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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
17章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、その宵闇に踊る。

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魔王ちゃんと星の涙

 慰霊碑を後にした僕たちは、すぐにスピカとマルエッダさん、聖女の治める街・ミーティアまで進んだ。

 そして到着して、スピカたちも他の聖女たちに話すことがあるだろうけれど、僕はそれを遮ってすぐにフィリアム様に会いたいと告げて、今彼女がいるアストラルセイレーン本部最奥にある部屋の前に来ていた。



「何だかリョカ、慰霊碑を見てから随分と急いでいない? ミーシャ何か聞いた?」



「いいえ、でもあの子があそこまで必死になるのは多分ジュウモンジの目的がわかったからでしょうね」



「え? それなら教えてくれれば良いのに」



「……聞かせられないんじゃない。アヤメ、ルナ、あんたたちは?」



「いえ、わたくしは何も」



「俺もだな。あの慰霊碑、そんなに変だったか? 聖女の力が込められた普通の物だったわよ」



 後ろでみんなが喋っているけれど、正直これを、今この場にいるミーシャ以外の面々に聞かせて良いのか悩んでいる。

 僕とミーシャは完全によそ者だ、聞いたところで何も思わない。でもグエングリッダーに住むスピカたちやフィリアム様と関わりのある女神様、ルナちゃんとアヤメちゃんに話して良いことなのか。ここまで来てそれを決められないでいた。



 僕は目を閉じ、思考する。



「ねえマルエッダさん、あの慰霊碑、どのタイミング……どのくらいの周期でアルティニアチェインをかけ直していますか?」



「え? ええ、朝を300回ほど繰り返したくらいだと。フィリアム様がいらっしゃる時に」



「その時は聖女だけでかけ直すんですか?」



「いいえ、フィリアム様も何かしているようでしたけれど」



 僕はルナちゃんたちに目を向ける。



「あの子が出来ることって、なにかありましたっけ?」



「いや、あいつ自身あまり力のある女神ではないからな。出来ることといやぁ物体の静止か?」



 ビンゴ……つまりはそういうことなのだろう。

 僕は改めてルナちゃんとアヤメちゃんに目を向ける。



「この国の、フィリアム様の聖女様が出来るのは強化が主ですよね?」



「はい、人物の強化や、さっきスピカさんがやったような事象にも効く。と言うのは初めて知りましたけれど」



 僕は顔を歪め、奥歯を噛みしめる。

 ならばすべて納得がいく。

 慰霊碑を壊したのも、スピカをペヌルティーロに連れて行ったのも、わざわざ人さらいに扮してあそこで戦いを起こした(・・・・・・・)のも。



「……月神様、もしかしてペヌルティーロの海上、そこでフィリアム様の女神特権が使われたのではないですか?」



「え? あっと――ええ、そうだと思います」



「リョカお前変だぞ?」



「最後に、ルナちゃんとアヤメちゃん、2人はこの国に入って何か違和感がありませんでしたか?」



 2人が首を傾げる。

 僕はチラとミーシャを見る。

 このケダモノの聖女に慣れ過ぎていた。慰霊碑を壊れた時最初に気が付くべきだったんだ。



「大教会か」



「え?」



「リョカお前なんて?」



「この国に入った時に気が付くべきだった。この国の信仰はやたらと多い。いや違う、国全体に神域が形成されていた。マルエッダさんは知っていましたよね?」



「……どうしてそう思うのですか?」



「スピカが弱すぎる。それに対して国の人は聖女様への信頼が厚いことにギャップ……格差を感じていた。つまり僕たちが来た時――慰霊碑が壊された時、普段の聖女様の力は発揮できない状態だった。けれどそれを聖女様が知るすべはあまりない。何故なら強化は彼女たちに付与されないから」



「……」



「さっき戦った時、スピカの強化があまり強力じゃなかったから、少し考えてみたの。慰霊碑のアルティニアチェイン、そんなの、大教会を作るためのものでしかない。でもそれを全員が知らないのは無理がある。少なくとも術をかける人が1人でも知らないと疑心に変わってしまいますから」



 それともう1つ、この国に入った時に何が起きたのか。

 ミーシャの暴走だ。アヤメちゃんは溢れた感情が信仰に変わりきらずに起きたと言っていた。

 でも違う。逆だった。信仰があまりにも多かったから、ミーシャの感情が入り込めなかった。元々たくさんの信仰を使うケダモノの聖女が、本来の手順の大教会の上でバグを起こさないわけがなかった。



 僕は1歩前に進むと、振り返ってマルエッダさんに目を向ける。



「ごめんなさい。フィリアム様には、1人で会っても良いでしょうか?」



「……理由を伺っても?」



「マルエッダさんがどこまで聞いているかはわからないですけれど、これはきっと、あなた方には聞かせたくないことだと思ったので」



「おいおい、俺たちは同じ女神よ。話を聞く権利が――」



「ダメなんです。アリシアちゃんとの約束を守るためには、ルナちゃんとアヤメちゃん……月神様と神獣様には聞かせられないです」



 ルナちゃんとアヤメちゃんが顔を見合わせている。



 そうして各々が困惑していると、僕は1人部屋の扉を開けようとする。

 けれど、それは聞こえてきた声で遮られた。



「銀色の、月を浴びる銀の魔王様、ありがとうございます。きっと、私を気遣ってくれているのですよね」



 ルナちゃんに負けず劣らずな綺麗で可愛い声、でもどこか声が震えており、僕はさらに顔を歪める。



「ルナおねえ――ルナ様、アヤメ様も、それにスピリカ、マルエッダ、ブリンガーナイトの皆様もどうぞ」



「良いんですか?」



「……はい、私が、私の責任です」



 扉がひとりでに開き、中には深く頭を下げた小柄な女の子。綺麗な白い髪に、クリクリとした大きな目は赤く、瞳孔は何となく星柄。元気いっぱいのアホ毛に腰まで伸びた髪。



 こんな状況じゃなければ今すぐにでも抱き締めに行きたいところである。



「フィリアム、久しぶりですね。元気にしていましたか?」



「おうフィム、お前一体何を隠してやがるのよ」



「アヤメ」



 ルナちゃんがアヤメちゃんを咎めるけれど、フィリアム様はうつむいたままである。そして僕に助けを請うような目を向けてきて、僕は息を吐く。



「フィリアム様、この騒動……いえ、ジュウモンジは、エクリプスエイドを起こそうとしていますね?」



「え?」



 スピカだけでなく、グエングリッダーの面々が驚いていた。

 けれどすかさずアヤメちゃんが首を横に振った。



「おいおいリョカ、それは人の身では無理よ」



「人の身?」



 スピカが首を傾げる。

 マルエッダさんにも目を向けるけれど、彼女も初耳なのか、思案顔を浮かべていた。



「スピカ、エクリプスエイドは女神様が起こしたんだよ」



 スピカが口を開けたまま絶句した。

 でもここで取り乱すような子ではない。彼女は首を振り覚悟を決めたのか、ジッとフィリアム様を見つめる。



 けれど意外だったのは、ヴェインさんが一切動揺していない。アリシアちゃんに聞いていたなこりゃあ。



「ええ、リョカ様の言う通りです。エクリプスエイドを起こしたのは、私の……いえ、テッドという女神です」



「どうしてそんな」



「わかりません、私は最後までわからなかった。ずっと一緒だったのに、あの子の気持ちが一切わからなかったんです」



 泣きそうになっているフィリアム様。けれどルナちゃんがスピカの体に触れ、口を開いた。



「ですけど、その女神をフィリアムは倒したのです。だから――」



「違うんだよルナちゃん」



「え?」



 僕は薬巻に火を点し、煙を吐き出して宙で遊ばせる。煙が天に上がっていくのと同様に、顔を上げて僕は口にする。



「フィリアム様、テッド様を倒していないでしょう?」



「――っ」



 フィリアム様が肩を跳ねさせ、ついにはその大きな瞳からポロポロと涙を流した。



「フィリアム、あなた」



「……おい、そうなると話が変わってくるわよ」



「ええ、ジュウモンジ陣営にテッド様はいる。魔物の増加、突然の発生、人の身ではあり得ないことです。なら誰が出来るか」



「女神ですね」



 ルナちゃんの言葉に僕は頷く。



 するとついに泣き出してしまったフィリアム様が、何度も何度もごめんなさいと声を上げた。



 そんな彼女を横目に、僕はスピカとウルミラに目を向ける。



「エクリプスエイドを起こした女神様はね、フィリアム様と仲の良かった女神様だそうだよ。女神さまたちの間で、テッド様を倒すことが決められ、フィリアム様は女神特権を使いテッド様を……」



 スピカもウルミラも顔を伏せる。

 2人は家族を失っている。だから思うところも言いたいこともあるのだろう。



 みんなの顔が沈む。

 どんな感情を抱いているのか、僕には推しはかることしか出来ない。時間をかけて癒していくのか、それともここでフィリアム様を責めるのか。



 正直、誰がどんな行動を起こすのか、僕には予想もつかない。



 そんな僕の横目に映ったのは……我らの聖女、ケダモノの聖女が星の女神様に近づく光景だった。

 僕は驚き、何度も経験したこの流れに顔を青ざめる。



「ふん!」



「ふぎゅ!」



「何やってのぉミーシャぁ!」



 頭をはたかれ、床と熱烈キッスをかましたフィリアム様が涙目でミーシャを見上げる。



「で、あたしは誰をボコボコにすればいいのよ。ジュウモンジはぶっ殺していいのよね?」



「えっ、あ、はい」



「そう、なら問題ないわ。ジュウモンジはぶっ殺す、出てきた魔物もぶっ殺す、そのテッドとかいう女神もボコボコにする。解決ね!」



「おいコラゴリラぁ! そんな単純な話じゃないでしょう。エクリプスエイドでは人生すら変わってしまった人がたくさんいるんだよ。そんな割り切れるわけ――」



「知ったこっちゃないわ! そこのスピカも、ウルミラも、そんなことがあっても自分で立って歩いてきたのよ、今さら後ろ向いて歩くわけないでしょうが。それにマルエッダやヴェイン、ブリンガーナイトが何とかしてきたんでしょう? 今さら歩んできた軌跡を否定なんてさせるわけないでしょうが」



 胸を張る幼馴染に、僕はため息を吐き、鼻を押さえているフィリアム様に近づき、彼女を抱きしめる。



「痛かったですよね。うちの聖女が本当にごめんなさい」



「う~――」



「何この子カワよ。あっ違う」



 腰に腕を回してひたとくっ付いてくるフィリアム様に、つい声を漏らしてしまった。



 僕は胸を張る聖女様に目を向けると、肩を竦めてフィリアム様の脇に手を入れ高い高いするように持ち上げた。



「まあ、実際はミーシャの言う通りなんですよね」



「えぅ?」



「フィリアム様、僕はアリシアちゃんにあなたのことを任されました」



「あーちゃんに?」



「あーちゃんって呼んでいるんですか? 僕も呼ぼう。と違くて――フィリアム様、あなたは運が良い」



 周りを見渡してみると、ミーシャの圧に顔を引きつらせていたのだけれど、ついには諦めたように肩を竦めていた。

 僕はフィリアム様を床に下ろすと、ミーシャの隣に並ぶ。



「何とここに、都合よく女神様からも戦かれる魔王と聖女がいます。大量の魔物だろうが、女神様だろうが退けられる戦力がここにあります」



「――」



 僕はスピカとウルミラに目を向ける。

 すると2人が小さく頷き、フィリアム様に近寄って彼女をそっと抱きしめた。



「もう、本当に勝手な魔王と聖女ね。でも今日のフィリアム様は特別可愛いから何でも許しちゃうわ」



「ですね、うちの女神様すっごく可愛いですよね」



「あぅあぅ、スピリカぁウルミラさんも」



 僕は微笑んでスピカとウルミラ、フィリアム様に見ると、ルナちゃんが小さくウインクをしていた。

 少し考え込むと、アリシアちゃんがやったような霧がかった感覚がしており、きっと別の女神様に見られないようにしてくれていたのだと察する。



 僕もルナちゃんにウインクを返すと、アヤメちゃんが盛大に肩を落としていた。



「まったく、お前たちについて行くと本当に飽きないわね」



「何だかんだアヤメも楽しんでいますよね」



「まあね。おいフィム、俺たちに尻拭いさせんだ、ちゃんと礼を用意しておきなさいよ」



「は、はい! アヤメお姉さま」



「は? お姉さま呼び? アヤメちゃんにお姉ちゃん属性はないよ」



「お前喧嘩売ってんな? 買ってやる、ちょっと表出なさい」



「ミーシャを特殊召喚!」



「その聖女出すのやめぇや!」



 様々な思惑も割り切れない想いもあっただろうけれど、今はとにかく同じ過ちを繰り返さないために僕たちは尽力することを決めた。



 それに何より、僕的にはあんな可愛らしい星神様が泣いてばかりいるのは許せない。

 彼女にもきっと笑顔が似合う。

 だからこそ、彼女が納得するハッピーエンドを目指さなくてはならない。

 それがどんな結末になろうとも、僕は魔王だ、アイドルだ。目の前の可愛い子の顔を曇らせるわけにはいかない。



 そんな決意を抱き、僕はこれからのことを決めようと動き出すのだった。

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