまでして戦う」



「あんた、わからないの?」



「……」



「そう、だからあんた、弱いのね」



 受け止めた拳に力が入った。

 けれどあたしは首を横に振る。



「まあ、あんたたちはなにもわかっていないわ。あたしたちのことも、あの子のことも」



 エレノーラの戦いに目を向けると、ガーランドがまるでいたぶるように伸びる腕をしならせて、エレノーラを傷つけていた。



「さっさと諦めなさい! あなたはもう何も出来ず、私に殺されるのですよ!」



「……ナーサリー、ライム」



「おっと、また幻ですか。しかしいくら実体のある幻といえども、本体であるあなたがその様では、本物を見分けるのも――」



 けれど、ガーランドが突然誰かに殴られたかのように体を傾けた。



「幻、じゃない、です。エレのスキルは、頭に、直接作用します。だから、本物だろうが、そうじゃなかろうが、あなたが攻撃を、喰らったって、思えば、それは、攻撃、です」



「――」



 頬を押さえていたガーランドが怒りの表所を露わにし、先ほどより激しくエレノーラを鞭打つ。



「ミーシャ、止めさせて! もう、もう見ていられないわよ」



「……」



 まだ、まだだ。

 エレノーラの戦闘圧が大きくなっている。

 傷つけられて尚、あの子は戦うことを諦めていない。それどころか、どんどんと闘争心を大きくしている。

 それを司る駄女神のアヤメすら、あの子の闘争心に驚いているようだった。



 当然だ、だってあの子は――。



「ガーランド、その子はあの神官服のクマの娘よ、あんた戦ったんでしょ?」



「なに」



 突然ガーランドが笑い声を上げた。



「何と言う僥倖、何という幸運! あのわけのわからない化け物め、そうかこの娘が――ならばこの娘を八つ裂きにし、やつの眼前に放り捨ててやりましょう。そうすれば奴にも一泡吹かせられると言うもの!」



 さらに早く腕をしならせ、エレノーラの体が傷ついて行く。



「ええ、そう……エレノーラは、あの血冠魔王の娘だもの、こんなところでやられるわけないわ」



「――は?」



 ガーランドの手が止まった。



 そしてジュウモンジも、驚いたような顔を浮かべている。



「血冠魔王、あんたたちも名前くらいは聞いたことあるでしょう?」



「馬鹿な、奴は……あ、は? え――」



 ロイとの戦いを思い出しているのか、ガーランドが体を震わせ、顔を青くした。

 すると、いつの間に近づいていたのか、エレノーラがガーランドの正面に立っていた。



「ひっ、く、来るな! わ、私は、血冠魔王なんて知らなかっ――」



「つかま~えたっ」



 傷だらけのエレノーラが、可愛らしい笑顔を撒き散らしながら、ガーランドの両頬を両手でつかんだ。



「ガーランド!」



 ジュウモンジが動き出そうとするのをあたしは制し、そのまま見守る。



「あなたの弱いところ(・・・・・)、そんなところにあったんだぁ。『臣下宣言(エクストラコード)』」



 エレノーラの体が揺らぐ、透ける。

 それと同時に、ガーランドの体から何か幽体が飛び出てきて、エレノーラに捕まれている。



「『甘く蕩けて色欲に溺れ(ネバーランド)』」



「はぇ……?」



 ガーランドの幽体が消えると同時に、エレノーラも元の体に戻り、そして彼女は無言で振り返り、あたしと視線を合わせた。



「ガー、ランド?」



 ジュウモンジが彼を呼ぶも返答はなく、全員が息を呑んでいる中、アヤメだけは顔を引きつらせていた。



 そんな沈黙を破ったのはガーランド本人で、彼が動き出して声を上げた。



「え、エレノーラ様ぁ」



「は?」



「私は、私は恐ろしい! この世界も、この世界に属する全ても、そして何より、あの神官――血冠魔王が!」



「そう、なら見なければ良い」



 普段の甘えたような声とは裏腹に、エレノーラが冷たい声で言い放った。



「その瞳を潰しなさい」



 ロイのように手を大きく振ったエレノーラに、ガーランドが歓喜の声を上げて手を刃物に変えて自身の目に刃を入れた。



「あ、あはははははは! これで、これで! もう私は怖くない! 恐ろしくない! これで、これで――」



 瞳から血を流しながらも狂ったように笑い続けるガーランドに、スピカとポアルンたち聖女、ジュウモンジですらエレノーラに畏怖の瞳を向けていた。



「……ミーシャお姉ちゃん、ちょっと疲れちゃった」



「ええ、よく頑張ったわね。暫く休んでいなさい。アヤメ、あの子と一緒にいてあげて」



「おう」



 アヤメがエレノーラを支えてスピカたちのいる透明の壁辺りまで進んだのを見届けて、あたしはジュウモンジと対峙する。



「あの子も頑張ったし、あたしもいい加減決めるわ。覚悟しなさい、あんたたちがどれだけ弱いのか、教えてあげるわ」



 エレノーラの戦いを見届けたあたしは、今度こそこの事件の中心にいたこの大馬鹿者をブッ飛ばせる。

 いい加減、体がうずいていたところなのだ、すぐに終わらせなんてしない。

 こいつには言いたいことがたくさんある。



 だからこそ、あたしはこの拳で語るのみ。

 ヘカトンケイルの最後を、あたしは運び入れるのだった。

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