魔王ちゃんと衝撃の魔王オーラ
「うげ、ロイの奴マジか」
「お父様がどうかしたですか?」
「どうもこうもねぇよ。まったくラムダの奴、信徒に甘すぎないかしら?」
ぷくぷく膨れているアヤメちゃんをミーシャが撫でており、僕たちはまだ階段を上っていた。
「ロイさんたち、大丈夫そうですか?」
「ええ、心配ない……と、いいたいのですが、テッドの力でギフトを取り込んだ魔物が交配を繰り返して出来上がった魔物が相手ですので、それなりに苦戦を強いられることになりそうです」
ギフトを取り込んだ魔物……確か魔物は大地に還ったギフトから作られているのだったか。
アヤメちゃんやテッド様はある程度制限して作っていたみたいだけれど、今それに期待するのは無理だろう。
けれど交配か、それなりに時間がかかりそうだけれど……いや、フィムちゃんがいるのか。
「でも大丈夫でしょ。ロイはラムダの加護でスキルを一新した。あいつ魔王時代よりヤバいぞ」
「一新って、そんなこと出来るんですか?」
「ラムダは豊穣の女神、けれどその実、死を得た後に命を芽吹かせる輪廻の女神。あの子の加護は新たに芽吹きを与える加護です」
「リョカ、今までのロイと戦う場合、お前はどうやって戦う?」
「どうって……あの血液が厄介なので、とにかくたくさん消費させます。ブラッドヴァンの性質上、血液を補充させなければいいんですから」
「さすがリョカさんです。ではリョカさん、この世界……風も大地も、空も、世界に属している以上生きていると仮定した場合、この大地に何が流れているでしょうか?」
「……え、嘘でしょ。あの人それも血液だと認識しているの?」
「ああ、今この国にはロイクマが大量に生成された。『豊かに芽吹く血思体』今の血冠魔王に血液不足は期待するなよ」
誰だロイさんに欠陥なんてつけた奴は。これではもう完全無敵魔王じゃないか。
というかそうなると、絶慈も一新していそうだな。ガイルが喜びそうだ。
「へ~、あたしロイとはまだ正面から戦ったことないのよね。これが終わったら誘ってみようかしら?」
「お父様とミーシャお姉ちゃんとの戦い、ちょっと見てみたい」
「ミーシャのせいでエレノーラに悪影響が」
「戦い大好きっ子になっちまうな」
エレノーラを撫でていると、大きな扉が見えてきた。
その先からは強い気配が漂っており、何よりも僕が知っている気配がする。
「……スピカもポアルンもいるわね」
「だね。まったく聖女誘拐の真相が大教会を使用するからなんて、随分と贅沢な犯罪だよ」
「まったくよ。そもそもそんなことする理由もないでしょうに」
「お前にはないだろうけれどな。普通の奴からすれば神域に首を突っ込むって言うのは大それたことなのよ。まあ同情はするが、あいつは敵を誤った」
「ええ、彼は自分でたどり着けない場所に他人を巻き込んだ。強くなることを否定しませんけれど、そのやり方は罰せられるべきです」
「心配しなくて良いわよルナ、あたしがブッ飛ばすわ。エレノーラはもう1人をお願いね」
「む~、エレも一発殴っておきたい」
「それじゃあ僕と一緒に殴ろうね」
そんな軽口を叩きながら、僕たちは扉の前に到着した。
「それじゃあ一番手はもらうね」
僕はルナちゃんを抱き上げると、空いた手で扉を開け放つ。
「おじゃましま~す!」
そこにはジュウモンジとガーランド、そしてなにか見えない壁に閉じ込められているスピカと他の聖女たち。
「リョカ――」
「ごめんスピカ、僕はさっさと行っちゃうから後でね」
「え」
駆けだした僕は飛び上がってジュウモンジの上をとった。
挨拶なんてする仲ではないし、ここはさっさと抜けてしまおう。
僕の視線は扉傍のエレノーラに向けられた。
彼女は手に持った小麦を振って粒をばら撒いた。
「『目に映るは夢幻の現鏡』」
「む――貴様いつの間に?」
ジュウモンジが動揺している。
何かに体を引っ張られているのか、頻りに腰元に腕を振るっていた。
「ボス! そこにはなにもいません!」
触れる幻覚ってところだろう。
あの子本当に強いな。
僕は小さく笑みを溢すと、手に魔王オーラを集める。
普段のように拳に込めるのではなく、拳の周りを衝撃で巡らせる。
「貴様の攻撃なぞ効かん!」
ジュウモンジが衝撃を僕に向かって投げてきたけれど、僕の拳を回っている衝撃がその衝撃もろとも吸い上げてさらに勢いよく回転する。
「なに――」
「これが衝撃の魔王オーラだ!」
ジュウモンジの衝撃をすべて吸い上げ、僕は威力を増した衝撃の魔王オーラをジュウモンジに叩きつけた。
「がぁぁっ!」
吹っ飛んでいったジュウモンジを横目に、僕はミーシャとエレノーラに手を振る。
「それじゃあここはお願いね」
「ええ、スピカもポアルンも、しっかり連れて帰るわ」
「リョカお姉ちゃん、エレもあのおっきい人殴れたよ」
「エレノーラ偉いぞ。終わったらマカロン作ってあげるからね」
エレノーラがとても嬉しそうにしており、僕は和みながらルナちゃんを連れてさらに上に続く階段に足を進める。
「ああスピカ、フィムちゃんはちゃんと助けるから、そこでゆっくりしてな」
「ゆっくりってあなた……」
「もう僕たちは動き出したんだ。処刑用BGM流れているところだよ」
「……怪我、大丈夫だったの?」
「エレノーラが逸らしてくれたから大丈夫だよ」
「そう――それじゃああなたの言う通り、ここでのんびりフィリアム様を待っているわ」
「うん、流石に肝が据わっているね。ああでも、ミーシャにツッコみ疲れないようにね」
「今さらでしょ……リョカ」
「ん?」
「フィリアム様のこと、お願い」
「任せな」
そうして僕は階段を駆け上がっていくのだった。




