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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
17章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、その宵闇に踊る。

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魔王ちゃんと決着、夜を運ぶ騎士の極星

「アヤメ、アヤメ、見てください。あれが今期最大のわたくしの信徒ですよ」



「……見てるわよ。あの魔王、一部の空間を世界ごとひっくり返しやがったわね。女神ですらできない芸当をよくもまああんな簡単に」



「あ、あの、あれは一体?」



「転界、リョカさんの第5スキルです。本来転界とは世界を切り替える。といえば強力なスキルのように聞こえますが、実際の使い道は聖女が作った聖域を侵したり希望に溢れた場所を絶望に変えたりと精神に利かせる程度の物でした」



「けれどあの魔王は違う。世界を変えると言う部分だけを切り取って、夜を創り上げやがった」



 ルナちゃんとアヤメちゃんが説明してくれたから僕がいうことがなくなってしまった。

 とはいえ、それで納得してくれたかは別だけれど、事態を飲み込んだヴェインさんとランガさんが額に脂汗を流しながら剣を握った。



「まだまだ未完成な部分があるけれど、これなら全力で行けますよね?」



「……これで未完成か。君は本当に恐ろしいな」



「ええ、お館様がどうあなたと過ごしていたのかわかりませんが、相当苦労していたのではないでしょうか」



「いやテッカはミーシャ担当だから――」



 僕が2人に笑顔を向けると、やっと自覚してくれたのか、ランガさんの姿が瞬時に消えた。



「如月流飛礫三式・白雨」



 僕は上空を見上げる。

 そこには風が渦を巻いており、その渦に向かってランガさんがめちゃくちゃにクナイのような短剣を幾つも投げ込んだ。

 するとその短剣が風に巻き込まれ勢いよく僕に向かって降り注いでくる。



 僕はそれを躱すけれど、短剣がどこまでもついて来てどうにも厄介。そして何より――。



「良い夜だ。ここまでお膳立てされて星も輝かないようで何が極星だ……『夜を想いし死を嘆けナイトメアナイトエンド』」



 途端、ヴェインさんの剣が大きく口を開き、耳ざわりな声を発した。

 その声に僕は足を止めてしまう。

 幾つもの死の光景が頭の中に入り込んで不快に足を止めてしまう所謂精神攻撃。



 僕は顔を歪めながら現闇を引っ張ってきて、闇の壁でランガさんの技を防いだけれど、飛び込んできたヴェインさんと目が合い、舌打ちを1つ。



「君のその表情を引き出せたことを誇るべきなんだろうな」



「もっと可愛い顔を引き出してほしいものですけれどね」



 ウインクをしてそう言い放ったヴェインさんがそれなりに小賢しい。

 しかし僕が息を吐くのも束の間、ヴェインさんが気持ち悪い剣を投げ捨て、腰の剣を抜いた。



「『剣王一閃』――」



 なんだ、ヴェインさんの雰囲気が変わった。

 剣王一閃――このスキルは知っている。確かギフト・剣輝だったかな。




 でも違う。

 クラスメートにもこのギフトを扱う子がいた。だからこそ僕は侮ったのかもしれない。



「とった」



「っつ」



 間合いを読み間違えてはいない。でもそれは僕の首を的確に狙って来た。

 これ対応しなければ普通に首落ちるな。



 そんなことを思いながら、僕は腹部に小さな膜爆弾を生成し、それを爆発させて剣から逃れた。



「あっぶな。と言うか妙な感覚がしたな」



「まさか避けられるとはね」



 いつの間にかランガさんの技も止まっており、2人が僕の目の前で並んだ。



 これは随分と厄介だ。

 ヴェインさんの第2ギフト、剣輝か。そこまで剣の扱いが上手いとは思っておらず、少し驚いた。



 でもそれだけじゃない。

 僕は深呼吸をし、次でそれを見極めることに決めた。



「やっとらしくなってきたし、もうちょっと速度上げていくよ」



 ヴェインさんとランガさんの傍に膜爆弾を生成する。けれどさっきまで反応が遅かった宵闇の極星がハッとなったのがわかる。



「ランガ走れ! あれに捕まったらヤバい!」



 おや、ヴェインさんの反応速度が上がっている。

 それだけじゃないな。



 膜爆弾が形成されるよりも早く2人が駆けだした。

 その速度は今日1の速度で、僕は驚きながらも指を鳴らし、現闇を表に出して2人の進路を妨害する。



 前方からの魔王オーラと現闇、アガートラームを躱し防ぎつつ、背後からは膜爆弾を追わせている状況、2人はそれをなんとか対応しているようだけれど、僕も駆け出して踊るように攻撃を繰り返す。



「それじゃあこれはどうかな」



 ヴェインさんとランガさんが魔王オーラを躱したけれど、僕はその躱された魔王オーラをさらにグリッドジャンプで飛ばして再利用。そこからまた魔王オーラを指からはじき出し、舞台上では闇と爆発とレーザーと大量の不可視の刃で覆われた。



「ああもう! こんな戦場、やけくそになるしかないだろう!」



「全くですね! ボス恨みますよ、私は副官として後方でのんびりしていたかったのですよ」



「なら戯れに戦いを提案した甲斐があったな。ランガが出張ってくれるのなら俺も楽できる」



「イチャついている余裕ありますか」



 僕はアガートラームをくっ付けて、上空から巨大なレーザーを射出する。

 けれど2人の速度がさらに上がり、僕への間合いを詰めてきた。



「『剣王秘剣』」



「如月流飛礫二式――滝登り」




 僕の足元に風の流れが形成され、そこにランガさんが踏み込み、弾けた風と共に彼の脚が僕の顎を目掛けて放たれる。



 僕はそれを現闇で覆った手で防ぐけれど、衝撃で宙に浮いてしまい、防御態勢が取れない。

 そして次に来るのは――。



 浮き上がる僕を追撃するように待っていたのはヴェインさんで、彼の瞳が戦闘圧で鋭くなる。




「これで――」



 そこで気が付く。

 どうして彼が突然強くなったのか。

 彼が纏う加護、それは今までのアリシアちゃんを思い出せば当然のもので、その加護からは彼女のどうにもならない想いを感じられた。



「月の特攻か」



 さてどうするべきかな。と、僕は最早諦めムードで思案していると、飛び出てきたヴェインさんが足をもつれさせた。



「あっ――」



 彼が声を上げたのも束の間、宙に浮いている僕を巻き込んでそのまま、地面に押し倒されてしまう。

 こんな場面でも彼の体質が発動するのかと驚くけれど、どうにも口元が暖かい。というか息苦しい。

 呼吸が上手く出来ていない気がする。



 そして目を開けると、そこにはヴェインさんの顔が間近にあり、僕は察してしまう。



 彼が目を開けたのがすぐ傍だったからわかる。

 周囲のドン引きな空気がここから出もわかる。どこかのゴリラ聖女様の殺気がここからでもわかる。



 宵闇の極星が顔を真っ青にして体を震わせ始めた。



「ぼ、ボス」



 ランガさんの呆れたような声、そしてヴェインさんが震えたまま僕の唇から口を離し、立ち上がって数歩後退すると、そのまま一度上に飛んで、土下座文化などないにもかかわらずその場で膝を曲げて地に付けて頭を舞台に擦った。



「すみませんでしたぁ!」



「う~ん……初めてだったんだけれどなぁ」



 ヴェインさんの顔がさらに青白くなった。



 とはいえ、この後の彼の惨劇を思えば僕が手を出す必要もなく、僕は少し照れた顔で彼の背後を指差す。



「へ――?」



 そこにはミーシャを先頭に、スピカとウルミラ、ルナちゃんまでもおり、それぞれがスキルを発動させようとしている中、月神様の姿が変わった。

 あれ女神特権では?



 ヴェインさんから血の気がどんどん失せていくのがわかり、彼がずるずると後退する様を見ていると、ランガさんが手を差し出してくれて起き上がり、僕の背には何故かマルエッダさんが上着をかけてくれた。



 こうして、今日一の破壊力がヴェインさんに放たれたことで、僕とブリンガーナイトの極星との戦いが終わりを告げたのだった。

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