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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
18章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、その星に手を伸ばす。

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魔王ちゃんと大地の加護

「ったく、いきなり出てきてさもう! ミーシャと戦っていなよ!」



 ミーシャたちが飛び出して行き、ヴェインさんたちも降りていってしまい、後からやってきたのはジュウモンジとテッド様、そしてジュウモンジは僕の姿を視認すると同時に殴りかかってきた。



 この展開を予想していなかったわけではなく、むしろ……。



「テッド! テッド! どうして――」



「フィリアム様……」



 飛び出そうとしているフィムちゃんをスピカが抱きしめて止めており、僕はチラリと目をやった。



「ここには小さい子もいるので、出来れば穏便に済ませてほしいのですけれど」



「それは叶わぬ。そこの女神はそいつに渡し、スピリカには我の駒となってもらう」



「……そういう勝手は(まおう)の専売特許なんだけれど!」



「貴様と語る言葉など最初から持ち合わせていない。『集いし星の魂の極光(アストラルフェイト)武装煉業(ぶそうれんごう)』」



 衝撃が形になり、巨大な斧となっていく。

 すかさず僕はジュウモンジから距離を取り、小さく息を吐き出す。



「『絶慈・僕を愛して歌えや踊れアンリミテッドディーバ』」



 ミーシャとガイル、テッカの3クマを召喚し、振りかざされた斧にガイルクマの拳が衝突した。

 2人の攻撃は、衝撃で炎は巻き上げられて天井を壊し、辺りには爆炎が渦巻いた。




「だから小さい子もいるって言ってんでしょうが!」



 素晴らしき魔王オーラをジュウモンジに当てながら、僕はこの部屋に結界を張り、傷がつかないようにして、彼にテッカクマをけしかける。



「猪口才な!」



 アガートラームも出し、彼の視線を釘付けにしながら僕は意識をテッド様に向ける。



「……?」



 やはり違和感がある。

 僕はミーシャクマを連れて歩みをテッド様とフィムちゃんたちの間に進めていく。



「不敬だぞ」



「そりゃあ魔王ですから」



 少年のような可愛い声、こんな状況でなければフィムちゃんを交えて愛でていたのだけれど、それどころではないし、何よりも気になることがある。



 僕はミーシャクマを円卓の1つ触れさせるのだけれど、テッド様の目の色が変わった。



「それに触れるな! 貴様如きが踏み入って良い領域ではない」



「テッド、なんで……なんでよぅ」



 フィムちゃんがポロポロと涙を流している。

 本来なら今テッド様が言っていた通り、僕が踏み込むべきことではないのかもしれない。でも、もし僕の考えていることが正しいのであれば……そうやって星を穢しているのであれば、僕はきっと許さないだろう。



「リョカ=ジブリッド! 貴様を討ち、我は名実ともに最強の称号を手に入れる!」



 僕は振り返り、ジュウモンジを睨みつける。



「構わん、やれ。そいつは障害にしかならん。加護の使用とあれ(・・)も使え。お前にはそれくらいが丁度良いだろう」



「……」



 一瞬、ジュウモンジの眉が上がったみたいだけれど、彼はもう戻れない。

 この戦いの中心に立った時点で、それなりの罰は受けてもらう。



 ジュウモンジが動きを止め、目を閉じたから僕はクマたちを下がらせて彼との戦闘に移行する。

 そして戦いに意識を向けながら、僕はミーシャクマに何度も問いかける(・・・・・)

 これはミーシャの半身だ、だからきっと固める(・・・)ことが出来る。



「……『大地の魂の極光(プラネテスフェイト)地王魔凱(ガイアフォース)』」



 ジュウモンジの体に土……大地がまとわりつき、彼の体を上書きしていく。

 地は肉となり、化け物となったジュウモンジの体が大きくなる。



 タクトくんのチェイサーノートに似た加護なのだろう。

 ただ使われているのはフィムちゃんと同じように素質なのだろうけれど、加護の2つ掛けとか少しズルいのではないだろうか。



 そうして舌打ちをすると、ジュウモンジの背後の床が隆起して誰かが運ばれてきた。

 数人の女の子たち、彼女たちを見てスピカが声を上げた。



「ポアルン!」



「スピリカ……? あっ、スピリカ、フィリアム様! 早く逃げてください! この男は、こいつは――」



 テッド様が指を鳴らした瞬間、ポアルンと呼ばれた彼女とその後ろにいた女の子たちが苦しみだした。



 彼女たちは聖女か。

 そして彼女たちの意思の有無はわからないけれど、テッド様が指を鳴らして飛び出してきた大地に聖女たちが何かのスキルをかけている。



 なるほど、ジュウモンジの目的はこれか。



「これでいい、これで我は、我は――」



 大教会。

 聖女たちのスキルによって疑似的神域を形成し、信仰を無制限に近い量使えるというもの。

 グエングリッダーの聖女の性質上、彼女たちの大教会は他人の超強化だろう。



「ジュウモンジ! あんた今さらそんな力を得たところで無意味だってことわからないの!」



「……無意味ではない。力こそが全てだ、弱ければ弾かれる。弱ければ何も得られない」



 過剰な強化は肉体が耐えられない。

 でも今のジュウモンジは違う。多分あのテッド様の加護によって強化にも耐えられる肉体を得ている。



「聖女全否定じゃない! ミーシャにブッ飛ばされろ!」



 ベッと舌を出したスピカをジュウモンジが一睨みするけれど、彼女は睨み返した。

 あの子も大概強かな聖女だ。



 僕は小さく微笑むと、ジュウモンジに敵意を向ける。



「なら来なよ。あなたの言う強さで何でも奪い取れば良い。その先のことなんてどうせ考えてないだろうし、あなたはもう救えないよ」



 瞬間、ジュウモンジの姿が消えた。

 テッカの天神以上、絶影に近い速度――僕は瞬時に盾を生成し、彼の拳を防ぐのだけれど一発で盾が砕けてしまい、再度舌打ち。



「無駄だ。最早我を止められるものはいない!」



「言ってろ!」



 と、強がってみたはいいけれど、これ結構ヤバいな。

 そもそも僕は近距離での真っ向勝負に向いていない。スキル然り、戦い方も基本的には相手を翻弄するスタイルだ。

 でも今のジュウモンジはそのどれも力で蹂躙していくだろう。



 さて困った。

 でもここでやられるとスピカたちが……。



「他に意識を向けるとは随分と余裕だな。我はとるに足らないか魔王!」



「正直面倒とは思っているね」



 一撃必殺の拳に盾を壊させながら僕はミーシャクマの意識を手繰り寄せる。

 もう少し、もう少しで引っ張ってこられそう(・・・・・・・・・・)

 もっと落ち着いた場面でやりたかったよ。



「っと、繋がった!」



 僕は集中を切らさないようにしながらそれ(・・)の形を形成させる。



「『僕を愛して歌えや踊れアンリミテッドディーバ』」



 僕の手元には小さなクマが一体、それをフィムちゃんに向かって投げる。



「それを――」



 彼女に届いたクマに安堵していると、その暴力に捉えられた。



「終わりだ」



「マズっ」



 僕はミーシャクマにジュウモンジを一瞬攻撃させ、肩を竦める。



 ジュウモンジの拳が僕に届く刹那、小麦畑が目に映り、スピカに目を向けた。



「あとお願いね。それとスピカ、ごめんね――」



 ジュウモンジの拳が僕の腹部に届いた。



 拳は僕を打ち上げ、口中に血液が溢れていく。

 こんな風にやられたのは初めてだったか。



 意識が遠ざかっていく。




「リョカ、リョカぁ!」



 スピカには申し訳ないことをしてしまったな。

 そうして、僕は意識を手放すのだった。

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