魔王ちゃんと突入、バルドヘイト
「ふははははぁ! これがラピュタの雷だぁ!」
「らぴゅた?」
飛空艇でバルドヘイトを目指す道すがら、僕は大地で蠢く魔物たちをアガートラームで一掃していた。
「……お前、こんな技術のない世界で制空権をとれる兵器を作ってんじゃないわよ」
「さすがに全部は倒せないですよ。僕疲れちゃいますし、アルマリアとロイさんが楽できるようにちょっとでも減らそうとしているだけです」
「ふわぁ格好良いなぁ。リョカさん、これなんて言うんですか?」
「え、名前? う~ん……『運命を穿つ聖船』とか?」
「いいなぁ、良いなぁ。リョカさんこれ――」
「残念ながら一点ものなのよ。それにこんなものバンバン生成されたら世界の均衡がね、その、とんでもないことになっちゃうからね」
「え~」
「え~じゃねぇよ。頼むから人間はギフトの枠組みの中でだけ生活してくれ。女神の手が足らなくなる」
「アヤメちゃんもこう言っているし、終わったら小さなラジコン……小型の玩具としてあげるからそれで我慢してね」
ウルミラを撫でていると、ランガさんが窓から大地の様子を眺めており、顔を引きつらせていた。
「確かに、こんなもの大量に導入されたら戦いが変わりますね。さすがジブリッド家といいますか、物づくりの才能が抜群に高いですね」
「ジブリッドは最強商会なので。まあうちのお父様、それなりの良識がありますので、こんなもの提案しても却下するので大丈夫ですよ」
大地の魔物たちが次々と銀色の光線で撃ち抜かれる様を僕も眺めていると、椅子に座ってしっかりとシートベルトをしているエレノーラが足をバタバタさせながら、事あるごとに感嘆の声を上げていた。
可愛らしくて僕はつい撫でてしまう。
「リョカお姉ちゃんたちと一緒にいると、見たこともないものが観れるから楽しいです」
「そっかぁ、これからもたくさん見せられるように頑張るね」
「……目下幼子に見せているのは魔物たちの阿鼻叫喚なんだが」
「まあいいじゃないですかアヤメ、珍しいものが見られてわたくしも楽しいですよ」
「珍しいものっていうか、存在したらいけない物だぜこりゃあ。というかルナ、お前そんなに呑気していていいのかよ」
「と、いいますと?」
「リョカのこの手の技術、欲しがる女神がいんだろ。あいつに目を付けられたら面倒なことになるわよ」
「あ~……まあ今はこちらの状況を意図的に隠していますし、あの子がわざわざこちらに目をやるとも思えませんので、大丈夫ですよ」
今壮大なフラグ建築を見た気がするけれど、今は放っておこう。
僕はミーシャを手招きし、お願いをする。
「ちょっとミーシャさんや、このクマにエクストラコード使ってくれない?」
僕は体が透けているクマを一体ミーシャに手渡す。
「なによこれ? まあいいけれど――『あらゆるを満たす暴食』」
「ありがと、僕のところにいるミーシャクマだとやっぱりオリジナルほど上手く使えなくてね、フィムちゃんに渡したあのクマもちゃんと固まってればいいんだけれどね」
透けていたクマがはっきりとぬいぐるみになった。
「あら、そのクマさんは」
「は? いやお前、お前が決めたプロセスは辿ってくれよ」
「どう考えてもあれが僕に靡くことはないので、つい」
僕はベッと舌を出すと、ミーシャに向き直る。
「ねえミーシャ、もう一個お願いしていい?」
「もう何でも言いなさい」
「ありがとミーシャ。それでね、僕はちょっとやることがあるからミーシャに完全に譲るんだけれど、一発だけやらせて?」
「……ふむ、良いわよ。それで倒すんじゃないわよ」
「大丈夫でしょ、それなりに頑丈だったし」
ミーシャの許可を得て満足していると、ウルミラが何か言いたげな顔をしていた。
「……2人が味方でよかったですよ」
「まったくだな。お館様も常にそうぼやいていただろうな」
まさにその通りだけれど、僕はランガさんに笑みを返し、そして正面を指差す。
「それじゃあ突っ込むけれど、ウルミラとランガさんは着地は自分でね」
「え?」
「はい――?」
僕はルナちゃんとエレノーラを抱え、ミーシャがアヤメちゃんを抱えたのを横目に、バルドヘイトの一番高い建物に突っ込むために速度を上げた。
「ちょっ、リョカさん!」
「それじゃあおじゃましま~す!」
僕はリア・ファルを建物に突っ込ませたと同時に、アガートラーム・カスタムに戻してみんなで宙に放り出されたのだった。




