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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
19章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、星を想い巨人に臨む

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聖女ちゃんと抑えられるケダモノ

「キュぅ……」



「闘志が足りないわ。もっと殺気立ちなさい」



「エレも闘志みなぎらせなきゃ!」



「お前説明雑過ぎんだろ。というかこれからジュウモンジのところにぶっこむっつうのになに遊んでんだよ」



 意気込むエレノーラと呆れるアヤメの頭を撫でた後、あたしは目を回しているウルミラを片腕で持ち上げて無理矢理立たせる。

 リョカの準備が終わるまで暇していたから、アヤメとエレノーラを連れてフラフラしていたらウルミラが気合を入れてくださいと喧嘩を売ってきたために、軽く捻っていたところだった。



「遊んでいないわよ」



「……ミーシャさん本当強いですよね。私もそのくらい強かったらなぁ」



 シュンとするウルミラの背中をあたしははたき、ついでに彼女を心配してかついて来ていた()も殴っておく。



「ぐっ」



「ありゃ、ランガさん?」



「……ああ、ウルミラ、姿を見かけたから話をと、思ったのですが」



 風があたしの方を向いた。

 同じ街にいるんだし、スキルなんて使わずに近づいてくればよかったんじゃないかしら。



「ミーシャさん、その、出来れば私を見つけても殴らないでくださると」



「隙を見せるから悪い。あんたそのスキル使っておけば安全だと思っているようだけれど、やり様は色々あるから気を付けなさいよ」



 ランガが苦笑いで頭辺りを掻いていた。

 それでこいつは一体何をしていたのかしら? わざわざスキルを使っていたということは本体は……アストラルセイレーン本部ね。



「ランガさん、どこか行っていたんですか?」



「ええ、各地のブリンガーナイトのギルド員に召集をかけていました。それでウルミラ、君は何を?」



「ミーシャさんに気合を入れてもらっていました! 私、リョカさんとミーシャさんについて行くと決めましたけれど、やっぱり足手まといにはなりたくないので」



「あまり気負いすぎるものではないですよ?」



「あんたたちは気負わないと駄目よ。自分を痛めつけろとは言わないけれど、あんたたちの戦闘欲の欠如はその肩に乗せているのが名前だけだからってことをいい加減自覚しなさい」



「……手厳しいですね」



 ランガが苦笑いを浮かべたような気がする。

 というかいい加減顔色を窺うのも面倒になってきた。



「あんたこっちに来なさい。風と話していると疲れるわ」



「っと、これは失礼――『風と同化し現れる者(ゼーレオメガ)』」



 風が人の形になり、そこにランガが現れた。

 グリッドジャンプより高性能な転移スキルのように思えるけれど、強力なギフトなのかしらとあたしは興味をそそられてランガに目を向ける。



「残念ながら戦闘能力は皆無なのですよ」



「残念ながら聖女も前線で戦うスキルは持っていないはずなのよ。けどこの暴力聖女を見てみろ、バリバリ前線で戦ってんだろ?」



「ミーシャお姉ちゃんの本気はギフトの垣根を超えて大地を揺るがすもんね」



「ちょっと待ってくださいまだ本気じゃないんですか?」



「この間戦った時まだまだ上げられるって言ったでしょ」



 ウルミラとランガが乾いた笑いを溢していたけれど、すぐに肩から力を抜き、2人揃って地べたに腰を下ろして手足を伸ばし始めた。



「なんかも~、2人のことを見ていると――」



「諦めたくなってくる?」



「まさか。そんなに軽く私たちの想像を超えちゃうんですもん、おこぼれを期待しちゃいます」



「そう、それならあたしたちがここにいる間はずっとついてきなさい。少なくとも退屈はさせないわ」



「言いましたね? 私ずっとついて行っちゃいますからね」



 ウルミラが懐っこい顔でひしとくっ付いてきたから撫でてあげると、嬉しそうに喉を鳴らしている。

 なんだかセルネを思い出すような小動物系だ。

 まああの子はあたしにはくっ付いて来なかったけれど。



 そんな彼女を見ながらランガが微笑む。

 ブリンガーナイトの保護者的な立ち位置なのだろう。



「あなた方は、こう、形容しづらい在り方といいますか、突風を吹かせたと思えば、心地よく肌を撫でる涼風のように他を癒し、かと思えば大風を吹かして我らを奮い立たせてくれる。様々な変化をこの国に運んで来てくれた」



「風で終わるつもりはないわよ。あんたたちは嵐の中でも胸を張って笑っていられるようにしなさい」



「風で終わらない。か……私も吹かせられればいいのですけれどね」



「難しいことはないわ、あたしなんだかんだ言ってもブリンガーナイトは結構好きよ。まだ軽い、まだ低い、まだ――でも躊躇なく戦うことを選択できるのはいつかあんたたちを強くするわ」



 ランガがあたしに礼を言った。

 礼をされるいわれはないけれど、こいつはキサラギの名を持っている。テッカがああなのだ、こいつにだってそれをするだけの素質はある。



「ミーシャさん格好良いですよね。私も真似たらできるかな」



「止めとけって。こいつの真似なんてしたら誰かが絶対に苦労する羽根になる。リョカ然りテッカ然りランファ然り……挙げだしたらキリがなくなっちまうよ」



「でもウルミラお姉ちゃんの気持ちもわかるよ。エレも目指せミーシャお姉ちゃんしているからね」



「リョカとロイが泣くから止めてやれ」



 アヤメの頭を軽く握り、あたしはため息を吐く。



「エレノーラは今回あたしから離れないようにね。けどあんたが選んだから守ってやるつもりはないわよ」



「はい! とっておき見せてあげますよ」



「頼もしいわね。ウルミラも気を付けなさいよ」



「わかってます! スピカさんを連れて帰ってまたみんなで色々やりたいです」



「良いわね。リョカに相談すれば面白い企画を提案してくれるわよ」



 目を輝かせるウルミラを横目に、ランガがクスクスと声を漏らしていた。



「アヤメ様、やはり2人を極星にすることは――」



「駄目よ、フィムにはまだ早いわ。そんなに欲しいのなら俺に喧嘩で勝ってからだって連れ戻した後に伝えておきなさい」



 胸を張るアヤメがそんなことを言うけれど、本当に喧嘩売ってきたらどうするつもりなのかしら? 女神同士の喧嘩と言うのにも興味があり、出来ることなら混じってやり合いたい。



「……お前は絶対に混ぜないからな?」



 心底嫌そうな顔をしているアヤメの額に指を弾き、あたしは大きく伸びをする。

 多分あと少しでリョカの準備が終わるだろう。

 今はこの緩い空気を満喫しているけれど、すぐに戦いは始まる。

 その時、あたしは最初から全力で行くことを決めている。



 ここまでずっとおあずけを喰らっていたんだ、もうリョカに止められようとも関係ない。

 まっすぐ進んでぶん殴り、目の前の敵を殲滅していく。



 平和的な笑顔を浮かべている面々の横で、あたしはただ、この牙と爪をといでいくのだった。

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