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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
17章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、その宵闇に踊る。

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魔王ちゃんと星の止まった跡

「ほんほううひすひまふぇんへひは」



 本当にすみませんでした。と、発していると思う。

 前が見えねぇ状態になっているヴェインさんの顔に、濡らした聖女の力の込められた布を当てていると、女性陣が宵闇の極星を睨みつけていた。



「もうミーシャ、やり過ぎ」



「どう考えてもそいつが悪いでしょう」



「ですです」



「ルナちゃんも……あれ女神特権ですよね?」



「テルネに許可はもらいました」



 僕は膝の上のルナちゃんをきゅっと抱きしめると、ヴェインさんに謝罪をする。



「い、いや、悪いのは俺だから。本当に申し訳ない。こういう時、どう責任をとったらいいのか俺にはわからなくて」



「いえ、そんな重く捉えなくても。それに責任で言うのならそんなにボコボコにされているんですから」



「リョカ甘いわ。この男は何度もやるわよ」



「ですね、私もボスが何度反省しても女性に触れるのを止めないのは知っています」



「……ウルミラ、ウルミラ、それは語弊がある」



 スピカとウルミラに責められ、シュンとするヴェインさんを撫でながら、僕は状況を確認する。

 今僕たちは闘技場での戦いを終え、スキルで動く荷台……馬車? に揺られてスピカたちの本拠地を目指している。

 車内はそこそこ広く、座席はフワフワで乗り心地は良い。

 けれど先ほどのことで空気はあまりよろしくない。



 僕はもう気にしていないのだけれど、周りがどうにも過敏になっている。



「リョカさん、本当にこの程度で良いのですか? 私がフィリアム様に頼んで極星の加護をはく奪することも出来ますよ」



「いやいや、もうみんなが罰を与えてくれたし、僕がいうことはないですよ。わざとじゃないですし、反省もしていますし、それに今ヴェインさんが極星じゃなくなるとそれも面倒なことになりますし」



 極星はく奪というワードが出てきて顔を真っ青にしながら涙目になっているヴェインさんを一撫でし、僕は大きく伸びをする。



 そして一度息を吐くと、ヴェインさんに改めて目を向ける。



「それでヴェインさん、あなたが知るジュウモンジ=ミカドについて聞きたいのですが、僕に戦いを挑んだのも、今のあなたでは彼に勝てないと自覚しているからですよね?」



「……」



 ヴェインさんが顔を伏せ、頭を掻いた。

 そして深くため息を吐くとその通りだと話した。



「元々俺とはそりが合わなかったんだけれど、完全に袂を分かったのはエクリプスエイドだね。自分で言うのもあれだけれど、俺はあの惨劇の日、とにかく1人でも多くの人を助けたくて行動した。でもジュウモンジは違う。あいつはあの事件で、とにかく名声……いや、自分が最も強いことを証明しようとしていた」



「そんな緊急事態に、強さなんて証明しても高が知れてると思うんだけれどなぁ」



「ええ、リョカさんの言う通りです。確かにジュウモンジは魔物を大量に倒しました。けれど実際に評価され、強者だと認められたのはヴェインとブリンガーナイトの人たちでした」



「でしょうね。人の目に好意的に映っていたのはどう考えてもヴェインさんですし」



「そこからの彼の荒れようは酷いものでした」



 僕は少し考え込み、傍でお菓子を頬張っているアヤメちゃんの頬を指で突いた。



「あによ」



「ランガさん、あなたはジュウモンジのことを詳しく知っていますか、同郷ですよね?」



「いえ、私はあまり……ですが、お館様は何度か会う機会があったはずです」



 僕がアヤメちゃんに目を向けると、彼女は察してくれたのか食べ物を飲み込み、目を閉じた。



「ん、繋がった。リョカ、俺に触れなさい」



 僕はアヤメちゃんに触れると、声が聞こえてきた。



『ん、リョカか? 何か用か』



「うんごめんね。今忙しかった?」



『授業中だ。セルネとカナデが大型植物の魔物に喰われている』



「そっかぁ。元気そうで何より」



 多分カナデが不用意に植物に近づいてセルネくんがカバーに入った末に喰われたんだろうなと想像し、僕は和んだ。



「それでねテッカ、ちょっと聞きたいことがあるんだけれどいい?」



『ああ構わんが、お前たちは順調か? 何か面倒事に巻き込まれていないだろうな』



「巻き込まれてますぅ。それでその中心にいるのがジュウモンジ=ミカドっていう人なんだけれど、知っている?」



『ジュウモンジ? またえらく懐かしい名前だな。あの自己顕示欲の塊、そっちにいたのか』



「自己顕示欲の塊?」



『あいつは一応、ベルギルマの元領主の一族でな。強い国を作ることを何より重きを置いていた一族だ。まあ何分強引な手ばかり使っていたから、ベルギルマの連中からも愛想を尽かされて俺が子どもの時にはすでに国を出ていた。それでも未練があったのか、何度か親父や俺に会いに来ていたがな』



「それでなんで自己顕示?」



『何故ってお前、あいつは強さを誇示することでしか生きられないからだ。それはつまり、誰かに認めてもらいたいというものだろう? 何度か会った時もやれ我が強い、我がいれば争いはなくなるだの、そんなことばかり口にしていたぞ』



 なるほど。そういう教育を受けて育ってきたのか、本当に自分が世界一強いと勘違いしている人なのか。どちらにせよ、彼がテッカの言う通りの人物であれば今回の騒動もそれが動機なのだろう。



 では手段は何か。そこはピースはまだ持っていない。



『お前たちは目を離すとすぐこれだ。今度はどんな厄介ごとだ?』



「聖女誘拐に、極星に襲われる始末でございます」



『極星……星神様の加護を得た12人か。それならヴェインと言う男を頼れ、昔依頼でガイルとも一緒になったことがある』



「そのヴェインさんはさっきミーシャに顔面へこまされていました」



『すでに接触済みか。ランガがいるだろう? あれは中々に有能だ、使ってやると良い』



「うん、ありがとうテッカ」



『ああ、土産話、期待しているぞ』



 そう言って、テッカとの通信が切れた。

 彼の話を頭の中で纏めていると、ヴェインさんが複雑そうな顔をしていた。



「テッカがヴェインさんとランガさんを頼れってさ」



「ねえ今、余計なこと言っていなかった?」



「言っていないですよ。2人と知り合いだったんですね」



「ああうん、以前依頼でね……」



 遠い目をしている。

 きっとガイルの無茶振りに付き合わされたんだろうな。



 と、僕がテッカからの話をしようとすると、マルエッダさんが到着したと教えてくれた。



 けれどそれは彼女たちの本拠地ではなく、すでに荒々しく破壊された石柱の跡だった。



 僕が来たかったのはここ、慰霊碑だ。



 僕の予想が正しければ、ここには大事な情報がある。

 だからこそ一度だけ見ておきたかった。



 きっと星神様はルナちゃん……月神様や神獣様のように強くはないのだろう。

 だからこそ、それをするしかなかった。どうやったのかは彼女を見ないとわからないけれど、それでも多分、妹気質でルナちゃんたちからは未熟に映る女神様が選んだ選択は何となく理解できる。



 僕は見えてきた慰霊碑跡に、顔を歪めることしか出来なかったのである。

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