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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
2章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、冒険者ギルドにて仕事を受ける。

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魔王ちゃん、勇者と手を結ぶ

「まったくこんなに切り傷を作って」



「大したことじゃないでしょ」



「大したことです」



 シートにソフィアちゃんを寝かせた後、ミーシャにお茶を手渡し、僕は青赤くなっている彼女の痣を撫でてため息を吐く。



「すっごい危険な戦い方をしているのは自覚してよ」



「はいはい」



 反省しているのかしていないのか。その表情からは読み取るまでもなく、反省していない幼馴染の額にデコピンを一回。



 膨れているミーシャだったけれど、これで少しは反省してほしい。

 と、戦闘が終わると、何故か離れていた2つの気配が戻ってきたことを察知した僕は、その2つの気配に目を向ける。



「どこ行ってたんですか?」



「なにが――」



「ほれ土産だよ」



 絶命しているクリムイーターを投げてきたのは、冒険者ギルドで出会ったガイル=グレックだった。

 力のある勇者だそうだけれど、何度も僕を倒すタイミングがあったにもかかわらず、何もしてこなかったことから少なくとも魔王絶対殺す主義ではないようだ。



 戦闘態勢に入るために立ち上がろうとしているミーシャの肩を掴んで座らせ、ガイルをシートの上に招く。



「テッカさん、でしたか? あなたもどうぞこちらに」



「……」



 ガイルさんの背後から突然現れた男に、ミーシャが肩を跳ねさせた。



「俺たちのことは知られてたか。って、そっちの嬢ちゃん、よく見たらカルタスさんところの」



「ええ、ソフィア=カルタスです。あなたたちのことは彼女から」



「なるほどな。ああそうだ、お前さんがくれたパン、美味かったぜ。ありがとうな」



 僕が微笑みを返すと、テッカさんがスッと何かの薬を手渡してきた。



「……傷に効く。そいつに使ってやれ」



「ありがとうございます。けれど――」



 ミーシャの頬が膨らんでおり、彼らの施しは受けないという強い意志を感じた。



「ありゃりゃ、随分嫌われちまってるな。それにしても嬢ちゃんは随分強いじゃねぇか。ギフトは何だ? ウォッシュマーを蒸発させるなんて荒業、然う然う出来るもんじゃねぇ。さぞ強力なギフトなんだろうぜ」



「ああ、驚きますよ。すっごいギフトですから」



 少し意地悪そうな顔を浮かべて僕は言ってみた。

 その言葉にガイルさんが得物を前にした狩人のように目を鋭くさせ、口角を小さく上げて嗤う。さてはミーシャと同じタイプだな。



「ぜひぜひ聞いてみたいねぇ、その強力なギフトとやらを」



「は? あたしはただの聖女よ。面白味も何もないわよ」



「そうかそうか聖女か……聖女? 誰が?」



「あたしが」



 戦闘狂みたいな顔をしていたガイルさんが、口をあんぐりとして僕にそれが事実なのかという視線を送ってきた。テッカさんも顔を引きつらせている。



「ね? 強力なギフトでしょう」



「いや、マジか。いやいや、お前さん癒しは?」



「何でどこの誰とも知らない奴を癒さなければならないのよ」



「……何故聖女になったんだ」



「あたしの幼馴染が魔王になったから、周りを黙らせるために」



「聖女様は僕のことが大好きらしくて――ってあぶなっ!」



 無言でパンチを繰り出したミーシャだったけれど、彼女がスキルを使っていないことに気が付いて首を傾げる。



「あれミーシャ、信仰パワーは?」



「さっきので使い切ったわ、今日はもう打ち止め。でもいい収穫だったわ、信仰は使用回数ぶん拳に乗せられる」



「うん、そっかぁ……」



 僕は焼き菓子をその場に広げ、ミーシャに手渡すと彼女から少し離れ、ガイルさんに耳打ちする。



「あのすみませんガイルさん、あなたは多分聖女の知り合いがいるだろうから聞きますけれど、聖女って使用回数を気にしなければならず、尚且つスキルに上乗せとかするギフトなんですか?」



「何人もの聖女に会ったことがあるが、あんな使い方は見たことねぇよ。え、ウォッシュマーを蒸発させた力って信仰なの? こわ」



「ですよね、僕も出来ませんでしたし――喝采・リリードロップ」



 ミーシャの手に癒しを施すと、ガイルさんが苦笑いで頭を掻いているのが目に映る。



「お前さん、聖女の素質まで持ってるのか。本当、底が知れない奴だな。っとあと俺のことはガイルで良いぜ、お前さんたちは?」



 手を差し出してきたガイルさん――ガイルの顔と手を交互に見た後、僕はその手を握った。



「リョカ=ジブリッド。よろしく」



「ミーシャ=グリムガントよ」



「……この国の重鎮じゃねぇか。どうなってんだこの国」



「大商人と聖都と王都の架け橋のご令嬢。意味がわからん」



 どこか釈然としていないながらも僕の手を取ってくれたガイルとテッカ。少し安心した、2人は会話が通る人物なのだと確信が持てた。



「ソフィアちゃんが起きるまでゆっくりしよう。何か聞きたいこともあるだろうし」



「リョカ、お前さん俺たちのことを計っているな?」



「襲い掛かるんなら出来ればミーシャとソフィアちゃんがいない時にしてね」



 ミーシャが反応して僕の袖を掴んできた。こういうこと、本当昔からよくする子なんだけれど、どうしてそれを育てずにゴリラになってしまったのかを研究したくはある。



「……魔王になって何したいんだ」



「ねえガイル、僕って可愛いでしょ?」



「は? ああまあ、見た目は可愛らしいな」



「ありがとっ、この可愛いにはたくさんの努力があるんだよ。寝る時間とか食事、適度な運動などなどのetc。でもね、これをやっている時、すっごく楽しいんだよ」



「お、おう?」



「可愛いを考えている時って楽しいの。で、その可愛いを誰かに教えてあげるとね、その人も楽しくなるんだよ。他のギフトでもよかったかもしれないけれど、僕は魔王が気に入った。だって誰よりも自分勝手でしょう? こんなことを言えるのだって世界で魔王だけだよ」



「……」



「魔王になって何がしたいかだっけ? 僕はね、世界に最も近くで、最も自分勝手な贈り物で、僕が可愛いことを知ってもらいたいだけ。あなたが今まで出会った魔王は、世界のことでも恨んでいた?」



「ああ、あれが悪いこれが悪いって聞きやしなかったな。お前さんは、この世界を――」



「愛しているわ、誰よりも」



 これは本心だ、僕が私だった時の世界と比べつもりもないし、比べるだけ無意味なのはわかっている。けれど私にはそれなりに恐怖だってあった、別の世界に住んでいた私が受け入れられるのか、昔と変わらず何も出来ないのか。

 けれど、そんな不安を感じさせないくらいには、僕はこの世界に馴染んでいる。きっと僕を取り巻く環境が、僕を巻き込んだ世界が、何よりも優しかったからだろう。

 だから僕は、この世界を愛したいと思った。ただそれだけ。



「テッカ、こりゃあ困っちまうな」



「ああ、俺たちに、まさか魔王を倒す理由がないと思わせるとはな」



「だな。ったく、せっかく楽しみにしてたんだがな。俺的には極悪非道であってくれても良かったんだぜ?」



「あら、僕はこの先も冒険者業に進むつもりですし、もしかしたら依頼の関係上、剣を交えることだってあるかもしれませんわよ」



「ほ~、今の内に唾でも付けといた方が良いなこりゃあ」



 大きな手で頭を撫でられ、中々の気持ちよさに喉を鳴らしてしまう。



「さって、ソフィアちゃんもそろそろ起きそうだし、帰ろっか? あ、ガイル、クリムイーターありがとうね、ミーシャが消し飛ばしたからどうしようかと思ってたんだ」



「あれは仕方がないわ」



「いいってことよ。おいミーシャ、今度俺ともやり合おうぜ」



「女子高生に言っていいセリフじゃないなぁ」



 僕はそんなことを呟き、ガイルがソフィアちゃんを抱えてくれたのを確認して帰りの準備を始めるのだった。

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