宵星の水龍ちゃんと決意の宣言
「ふわっ! なんかリョカさん、マジギレしていません?」
「しているな。正直、着いて行かなくて正解だったようだね。こんな気配隣でばら撒かれていたら立っていられたかも怪しい位だ」
「ですね。でも一体誰がこんなに? ジュウモンジ……は、ミーシャさんに預けたみたいですし、そもそもリョカさんは一体何をしにここに来たのでしょうか?」
「フィリアム様やスピリカを助けに来たのは当然だけれど、何か私たちのうかがい知れないところでも事が動いているようだね」
私は一度リョカさんたちが昇って行った階段に目をやる。
すると、彼女たちを追いかけようとしているヘカトンケイルのギルド員数人が一斉に飛び掛かってきたから、私は彼らに視線を向けることなく、リョカさんから貰った武器……ミーシャさんの竜にあやかり、水龍と名付けたその武器を振るっていく。
水は形を成さずに敵の間を縫っていき、通り過ぎたところで背後から水しぶきを飛ばして彼らを貫いた。
「随分と使いこなしているようだな」
「はい、なんだかとても馴染むんですよね。リョカさん、私用に調整したって言ってましたけれど、本当によく手に馴染むんですよ」
「さすがの魔王様と称賛するべきだろうね。ウルミラ良い友を得たね、大事にしなさい」
「はい! それじゃあ私たちはちゃちゃっと――」
「ウルミラ!」
ランガさんの声に私はその場から飛び上がった。
床が揺らいでいる、闇が溢れている。
このスキルは――私はランガさんの背後から物凄い速度で突っ込んできた影に水龍を振りかざす。
「『集えどこかの水』」
剣が水流となって、リョカさん曰くニンジャの子を追う。
そして私の足元の闇にランガさんが風を向けた。
「如月流飛礫三式――白雨」
「『闇集発斧』」
ランガさんの風で勢い付いた小刀を闇の斧で弾き返した女性。
ミーシャさんに2回破れている彼女と、リョカさんにも負けたニンジャの子が私たちの前に現れた。
「はっ、あの聖女はいねぇのかよ」
「安心しましたか?」
「あ~ん?」
「ミーシャさんは上でジュウモンジと戦っています。あなたたちはもうお終いです」
「それはこっちの言葉だブリンガーナイト、ボスはヤバい力を手に入れた。あんなもんに敵う奴なんてこの世に存在しない」
私は小さく首を横に振り、闇の彼女とニンジャの子にあられむような目を向ける。
「リョカさんとミーシャさんのこと、何もわかっていないんですね」
「なんだと?」
「ミーシャさん、あなたにも見せた赤くなる状態より上があるって言っていましたよ」
「あれより上だ? だがボスは――」
「大教会ですよね? 大聖女フェルミナ=イグリースの起こした奇跡――多分ミーシャさんも使えますよ」
「は? 何言ってやがる。あれは聖女が数人いて成り立つ奇跡だ」
「私、フェルミナ=イグリース本人に会いました。死神様によって不死者になっていましたけれど、それでも近くにいるだけで凄い信仰だとわかりました。でもミーシャさんはさらにその上を行く。グエングリッダーの聖女を総動員させても彼女の信仰に足りるかどうか……そんな信仰を使えば、1人でだって大教会が使えると思いませんか?」
「――」
闇の彼女が奥歯を噛みしめて歯を鳴らした。
私自身無茶苦茶なことを言っているのはわかっている。
けれどミーシャ=グリムガントという聖女は、その無茶苦茶すら納得出来てしまうほど在り方が私たちとは異なっている。
私の考えに、ランガさんが思案顔を浮かべている。
「なるほど、同じ場所に立っただけか。ジュウモンジが憐れだな」
ランガさんも納得したようだった。
そしてすぐに闇の彼女とニンジャの子が私たちの後ろの階段に目をやったのがわかった。
「行かせませんよ。彼女たちの邪魔をさせないために私たちはここにいます」
「クソ! あの魔王と聖女、どれだけ邪魔をすれば――」
「それはこちらの言葉です! 私たちは平和に暮らしているだけで良かった、なのにあなたたちはそれを壊そうとしている!」
「うるせえよ……お前に何がわかる! あたしたちはお前たちの言うぬるい世界でなんて生きていけねぇ! あたしたちがどれだけ――」
「知るかぁ! 平和がぬるい? その世界では生きていけない? お前たちの言うぬるい世界を作るために、ボスやランガさん、マルエッダ様にスピカさん、私もウルチルもどれだけ頑張ってきていると思っているんですか! その世界に入り込もうとしないで、何が生きていけないだ!」
私は剣を構え、およそ今まででは放出したことない強い戦闘圧を2人にぶち当てた。
「これは――」
「私は守るんです! この国も、この世界も、この国が大好きだっていうみんなを、女神様も――いつかしっかりとこの国を案内してあげたい人たちがいるんです、その人たちに素敵な国だねって言ってもらいたいんです! だから私は、ここを退くわけにはいかないんです!」
水龍から水が溢れる。
その水は辺りを流れ出し、あちこちに私の力が流れ出ている。
「『その水壺は世界を覆う』」
水で出来た球体が辺りを彷徨うようにふよふよと浮いている。
ここで引くわけにはいかない。
きっと彼女たちを逃しても上の皆さんなら何とかできるかもしれない。
けれどそれでは駄目だ。
私は、ブリンガーナイト所属のウルミラ=セイバーは――。
「私は誰よりも強い極星を目指します! 世界を愛し、国を愛し、星の輝きを忘れない。そんな極星に!」
私の宣言に、ランガさんが微笑んでいる。
ここからは私たちの戦場だ。
私たちが決めた騎士の道を、宵闇の中で歩き続けるために一番星を――。
覚悟を決めた私は、ヘカトンケイルの面々と対峙するのだった。




