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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
2章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、冒険者ギルドにて仕事を受ける。

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魔王ちゃん、勇者に片鱗を見せつける

「おう、おはようさん。もう帰るのか?」



「おはようガイル。うん、依頼も終えたから報告に戻らなくちゃだし」



 翌日、学園に帰るために宿から出ると、出口でガイルとマナさんが待っていた。



「もうちっといりゃあ良いのに」



「一応学生なので。でもすぐ依頼を受けに来ると思うよ。何だかんだ冒険者業が肌にあっているみたいだし、うちの聖女様も気に入っているみたいですし」



 次こそは。という気概をミーシャが握りしめた拳から感じ、僕は微笑む。




「おいミーシャ、俺も拳には自信あんだ。今度真正面から殴り合おうぜ」



「その顔面二度と戻らないほど歪ませてやるわ」



「2人とも、頼むから自分の立場と相手の見てくれを考えてものを言ってね」



 好戦的に嗤う2人に呆れていると、ソフィアちゃんが首を傾げており、僕は彼女に目を向ける。



「ああいえ、テッカさんはどちらに行かれたのかなって思いまして」



「そう言えばいませんね。ガイルさん、テッカくんは?」



「あ? ああ、あいつはその、あれだよあれ」



 ソフィアちゃんとマナさんにガイルが言い淀んでいるけれど、僕もミーシャもきっとその言い訳じみた言葉に耳を傾けていない。



「まあまあ、ちゃんと盛大に送り出してくれるから気にしないの」



「そうなのですか?」



 ソフィアちゃんの頭を撫で、僕は軽く腕を回した。

 するとガイルがジッと僕に視線を向けており、その視線に笑顔で返す。



「昨日は僕の実力を計れなかったもんねぇ」



「……何のことやら」



 白々しいガイルに、僕は喉を鳴らす。

 さっきから大分漏れている戦いの気配を隠そうともしない。否、出来ないのだろう。

 ガイル=グレックという勇者は、わかりやすい戦闘狂である。ミーシャとはまた違った戦いの気配を纏わせている。



 しかし、それが不思議と不快な感じではない。どういうことか、こちらもやる気が出てしまう。

 これが勇者の力かと考えたけれど、ガイル個人の質だろう。



「ねえガイル、一応僕たち学生だからね」



「魔王でもある」



「さらにあなたは勇者だもんね」



 そんな僕の言葉に、ソフィアちゃんとマナさんが息を呑んだ。

 僕とガイルの間の空気が、戦いの空気に染まっていく。



「あ、あの、ここ街中ですよ?」



「うん、わかってるわかってる」



「リョカ、お前さんの学校にも勇者はいるだろう? こりゃあ俺の誇りなんだが、学生如きとは比べもんにならねぇほどの力を持ってるはずだぜ」



「だろうね。うちの学生勇者様はまだまだこれからに期待って感じだから、ぜひぜひ参考にさせてもらいたいよ」



 ガイルがニヤリと口角を吊り上げ、歯を剥き出しにして嗤った。

 あんな顔、女子高生に向けたら普通は通報ものだけれど、ここには彼を縛るものは何もない。



 当然僕のことも。



「勇者の力って奴はな、他から受ける信仰が力の源だ。つまり知名度があればあるほど勇者のスキルは強力になる」



「それだけじゃないでしょう、その他から受ける信仰で力の形も変わる。つまり周りから抱かれているイメージによって力の形が決定付けられる。厄介だよねぇ」



「さすがリョカだ、勇者の力も知ってたか。そんじゃあ説明する必要はねぇな」



 ガイルの手元がゆらゆらと揺れる。

聖剣顕現(せいけんけんげん)』それが勇者の与えられた第一スキル。



 勇者になりたての者ではほぼ意味を成さないスキルではあるけれど、やっぱりガイルは使えるか。



「俺の聖剣はちとあちいぞ。聖剣顕現・ファイナリティヴォルカント」



 スキルの発動までの刹那の時、まだ聖剣を出しきる僅かな隙間。僕は飛び退き、距離を取ろうとした。



「逃がすか――」



「逃げないよ」



 さっきまで僕がいた空間、僕の眼前に最も頼りになる神聖な拳が空を切った。



「馬鹿なっ!」



「次はその胴と首を千切りとってやるわ」



 僕の目の前にいたテッカがミーシャの拳に驚き、尻餅をついた。

 そしてその隙を僕は逃さない。

 指を鳴らし、聖剣が誕生するよりも早く、ガイルの指を切り裂いた。



「抜きな、僕よりも早ければね」



 ガイルが手を押え蹲ったところで、この戦いは終わった。

 恨めし気に僕のことを見ていたガイルだったけれど、盛大にため息を吐いた後、盛大に笑い声を上げた。



「いや、まいったまいった。降参だ」



 時間にしたら数秒にも満たない戦い。ガイルが聖剣顕現を使ってからはもっと短い。僕たちはその戦いに勝利したのだろう。



「出てくるなんて聞いていないぞ聖女」



「あんたたちがリョカばかり見ているから悪いでしょう。あたしのこと舐めてるのかしら?」



「いやいや悪かったなミーシャ、お前さんがこっちに来ることは予想してたんだがな。まさかテッカの居場所がわかるとは、お前も探索できるのか?」



「勘よ」



 胸を張って言うミーシャに、ガイルもテッカも口をあんぐりとしている。それはそうだろう、テッカのギフトはわからないけれど、スキルに関しては予想できる。

 所謂、認識阻害のスキルで姿を隠しており、僕からしたらずっと近くにいたのは魔王オーラでわかっていた。



 けれどミーシャはレーダーも気配探知もなく、ただの勘でその拳を全力で放ったのだ。これほどの理不尽はないだろう。



「……本当にお前たちは末恐ろしいな。ところでミーシャ、参考までに俺にどれだけの回数を上乗せさせたパンチを喰らわせようとしたんだ?」



 テッカが顔を引きつらせて、ミーシャがパンチを放った先の家屋が粉々になっている様を見ながら尋ねた。



「4回。朝しっかりお祈りは済ませたわ」



「まともに喰らったら本気で死ぬな」



 僕は口元を隠して笑い、ガイルに近づいて彼の傷を聖女の癒しで治す。



「おうあんがとな。しっかしお前さん、絶気の扱い上手すぎだろ。探知も絶気だな?」



「うん、素晴らしき魔王オーラだよ。素晴らしきからがスキル名だから、ちゃんとそう呼んでね」



「スキル名まで変えるんじゃねぇよ。まさか俺が聖剣すら出せずに負けるとはな」



「出させるわけないじゃん。聖剣が出せるほどってことは知名度が高いってことなんだから、わざわざ同じ土俵になんて立たないよ」



「土俵? まあ言いたいことはわかるが、もうちっと俺に華を持たせてくれよ」



 ヤだよ。と、僕はベッと舌を出して可愛いアピール。

 とはいっても正直聖剣を出されていたら負けていた可能性の方が大きいだろう。別に負けても良かったけれど、それはそれで癪である。



 僕はガイルに手を差し出して立たせ、呆けているソフィアちゃんとマナさんに視線を向ける。



「こ、これが魔王としてのリョカさんと聖女パンチのミーシャちゃんですか。何が起きたのかまったくわかりませんでした。ソフィアちゃん、よく2人と一緒に行動できましたね」



「あ、あはは、着いて行くので精一杯でしたよ」



 ソフィアちゃんの頭を撫で、彼女がいてくれた助かったことをお礼した後、僕はガイルたちに体を向けた。



「リョカ、ミーシャ、ソフィア、また来いよ。俺たちはここを拠点にしているし、困ったことがあったら俺たちを頼れ」



「うん、そうさせてもらうよ。ガイルも、魔王の手が借りたくなったらいつでも言ってよ」



「……そうだな。おう、そうさせてもらうよ」



 一呼吸間を置いたガイルだったけれど、すぐに納得したように頷いた。



 僕たちはガイルとテッカ、マナさんに手を振り、今度こそゼプテンから出るために昨日通った森へと足を進める。



「いい経験ができたね」



「そうね、次はもっと役に立つわ」



「期待してる」



「あ、あのっ、私ももっとスキルを上手く扱えるようになって、またお2人と一緒に行きたいです」



「うん、ソフィアちゃんならすぐに物に出来るよ。その時は一緒に行こうね」



 こうして、僕たちの社会奉仕活動が終わった。

 簡単な依頼で済むと思っていたけれど、いざふたを開けてみれば酔っ払いに絡まれ、勇者と出会って、ポッコリイカが出てきて、聖女が苛立ち、聖女が超威力破戒パンチを覚えて、ギルドで宴会して、最後は勇者との力比べ。



 これほど充実した日は最近では珍しいものだったのではないだろうか。普段も退屈ではなかったけれど、物足りないといえば物足りなかった。

 これを期に、もう少し自分から色々突っ込んでいくのも良いかもしれないと改めて思った。



 僕は隣にいるミーシャを見る。



「何よ」



「うんにゃ。ミーシャがこれからも隣にいてくれると思うと、退屈しなくて済むなぁって」



「あら奇遇ね、あたしも同じことを思っているわ」



 僕らは互いに笑みを漏らした。



「それじゃあ、我らが愛おしき学び舎に帰るとしましょうか」

登場人物


      ヘリオス=ベントラー   教員。



      ソフィア=カルタス    リョカたちに同行した同級生。



      ガイル=グレック     勇者の1人。強いおっさん。



      テッカ=キサラギ     ガイルの仲間、姿を消す。



      マナ=ルーデッヒ     ゼプテンの冒険者ギルド受付嬢。

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