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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
2章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、冒険者ギルドにて仕事を受ける。

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魔王ちゃん、冒険者ギルドではしゃぐ

「ほれ、今日は俺の奢りだ。ここの飯は結構いけるぜ」



 依頼を終えた僕たちは、ミーシャの疲労のことも考えてゼプテンに一泊していこうと決めたところ、ガイルがそれなら夕食に。と、招待してくれた。

 せっかくこれだけ可愛いどころを集めたメンバーなのだから、それなりにお洒落なところを想像していたけれど、まさかの冒険者ギルドに、僕はガイルをジト目で見る。



「お、なんだなんだ? 早速気に入ったか」



「……学生の、しかも若い女性を連れてくるような場所ではないだろうが」



「テッカさんが結構紳士的でよかったです。ガイルさぁ、見てよこの三者三様の美少女たちを。もっと頑張って見栄とか張って」



「俺のこともテッカで良い」



 僕が頷くとテッカが多分お酒を呷った。正直酒はあまり好きではないし、肝臓が可愛くないことになるから今後も呑むことはないだろう。



「え~、良いじゃねぇかこの雑多とした雰囲気がよ。それに見てみろ、ミーシャなんてすでに馴染んでるぜ」



「へ?」



 さっきから一言も喋っていないミーシャに目を向けると、およそ蛙っぽい見た目をした肉を手で掴んで、淑女とは思えないほど大口を開けて肉を喰らっていた。



「あ、その子は腹が減ったら弱者から喰い尽せ系ご令嬢なのでノーカンです。ソフィアちゃんを見てみなさいよ、あの控えめにどうしたら良いのかわからずに、どうやって食べようか模索するのが可愛い女の子なの」



「俺は豪快に食ってくれる奴の方が好みだがなぁ」



「ガイルのことを好きになってくれる相手ならそれで良いかもしれないけれど、僕たちはまだ花も恥じらう乙女――むぐわぁっ!」



 突然口の中に突っ込まれる肉に、僕はミーシャを睨みつける。



「黙って喰いなさい。食事中に喋っていたら行儀悪いでしょう」



 釈然としないのは何故だろうか。僕は黙って口に入れられた肉を味わうのだけれど、これが意外とおいしい。何の肉か一切わからないけれど、味付けは中々のものだと思う。

 この世界の調味料、まあ普通に塩と胡椒、砂糖はある。あとは薬草、ハーブ系で香りをつけるのが主なのだけれど、このハーブの調合、馬鹿に出来ない。



「……美味しい」



「だろっ。冒険者なんてやってりゃあ飯なんてどこで食っても美味いもんだが、やっぱりてめえの好きな場所くらいは作っときたいだろ、そこがここだ」



「あ~えっと、別に僕はここの位が低いとかって言うつもりだったんじゃなくて。あっとその――」



「気にしなくて良い。ガイルは遠慮とか配慮なんて考えないから、相手にもそんなことは求めない」



「こざっぱりしてるよねぇ」



 どこか誇らしげにテッカが頷いたのを見て、この2人は互いに信頼し合っているのが窺えた。



「ああだが、やはり居心地は悪いだろう、周りもお前たちが気になっているようだしな」



「ううん、僕は見られるのならバッチこいだよ」



「それなら良かった。まあガイルではないが、今夜は楽しむと良い」



「うん、ありがとテッカ」



 と言ったものの、やはり周囲の視線は気になってはいた。

 魔王が勇者と食事を囲むのがそれほど異質なのだろうかとも思ったけれど、どうにも視線はそういう意味ではないようにも思える。



 そんなことを考えていると、今朝受付をしてくれたお姉さんが何かを持って歩いてきた。



「えっと、リョカ=ジブリッドさん、でよろしかったですか?」



「リョカで良いですよ。えっとあなたは」



「マナだよ。このギルドの案内人」



 ガイルが代わりに答えると、彼女が深々と頭を下げた。



「マナ=ルーデッヒです。ではリョカさん、今回の依頼達成、おめでとうございます。こちらが報酬と、それと冒険者登録書になります」



 マナさんはそう言って僕に報酬の入った皮で出来た袋とキャッシュカードサイズの入れ物に入った紙を渡してきた。

 入れ物は、プラスチック――コンテイモクの樹液かな。を成形した入れ物。意外と高級なものに登録書を入れているのかと驚く。



「マナさんありがとうございます。これで僕たちも冒険者の依頼を受けることができますか?」



「はい、うちのギルドマスターもぜひお三方にお渡ししてほしいと」



「ギルマス?」



 そういえば一度も会っていなかったけれど、どういうつもりなのだろうか。

 僕がそうして首を傾げていると、ガイルが口を開くのが見えた。



「あんま深く考えんな。そもそも学園からきた奴に登録書なんて渡すことはないんだが、俺がちゃんと推しといた。お前さんらならまったく心配ないしな」



「ああうん? ありがとう?」



「いいってことよ」



 ニカッと豪快に笑うガイルに、僕は苦笑いを1つ。やはり学園は歓迎されてないんだな。というのと、それでも僕たちの実力を認めてくれたギルドマスターとガイルとテッカに感謝せずにはいられなかった。

 そう感慨に浸っていると、マナさんがどこかうずうずと僕を見つめており、どうにもくすぐったい。またシイタケまなこである。



「えっと?」



「ああ、マナは依頼の話が大好きだからな。お前さんたちがどうやって依頼を達成したのか気になってるんじゃないか?」



「……正直鬱陶しいから無視しても構わんぞ」



「テッカくんひどいです! だって噂の魔王様が、しかも最初の依頼でウォッシュマーを倒したんですよ? 私としては凄く気になります」



 なるほど。それと気が付いたんだけれど、報酬が依頼書の内容より多いのはウォッシュマーを倒したからだろう。



「えっとマナさん、そうやって興味を持ってもらえるのは嬉しいけれど、あれを倒したのは僕じゃないんですよ」



「え?」



 僕はさっきから静かに肉ばかり食べているミーシャを指差した。



「そうだったんですか。あ、もしかしてリョカさん並にすっごいギフトの持ち主とか?」



 この流れさっき見たな。僕はガイルとテッカの3人で顔を伏せる。

 すると、たくさんの視線が自分に集まっていることに気が付いたのか、ミーシャが首を傾げている。



「だからあたしは聖女だって」



「わ~、聖女って言うギフ――え?」



 ギルド内が静かになり、みんながみんな挙ってミーシャを見ていた。

 そりゃあそうだろう。なにをどうしたら聖女に魔物を消滅させる力が備わっていると思うのか。僕にはなかった。



「それはリョカさんがお手伝いして?」



「うんにゃ。ミーシャ1人で蒸発させたよ」



「蒸発っ!?」



「残念ながら本当だぜ。俺たちは近くで見ていたが、ミーシャは聖女の奇跡を纏わせた拳でぶん殴っていたぜ。あんなん生身で受けたら多分死ぬな」



「聖女なのに死!?」



「あ、聖女の癒しだったら僕が使えるから、バランスは良いよ」



「魔王が癒し!?」



 マナさんの反応が少し鬱陶しいな。けれどそれは声にも出さずに、食事を再開する。ミーシャに至っては黙々と肉を食べており、周囲の反応に一切興味がないようだった。



 しかし周りは興味津々なのか。先ほどよりも近づいてきている。

 僕はため息を吐き、大きく手を叩いた。



「はいはい冒険者の皆々様方、僕は魔王だけれど可愛い魔王様です。愛してくれるのなら、あなたたちに危害なんて加えないよ。と、いうわけで――今日はガイルの奢りだよ! みんな飲めぇ!」



「おいこらてめぇっ!」



 僕は舌をベッと出して周りに愛嬌を精一杯振り撒いてみた。

 すると、周りの冒険者たちが互いに顔を見合わせた後、わっと湧き上がり、たくさんの注文を始めた。



「おいおいお前なぁ」



「今の内に唾でもつけておくんでしょ? 僕たちはそんなに安くないんだよ」



 そしてその流れに乗じてか、冒険者たちが料理を手に、僕たちのテーブルに近寄ってきて様々な質問を投げかけてくるなど、ギルドの雰囲気が一気にひっくり返った。



「ったく覚えてろよリョカ」



「うん、忘れないよ。プリムティスに立ち寄った際はぜひ僕に会いにおいで、手料理でも振る舞ってあげるよ」



 冒険者ギルドが賑やかな空気に、僕は暫し魔王であることを忘れた。

 魔王になったことを後悔したことはないけれど、それでも今のこの空気は楽しくてしょうがない。



 まるで祭りのような楽しい時間を、僕は愛さずにはいられないのだった。

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