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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
17章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、その宵闇に踊る。

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魔王ちゃんと極星の実力は如何に3

「ボスたち、大分押されていますね」



「こっちもだけれどね。というかミーシャが目立っていてあまり実感がなかったけれど、やっぱりリョカも強いわね」



「あんたたちよそ見している暇あるの?」



 ミーシャの拳をスピカとウルミラが水の盾によって逸らした。

 最初の時と違い、ウルミラは水を拳を受け止められる最小まで少なくしており、スピカもそれに合わせてリーブアルゴノーツを小さくしていた。

 止めることは不可能だと見切りをつけ、少ない消費で攻撃を逸らすことを覚えたようだ。



 やっぱり実戦経験を積むと、一気に成長できるだけの土台は作られている。

 ならばこそもう少しヴェインさんには頑張ってもらいたいところ。



 僕は彼に目を向けると、ヴェインさんが嫌そうな顔をした。



「魔剣解放・アガートラーム!」



 宙に幾つか出した魔剣から次々とレーザーを射出する。

 ヴェインさんとランガさんはそれを躱していくのだけれど、僕はそれにさらに指を鳴らして彼らを追い込む。



「手数が多すぎる! これじゃあ本当に近づけない」



「なにか隙があれば……」



 もっと魔剣を増やしてもいいんだけれど、これ以上だと本当に近寄れないだろうからなぁ。



「リョカさんもっと魔剣を増やしてもいいんですよぉ!」



「まだ増えるのですか?」



「あれ少ない方だぜ。不死者が出てきた時は空を覆うほどの数だったな」



 ルナちゃん実はヴェインさんを殴りたくて仕方がないのでは。というのはいったん端に置いておいて。

 アヤメちゃんもあまりそういうことを言わないでほしかったかな。



 それを聞いたからか。ヴェインさんが少しむっとした顔を浮かべた。



「手を抜かれているとは思っていたけれど、それほどか……ランガ、出し惜しみはなしだ。これ以上は極星の沽券にかかわる」



「ええ、魔王に尻尾を巻いて背を向けたとなれば我らの信用も地に落ちるでしょう」



 やる気になってくれたようだけれど、僕は今のところ悪いことをしている魔王ではないんだけれどね。



 そしてヴェインさんが使っていた剣を鞘に戻した。

 これは様子見だと魔剣の攻撃を大人しくする。



「これほど苛烈な戦いになるのなら、夜に誘うべきだったな」



 アリシアちゃんのギフト選定を受けた夜の神使、そりゃあ加護も夜に発動するのか。



「唸れ、叫べ――『夜を歩み死に叫ぶ(タナトスロード)』」



 自身の胸元を叩いたヴェインさん、その叩いた箇所から柄が出てきた。

 そして彼がそれを引っこ抜くと、それはお世辞にも綺麗とは言えない悍ましい剣だった。



「死神様にも、極星であるんだからそんな綺麗じゃないものは使わない方が良いと言われていたけれど、あなた相手ならきっと許してくれるだろう」



「わたくしは許しませんよ?」



「おいルナ、黙ってろ。お前あいつに当たりが強すぎるだろ」



 あとでルナちゃんを撫でてあげよう。

 さて、ヴェインさんが取り出した武器だけれど、明らかに鉱物で出来ていない。

 その剣はうねうねと動いており、目玉がギョロギョロしていて終いには「ぎいゃぁぁ!」とか叫んでいる。



 普通に気持ち悪いデザインだなと呆けてみていると、その剣がしなって伸びてきた。

 僕はスッと半身ずらすことでそれを避けて、ヴェインさんに抗議の目を向ける。



「こんな可愛い女の子になんてものを向けてくるんだ」



「可愛らしい子ではあるけれど、可愛げはまったくないよね。と言うわけで容赦はしない! 少しばかり夜と戯れてもらうよ!」



 およそ不死者で出来ている剣を次々と振りかざすヴェインさんに、僕はため息を漏らす。



「今まで、絶気、喝才と続けてきたわけだけれど、それじゃあ次は……レッスンその3、足元注意ってね」



「は――?」



 現闇によって辺りにわかりやすい闇の罠を設置した。



「今回は難易度低めで見えるようにしておいたから踏まないようにね」



「まだ増え――」



「上からも下からも左右からも……君は本当にえげつないな」



「本当の理不尽というものも見ておきます?」



「遠慮しておこう!」



 ヴェインさんの剣が意思を持っているかのように現闇を、魔剣を、魔王オーラを抜けて僕を切り裂こうと迫ってくる。

 けれど僕は戦闘開始時と変わらない位置で現闇の拳でそれを弾き返す。



「その調子じゃあいつまで経っても僕に近づけないですよ」



 と、ヴェインさんとランガさんが攻めあぐねている様子を横目に、僕はミーシャたちに意識を向ける。

 あちらもまた、ミーシャの攻撃を防ぐことしか出来ず、攻撃に転じることが出来ないようで遠目からでも苛立ちが募っているのがわかる。



 ここは少し、こちらからアクションを起こして行動の幅を引き出してみるか。



 僕はクスりと声を漏らすと、スピカに向かって指を鳴らす。



「え、なに――」



「爆発するわよ」



 以前アルマリアにも使った座標転移爆弾。

 威力は抑えてあるけれど、どう動くだろうか。



「ちょっ! 爆発って」



 ピピピと機械音を鳴らし、魔王オーラの膜の中でスピカが焦っているのがわかる。



「スピカの奴、大分焦っているわね」



「あれは一体何ですか?」



「あれはリョカさんの第1スキルに金色炎の炎を流し込んだ膜の爆弾を、グリッドジャンプで転移させたものですね。アルマリアさんでも連続グリッドジャンプでなんとか躱せていたものです」



「……彼女、一体いくつの技と言うか、最早スキルですねあれは。それを使用するのですか?」



「俺たちでも把握していねぇよ。ミーシャはわかりやすく強いけれど、リョカは本当に底が見えない強さなのよ。だからいつも新鮮な戦いが観られるな」



 女神さまたちの冷静な解説に、スピカが頬を膨らませる。



「2人とも絶対面白がっているわよね! あとでリョカ作の着替え無理やり着せてランガに叩きつけてやるんだから!」



「傷を負うの俺だけじゃないの!」



「スピカさんも大分わたくしたちのいることに慣れてきましたね」



「……なんというか、本当に申し訳ありません」



 みんな楽しそうだな。

 さて、一応抜け道は作っておいたけれど、スピカはあれをどうやって防ぐのだろうか。



「ああもう! 私箱入りなんだから――でもやるわ、やってやるわ! このままリョカとミーシャにコケにされているのは癪だもの」



 スピカが大分はっちゃけている。

 でもその調子。こういうことは勢いも大事で、その箱から抜け出すチャンスなのだと、僕は微笑みながら見守る。



「なんか生暖かい目で見てきているけれど、リョカは後で話があるから覚悟しておきなさい。それで、聖女のスキルは基本的に自分には干渉できない。ミーシャがやっているのはただ信仰の出力が異常なのとスキルの曲解、出来ることと出来ないことの線引きを曖昧にしている」



 スピカがブツブツ呟きながらも頭をフル稼働している。

 賢い子だからきっと何か思いつくだろう。

 ただ時間はない。



 徐々に機械音の間隔が短くなってきており、もうすぐで爆発しそうになっていた。



 ウルミラもスピカを救出しようとしているけれど、現在1人でミーシャの拳を防いでおり、動くことが出来ない。



「スピカさん!」



「……ミーシャに出来ることが私に出来ない道理はないわ。私が出来るのは強化の奇跡、でも私自身の強化は不可能、なら何が出来る、私には何が足りない――いえ、違う。私に効かないのなら!」



 スピカが両手で丸を作り、そこに口を添えた。

 そしてプッと可愛らしく鳴いたと同時に、彼女が噴き出した空気が()となって膜に刺さった(・・・・・・・・・・)



 あれは。



「ほお、自分が噴き出した空気を強化(・・・・・)したか」



「あれ、センスフォルトの領分では?」



 けれど正直エアーエアーよりも威力があり、しかも信仰に比例しているからセンスフォルト涙目なスキル運用ではある。



 そしてスピカは膜に次々と楔を打ち、そして両手を広げて思い切り空を扇いだ。

 彼女が振った風は超強化されて威力を増し、僕が作った膜を内側から粉々に粉砕した。



「ウルミラ、水!」



「はい!」



 ウルミラが周囲に水を撒き散らすと、それを手で掬い取ったスピカがそれをミーシャに投げつけた。



「――っ!」



 ケダモノの聖女が、初めて自ら攻撃を避けた。

 けれど星の聖女は攻撃を止めない。



 ミーシャが動いた先に腕を大きく振った。



 風の塊がミーシャに直撃し、僕の幼馴染が一瞬顔を歪めた。



「よし!」



「やりました!」



 スピカとウルミラがハイタッチしている。

 けれどそんな呑気している場合ではない。



 ほらうちのケダモノ、とても愉快そうなオリジナル笑顔浮かべているもの。



 極星のヴェインさんと、殺し屋一族のランガさんが目を逸らすほどヤバい笑顔を浮かべているのに、2人はまだ気が付いていないようだ。



 ミーシャが指鉄砲の構えを取った。



 そういえば一度も使っていなかったな。



「良いじゃないの2人とも、それじゃああたしも、もう一段階上げるわ」



「へ? うわ顔こわ! あなた聖女が浮かべちゃいけない顔……その構えはなによ?」



「……スピカさん、私イヤな予感が――」



 ウルミラが言い終わるよりも早く、ミーシャから神だまが発射された。



 神だまは2人を通り抜け、観客席の結界に直撃して爆発を起こした。

 なんだか強化されているような気がするけれど、一体何を組み込んだのやら。



 発射された神だまを呆けた顔で見ていた2人だけれど、スピカが息を吐き、大きく口を開いた。



「アヤメ説明!」



「ついに呼び捨てしだしたわよあの星の聖女。まあいいけれど――神だま。つまりイルミナグロウね」



「何がつまり(・・・)よ! 他者への生命力譲渡がどうしたら破壊力のある砲弾に変わるのよ!」



「竜砲より連射が利くわ」



「誰が利点を聞いたのよ! この獣ども! 少しは真っ当に聖女と女神を務めなさいよぉ!」



「……何で俺罵倒されてるのかしら?」



「ミーシャさんはアヤメの聖女ですからね。スピカさんがアヤメとも仲良しになってわたくしも嬉しいです」



 ルナちゃんが嬉しそうで僕も嬉しい。

 しかしあの聖女様、随分ツッコみが板に付いてきたな。



「さぁスピカ、ウルミラ、次はどうやって切り抜けるつもりなのかしら? またあたしを驚かせてみなさい。またあたしを昂らせてみせなさい」



「言っていることが狂戦士だって自覚しなさい! もう他に隠していることはないでしょうね!」



 フォーチェンギフトと大教会については黙っておこう。きっと彼女発狂して頭の血管がぶ千切れる。

 僕もルナちゃんもアヤメちゃんもスッと目を逸らした。



「……あの、降参してもいいかしら?」



「あ、私もです」



 僕たちの反応を見て、スピカが笑顔で手を上げて降参を宣言した。

 まあ、ここまでだろう。



 ミーシャが不満顔をしているけれど、そもそも出発前の運動量ではない。



 僕は指を鳴らし、スピカとウルミラに盾を張ってやる。



「ミーシャも大人しくしてな。こっちはこっちで楽しませてもらうから」



「むぅ、もう少し暴れたかったけれど良いわ。リョカ、ヴェインはぶん殴ってやりなさい」



「あの俺何かしましたか?」



「あなたリョカの胸を掴んだじゃない。一度痛い目を見るべきよ」



 もうだいぶ痛い思いをしているのだけれど、ここは黙っておこう。



 さて、これで僕もこっちに集中することが出来るし、気兼ねなく2人と戦える。



 ヴェインさんもランガさんも嫌な予感がしているのか、顔を引きつらせて半笑いになっており、僕はアガートラームを増やして、さらに現闇の姿を消した。



「さあ、第2ラウンドだ。せめて一度くらいは攻撃を当ててくださいね」



 ここ一番の小悪魔笑顔、この可愛さを次も見られるように2人には頑張ってもらいたいと、願うのだった。

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